キリエ レクイエム(Kyrie Requiem)3
コンコン
控えめながらも確かに聞こえるノックに翔太は体の向きを変えた。
「キース様がお見えになりました。」
つづけられたメイドの声に
「どうぞ」
と言うと少し軽そうな雰囲気を持つ、エルザの副官が扉の奥から姿を現した。
「どーも、翔太さん。何も不便にしてませんか?」
「いえいえ、紅茶淹れたり勝手にさせてもらってます。」
キースは言われて気づいたように目線を下げると疑問の声を発した。
「なんでカップが2つあるんで?誰か来ましたか?」
その言葉に直しておけばよかった等と冷や汗をかきつつも
「ただの気まぐれですよ、気まぐれ。」
と返す。
その反らされた目に若干の不信感を漂わせながらも、ふっと肩の力を抜いたキースは続けた。
「まあいいですけどね。そんなことよりもエルザ様からそろそろ支度が整うから着替えてほしいとのことです。」
着替え?そもそも何も聞かされてないのだが
そんな翔太の心情を読んだようにキースは
「あーやっぱりそうか。今から食事会を含めた作戦会議があるんですよ。国王正規軍以外から集まってくれた組織に対する謝礼もあるんですよ。」
キースは一旦そこで言葉をきり、少し退屈そうな目をした。
「やっぱり面子って大事ですからね。正装しなきゃいけないので、服は持ってきたんでいいですよ。サイズがあえばいいけど。」
そういわれて翔太が自分の格好をみると、町で適当に買った服と見た目で気に入った極薄の皮のコートぽいものだ。
確かにこれで国と国の話し合いのような場にでるのは少々ラフ過ぎるだろう。
「だいたいわかりました。その会はいつからですか?」
「まだもうちょっと時間あるんで大丈夫ですよ。」
ニコニコしながら言う彼にやっぱりフレンドリーな人だなぁと思う。
「これ、どうぞ。」
「あ、それが正装なんですね。」
と結構厚みのある白い正装を渡されると、その細かく施された金の刺繍に感嘆する。
「ああ、そうそう」
その急に真剣味をましたキースの声に顔を上げると少し開けられたキースの目がまっすぐに此方をむいていた。
「明日の侵攻、有るじゃないですか。」
「・・・」
「魔族軍ともなれば相当な強さの敵もいると思うんですけどエルザ様、多分犠牲を増やさないために突っ込んじゃうと思うんですね。小さいときから近くにいたもんだらわかっちゃうんです。」
焼かれた村で見たエルザの厳しい表情を思い出した。
確かにエルザならやってしまうだろう。
「エルザ様は充分強いです、けどそこに信念の強さは含まれていても心の強さは含まれていない。だから翔太さん、身勝手とは思いますけどエルザ様を守ってくれませんかね。」
翔太はつい軽く頬に笑みを浮かべてしまった。
「翔太さん?」
「当然じゃないですか。頼まれなくてもやりますよ。」
キースの意外な真面目さとその真摯さに敵わないと思って笑ってしまった。
「僕は我が儘なものですから守りたいものの為にしか戦えませんよ。」
キースは少し驚いた顔をしていたが直ぐにいつもの表情に戻り、
「そうでしたか、なら杞憂でしたね。」
と軽い口調で言った。
しばらくして正装に着替えた翔太はキースと共に廊下を歩いて会場に向かいながらエルザの昔話を聞いていた。
「城から落ちた!?」
「そうですよ、攻められ難いようにここはちょっと高い場所にあるんですよね。そこの高庭でレディバを追いかけてた小さいときのエルザ様がそのはしっこから落ちちゃったんですよね。」
「よく大ケガしなかったなー。」
「そのときは自分もまだ15くらいだったかなー。奇跡的に城の装飾に引っ掛かって大きな怪我まではいかなかったですけ・・・」
「キ・ー・ス。」
反射的に背筋を正したキースは後ろから現れたエルザの冷たい声によって氷漬けにされた。
「またお前はそうやって私の醜態を・・・!」
「まあまあまあ、エルザそれよりキリカとどこ言ってたんだ。」
「ん?それは秘密だ。」
エルザとその後ろで頷いてるキリカはこの会議の為にドレスに着替えていた。
エルザは目や髪の色に映える赤のドレス、肩の辺りから背中まで大きく入ったカットにレースの手袋が似合う完全なお嬢様だった。
こうやって見ると完全に姫様だな。いつもいつも鎧ばかり着ていると忘れがちだがエルザは一国の王女なのだ。
エルザは此方が見ているのに気づくと少し顔をうつ向けた。
「ドレスはあまり好きではないんだ。動きづらいしひらひらするし恥ずかしい。早く鎧に戻りたいよ。」
「そんなことないって似合ってるよ。そのドレスもエルザが選んだの?」
「こ、これはキリカが選んだんだが本当に似合っているか?」
といぶかしげなエルザの後ろに隠れていたキリカが前に出てきた
キリカは薄紫色のドレスでそこまで華美な装飾は着いていないが胸の辺りに着いたドレスの色にあわせた薔薇といつもは隠れ目な小さな顔が際立ってとても似合っていた。
「ド、ドレスなんて初めてきました。」
キリカは結構歩きづらそう翔太の後ろまで来ると恥ずかしそうにため息をついた。
「キリカも似合ってるよ、ドレスは二人が相手のを選んだの?」
「そうですよ、エルザの部屋・・・というかエルザの屋敷に沢山ありました。」
「屋敷?」
「あんな迷子になるような広い部屋を部屋を呼ぶのはおかしいと思いまして、」
それを聞いていたエルザが
「私はあんな部屋や大量のドレスは要らないと言ったのだがな。」
と言った。
後ろでキースがやれやれと頭に手をあてているのを見て苦笑してしまう。
「しかしここで立ち話もなんだしそろそろ時間だから広間に入ろう。」
「ああ、そうだったな。広間はここか?」
翔太は一際大きい扉を指差すと
「ああ、そうだ。」
エルザ肯定すると同時に扉にいた衛兵が扉を開き始める。
中は王の間と同じくらい広く、見上げるほど高い天井から垂れ下がったシャンデリアの明かりのしたにはもうすでに沢山の人々がたちならんでいた。
その点在した丸い机に集まるただ者ではないと思える顔ぶれの中に見知った顔を見つけた翔太は小さく息を飲んだ。
「『自称』発明家!?」
その小さな音を聞き付けたように、彼は顔に笑みを浮かべた。




