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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第参號 天稟のエニアグラム
62/63

弐頁目 あの国へ

 〜〜神政法国エルザディア〜〜



「ラスト一本ッ! 気張ってくよ!」



 眩い光差す空の下、

 うら若い女学生の声がグラウンドに響き渡る。

 しかし彼女たちの手に握られているのは

 ラケットではなく、槍や盾。

 空中を飛び交うのはボールではなく

 魔力の弾丸と実体のある小さな矢。


 これは五対五の対戦型競技。

 その名も『宝玉戦線(オーブレイド)』。

 西側の国で今最も盛んなスポーツだ。



「バッファー遅い! もっと早く!」


「シューターも足動かす!」


「トラップ抜けた! カバーッ!」



 部活動に励む青春の声は咲く。

 ここは神政法国エルザディアの一角。

 緩やかな丘陵の上に佇む巨大な学び舎。

 名を――『ファレノプシス女学院』。


 エルザディア教の三本柱、

 即ち慈愛、正義、知恵を教育理念に掲げ、

 貴族家門や高位聖職者の娘たちが集う

 名門校として知られている。

 学業はもちろん、馬術、音楽、芸術、

 果ては周辺国での奉仕活動に至るまで、

 清らかであることと気高くあることを

 求められる学院――いわゆるお嬢様学校だ。


 そしてそんな女学生たちの中には、

 世界に顔の効く彼女の姿もあった。



「――しまっ、ラルダが抜けたッ!」



 声と同時に太いランスを担いだ女が駆ける。

 立ち塞がる障害物も罠も抜き去って、

 敵陣地最奥にある巨大な宝玉に攻撃を当てた。

 直後、試合終了を告げる鐘が鳴り、

 チームメイトが彼女を囲んで褒めちぎる。



「流石ですラルダ主将(キャプテン)!」


「ふーっ……ええ、ありがと

 貴女たちも練習すれば出来るようになるわ」


「はい! 今までありがとうございました!」



 女学院での最後の部活を終えて

 ラルダとその同期たちは競技場から去る。

 渡された花束を優しく抱き締め、

 彼女は豪華な装飾の柱が並ぶ道を進んだ。

 するとふと、柱の陰に何者かの姿が浮かぶ。


 現れたのは薄い緑の短い髪を

 後ろで小さく三つ編みにした女の聖騎士。

 ガードの薄い肩にケープ状の白い肩布をした、

 どちらかと言えば修道女らしき女だった。

 その女はまるでラルダの姉か母かのように

 にんまりと明るい笑顔で彼女に手を振る。



「ラルダちゃーんお疲れ! 迎えに来たよ」


「ラリマーさん! わざわざ良かったのに」



 エルザディア聖騎士団。外交筆頭。

 慈雨騎士マリオン・ラリマー。

 ラルダのような強者揃いの団内で

 主に外務、調停、戦後処理を担当する騎士だ。


 二年前の帝国万博の際は

 団長ラルダと枢機卿アメルが出席したので

 彼女は本国に残る事となっていたが、

 その後の調停には一役を買い

 戦後の混乱を未然に防いだ功もある。


 聖騎士団を組織として成立させる、

 寮母が如き縁の下の力持ち。

 前線に出る事の多いラルダにとって

 或る種、頭の上がらない先達だ。



「いやーそれにしても

 ラルダちゃんも遂に卒業かー早いねー!」


「私からしたら『ようやく』ですよ

 これでようやく聖騎士団の業務に専念できる」


「あぁ()()()()ってやつね!」



 聖騎士団長ラルダ・クラック。十八歳。

 あまりにも若い彼女が二年前時点で既に

 団長としての絶大な権力を保有出来たのには、

 幼少より研ぎ澄ませてきた実力以外にも

 ある一つの仕掛けがあった。


 それこそが『聖戒継承』。

 エルザディア聖騎士団における特例措置。

 かつて魔王軍健在の戦時中において、

 未熟な騎士を暫定的に団長にする必要が

 生まれた際に設けられた契約だ。


 この神聖契約を結んだ者は

 本来の任命儀式や審査を後回しにして

 即時に団長権限を与えられる。

 そしてその対価として、何か一つでも

 団長として相応しくないと判断された瞬間、

 全権限が即時剥奪される。

 言わば現在進行系の団長育成プログラムだ。



「あと残ってるタスクは?」


「基礎学歴は今回でクリアしましたから

 残る必須要件は聖務遂行実績が七回分と、

 あとは教皇庁への定期報告が一年分です」


「うへー、長いやつだ!」


「日々緩みなくこなしていくだけですよ」


「ラルダちゃんは宿題早めにやるタイプだね」



 そう笑うラリマーと共に馬車に乗り込み、

 ラルダたちは聖騎士団の本拠地、

 オルデン=サンクト聖礼堡を目指す。

 しかしその道中、突然ラリマーは

 膝の上に書類の束を置いた。



「なんですそれ?」


「外部非公開の監査案件

 私の所に来るのは国外の未公開情報だね」


「今やるんですか?」


「あたしは宿題溜めちゃうタイプだからねー

 ごめんねー、少し目を通すだけだから!」


「なら尚更私の迎えは良かったのに……

 貸してください、手伝いますよ」


「あー良いよ良いよ!

 むしろ息抜きしたくて出て来たんだから

 お話してた方がむしろ助かる」


「ミスしますよ?」


「右目は仕事して左目でお話するから

 これ私の特技! 作業効率が倍増するよ」


「! 優秀な聖騎士になるにはそんな技能が!」


「……ごめん冗談。本気にしないで」



 ラリマーの外交筆頭としての仕事は莫大。

 魔物も減り人界での仕事が増えた昨今では

 むしろ彼女のような騎士こそ必要とされる。

 だがラリマーは事前の宣言通り、

 書類を精査すると同時に会話を続けた。



「そういえば進学はしないの?」


「え?」


「あれ? 確か推奨要件の方にあったよね?

 大学またはそれに相当する教育機関の卒業」


「あぁ、推奨の方は取る気ないですね

 魔物討伐実績はその内取れそうですけど」


「ひゅー! バトルジャンキー!

 でもそっかぁ……それは勿体ないねー」


「え、『勿体ない』ですか?」



 心底分からないといった様子の少女に

 先達の女性は僅かに驚き、そして項垂れる。

 ぐへー、と腹の底から空気を吐き出し、

 書類の束に体を押し当て呆れ返った。

 かと思えば、狼狽えるラルダの頬を摘まむと

 ラリマーは揶揄う様子で釘を刺す。



「青春は今だけだぜ?」


「はぁ……」


「ありゃ? 刺さらなかった?」


「いえ、女学院と何が違うのかなと……」



 その言葉に更に触発されたのか、

 ラリマーは進学の利点をこれでもかと語る。

 別の職に就く友人を持っておくと将来役立つとか、

 或いは飲み会での立ち回りが身に付くだとか、

 公私合わせた複数の角度からのプレゼンだった。


 がしかし、ラルダにはイマイチ響かない。

 父を喪った幼少の時分から

 現教皇に聖騎士として育てられた彼女には、

 団員として働く以外の全てが邪魔に思えていた。



(時間を無駄にはしたくない)


「……ま、無理強いする物でもないか」



 外交筆頭は見切りも早い。

 ラルダの説得が無理だと判断すると

 彼女は再び書類の束に手を伸ばす。



「さーて残り三割がんばるぞー!」


(早っ……ホントに並行処理してた)



 若人との会話を終えて

 更に有能文官の処理速度は上がる。

 ラルダの瞳はその速さに釘付けになるが、

 彼女の動体視力はふと異常を検知する。



(え? 今の――!)



 思わず伸ばした腕がラリマーと触れ、

 書類の束が馬車の中でふわりと舞った。

 仕事を妨害された形の慈雨騎士だったが

 驚きの後に来たのは苛立ちではなく

 ラルダを気遣う確認の言葉だった。


 が、ラルダはそれにも上手く反応出来ない。

 彼女は奪い取った文書をじっと見つめ、

 その書類に添付された白黒写真を凝視した。



(なんで……ベリルが!?)



 其処に写っていたのは

 彼女が今最も注目している魔物であった。



「……ラリマーさん」


「ん? どしたー?」


「今からって、間に合うかな?」



 ~~オラクロン大公国~~



 遥か西でのラルダの動向など露知らず、

 公国では既にベリルの試験勉強が始まった。

 期間は約一年。目標は合格基準の得点率六割。

 だが現在の学力では三割に届くか否か。

 故に今は地獄の特訓期間。

 家庭教師は志望校卒業生のアクアだ。



「これは明らかに隣接三項間の漸化式だな

 問題文がもうそれを使えと言っている」


「?」


「利用する公式は勿論覚えているよな?

 移項で出るから別に覚えなくても良いが」


「??」


「次はΣとlogの大小比較……どうせ差だろ?

 なるほどn-1個のloga2。Σに纏め……良問だな」


「???」



 ページをめくる度に絶望が広がる。

 ベリルの課題は明確で、

 彼は確かに工学に関する知識と経験だけは

 そこらの学生よりも遥かに上だったが、

 それ以外の全てが基準に達していないのだ。


 元々教職でも何でもないギド一人を

 講師としたこれまでの学習では、

 得られる知識にも偏りが生まれて当然。

 特に人類が歩んだ歴史の問題が壊滅的で

 得点がイマイチ伸びない原因でもあった。



(錬金学史、魔術史は本来ボーナスステージだが

 これは足を引っ張らない程度で諦めるか……)


「ふぅぅ……」


「疲れたか? かれこれ六時間だもんな

 よし、ちょっと休憩にして――」


「いや、やろうアクア!」


「……!」



 熱意の正体は報復の意思。

 アクアは魔物を突き動かす激情を

 その深緑の瞳の奥に垣間見た。



「ベリル……」


「ここが踏ん張りどころだ!」


「そうか。俺は疲れたから休むぞ」


「あれ?」



 講師が消えて一人となり、

 ベリルは暇を潰すように前の項を指先で捲る。

 するとそんな彼の背中から

 いつもの貼り付けた笑みでギドが語り掛けた。



「どうですか進捗は?」


「厳しめ……そっちは?」


「はて、私何かありましたっけ?」


「復讐計画だよ、ちっとも教えてくれない奴」


「あぁなんだソレの事ですか」


「『あぁなんだ』って……

 僕もうすぐセグルアに行っちゃうよ?」


「ですね」


「向こうで、多分暴れるよ?」


「前にも言いましたが、やりたければどうぞ」



 ギドは基本ベリルに対して過保護だ。

 もう何年も前に渡された無力なお守りも、

 未だに外出の際は持ってるか確認してくる。

 だが復讐計画に関しては最近放任気味だ。

 どう動かれても問題無しと言わんばかりに、

 或いはベリルなど無関係と言わんばかりに。


 それがベリルは溜まらなく不快だった。

 今は一秒でも早く行動したいのに、

 大事なものを忘れてしまう前に

 この燃える思いをぶちまけたいのに、

 頼みの綱のギドはベリル目線、

 何の役にも立っていない。



(もうギドはやる気ないのかな?)


「ただし――」



 張り付けた笑みをギドは捨てる。

 瞬間、周囲の温度が数度は下がり、

 ゾッと青ざめるような魔の物の気配が

 どんよりとした霧となってベリルを包む。

 思わずギドの方に目線を持ち上げてみれば、

 いつになく真剣な眼が彼を見つめていた。



「ただし、より最高の形を望むのなら

 あなたはまだ人間社会に潜んでください」


「より、最高の形?」


「ええ。計画の全貌はお話できませんが、

 私には同時並行する二つのプランがあります」



 ギドの語る二つのプランとはすなわち、

 主軸となるメインプランと、

 それが頓挫した場合のサブプラン。

 そして「好きに暴れても良い」と宣うのは

 実はこのサブプランが既に

 実行可能段階に入っているからだという。



「え、じゃあもう――」


「ですが、やはり狙うべきはメインプラン

 あわよくばで欲しかった計画の部品は

 私の想定外な形で揃いつつあります」


「……!」



 ギドの視線に釣られて

 ベリルはアクアの方に目を向けた。

 彼こそメインプラン完遂に必要な部品。

 まるでそう言いたげな視線であった。


 否、きっと彼だけではないのだろう。

 帝国万博においてギドは

 ベリルに人間の友人を作るよう命じた。

 アクアはその宿題の成果物であり、

 また彼以外にもチョーカ帝国の地では

 数多くの出会いをした。


 それらはベリル目線から見ても

 プラスの要素を多分に含む。

 ギドが目論む人類への復讐計画とやらは

 どうやら気付かぬ間に進んでいるらしい。



(ぷっ、なんだそうだったのか)


「なので、暴れるのはまた最終手段に――」


「――でもチャンスがあったら()()から

 セグルアだけは、どうしても……」


「……! そーですか」



 やれやれと溜め息を吐き捨てて、

 ギドはその場を立ち去った。

 再び残されたベリルだったが、

 今度はもう決意に満ちた声を吐く。



「やるよ! アクア!」


「早くね?」


「良いから! さぁ――」



 ~~~~



 セグルア最高学府の合格率は一割未満。

 魔導理論と機工学の両立が難しく、

 一般学生であれば留年前提の超難関校だ。

 それをベリルは一年で踏破する予定。

 特別枠があっても容易ではない。



「全問正解を目指そうと思うな!

 得点効率の良い問題を数秒で見極めろ!」



 故に苛烈なその道は余分を切り捨てる道。

 武器となる機工学で大量得点を狙い、

 各科目でのボーダーラインを下げる作戦。

 総合点による合格を狙う。



「とはいえ最低点は可能な限り上げていけ!

 プラスにはならずともマイナスにはするな!」



 同時期には、聖騎士団長ラルダもまた

 長い時間を机に向かっていた。

 手にしていたのは機工学に関する教材。

 隣にはその手に詳しい部下のレオナルド。

 そしてラルダの向いの席で

 同じく山積みの教材に向かうアイリスがいた。



(ねぇレオ? なんで団長は

 いきなりこっちに参加してきたのです?)


(さぁ? 機工学の良さに目覚めたとか?)


「二人とも、口より手を動かしなさい!」


「「す、すみません!」」


「それとレオナルド。これの解説をお願い」


「うす! え、いやこれさっき解説した……」


「もう一度、教えて、ください」



 彼ら彼女らと同じように、

 今世界各地ではセグルアを目指す競争が続く。

 今年から始めた者、去年からの者、

 或いはそのもっと前から挑む者。

 多種多様な状況の若人が、

 寝る間も惜しんで学に勉む。



 そして――



「それでは試験開始です」



 世界各地の会場で、

 一斉に問題用紙の捲る音が響く。

 ベリルもまたその内の一枚。

 これまでの勉強の成果をぶつけ、

 魔物の仔は試験問題を解いていく。



(一行のみの単純な設問。だからこそ難解!

 まずは適当に代入して法則を見つける!)



 また彼の近くでは

 彼と同様に試験に挑むアクアの姿もあった。

 既に一度最高学府を卒業した彼だったが、

 ベリルのお目付け役、或いは共犯者として

 今回再びかの學園の門戸を叩く。

 が、意外にもその顔は険しい様子。



(魔界封鎖監理庁(通称『MEA(メア)』)が昨年

 発表した「旧魔界領域観測報告書」において、

 新たに確認された現象として正しいものを選べ

 ……やっべ抑えてない時事問題だ)



 同時刻、別会場ではラルダの姿もあった。

 あまりにもビッグネーム過ぎる彼女の到来に

 試験官も他の受験者も萎縮してしまっているが

 最も緊張していたのは当の本人に違いない。

 彼女はベリルやアクアとは違い、

 機工学も魔導理論も付け焼き刃なのだから。



(ここはあの公式にあてはめて、出た!

 答えは『三分の二かけるrの三乗』!

 選択肢の中に――無い!?)



 準備期間は果てしなく長かったのに、

 それに見合わないほど試験時間は短い。

 あっと言う間に全ての試験は終了し、

 そしてそこから一ヶ月足らずで、

 全ての受験生に結果が通達された。


 ここオラクロンでもそれは同じ。

 魔物の仲間や親衛隊の人間が見守る中、

 オラクロン大公オスカーは

 封筒に入った二人の結果を一瞥する。

 そして――



「フン。代案を弄する必要はなくなったな」



 ――遠回しな合格の知らせに

 仲間たちは飛び上がって歓喜した。

 その輪の中でアクアは胸を撫で下ろし、

 次いで放心しているベリルに声を掛けた。



「おい、なに呆けてる?」


「――!」


「これからだろ? 本番は」



 目線の同じ友人というのは心強い。

 そう実感してベリルは俯く。

 共にセグルアへの復讐を誓った少年。

 その懐に入るという、第一段階は完遂した。


 次に目指すは内部からの破壊工作。

 頼れる大人は近くにいない。

 子供だけの不穏な企図。



 ~~セグルア国内・とある駅~~



「ではベリル。ちゃんとお守り持ちましたね」


「この白い宝石の付いたアクセサリーでしょ?

 貰ってからもう十年以上付けてるけど

 一回も役立った事ないよ?」


「お守りなんて大なり小なりそんなものです」



 元も子もない発言と共に背中を押し、

 ギドはベリルをホームへと追いやった。

 魔導大国セグルアとその周辺国には

 ベリルがいた頃よりも更に高度に発展し、

 三年前は万博の一部にしかなかった鉄道も

 この近辺では既に実用化までされている。


 セグルアの首都に繋がるこの駅もその一つ。

 地形上、外国から来る学生は全員此処を通る。

 混雑を避けるよう時間差をつけていても、

 其処にはあまりにも多くの人で溢れかえる。



「ここに居ては邪魔のようですね、ガネット殿」


「そのようです。ではベリル殿、アクア殿」


「うん」


「なんすか?」


「これは大公のお言葉ではなく私個人の意見

 我々はここで退散となりますが――」



 ガネットは言葉を溜め、そして放つ。



「――次に会った時、

 君たちがどんな成長をしているかが楽しみだ」



 それは同僚としてでも、

 大公の懐刀としてでもない、

 純然たる一人の大人としての意見だった。


 しかし当の少年たちはそれを

 大して深くは受け取らず、

 鳴り響く汽笛の音に急かされて

 挨拶もそこそこに手を振った。



 ~~セグルア特急・7号車~~



 特急列車は十両編成で、

 現在は學園関係者の貸し切り状態。

 故に車内の年齢層は比較的若く、

 新学期に弾む青い声が響いている。


 そんな廊下を抜けてベリルたちは

 壁に仕切られた個室のような座席を探す。

 彼らに割り当てられた指定席があったのだ。



「Gの六、Gの七、あったここだよ」


「既に誰か入ってるな。仲良くしとこう」


「え? 本気……?」


「最高学府は友達ゲーだ

 一人で必須単位が取れると思うな」


(ちぇっ、まあいいか……)



 特殊な立ち位置、出会い方ではあったが、

 アクアという人間の友人を得た事で

 ベリルは今までよりも更に

 人と過ごす事への拒否反応が薄れていた。

 故に彼は軽い気持ちで扉を開ける。

 スライドされたその先で、

 相手もまた彼らを見つめて驚愕した。



「――!? これはびっくり

 今までよりずっと神様に感謝しなくちゃ」


「「は?」」



 其処にいたのは

 長い足を組んでファッション誌を読んでいた

 カジュアルな格好の若い女性。

 ウルフカットの黒髪に赤い眼鏡を乗せた女。

 セグルアの學園に向かう表向きの理由として、

 絶対に避けたかった恐怖の象徴。



「「ラルダ・クラック!?」」


「見つけたわ。ベリル!」



 後のベリルの人生を大きく変える、

 學園生活はこの時から始まった。

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