キリエ・レクイエム(Kyrie Requiem)2
彼女の顔に浮かんだ色は全くといっていいほど無かったがその数少ない動きには確かになにかが含まれていた。
人間で言えば『動揺』ではないのなのだろうか。
ティーカップに再び手をつけ、口に近づけようとしてやめる。
「理由は前言った通りよ。そこは変わらない。」
彼女はまた顔に違う色を漂わせながら目を細めた。
「世界の上の駒は白と黒、同数じゃないと。」
ゲームにならないでしよ、と彼女は。いや、『神』は答えた。
「この侵攻自体には関与しているのか?」
ここまで来ると色々なことが怪しくなっていく。
何が白で、何が黒なのか。
彼女は笑みで誤魔化す(無表情だが)ような仕草をすると。
「直接はね、けど貴方も『人間』ではないのだし。面倒くさいことに関わらず。好きなことをして暮らしていいのよ。」
そこでふと大きくため息をついてしまう。
とりたくも無かった確証がとれたために。
しかしそれよりも
「冒険者組合にいくように指示したのもこの国の王女と会うような位置に転移させられたのも全部計算ずみなら。そのつもりは無さそうだけど。」
彼女はその無表情を解いて困ったように微笑した。
「これは本心、望むように生きてほしい。」
そして改めて此方をむくとその表情はまた完全な鉄仮面に戻っていた。
「けど『人間』じゃないといったのには驚かないのね?」
「まあ・・・ね。」
翔太はもとの世界では普通の人間だった。
多少料理バカではあったが平均的な感性を持っていた。
そんなぬるま湯に使っていた『人間』が、自分には力があるとわかっていても化物と戦えるだろうか。
否だ。恐怖で取り乱すのが普通だろう。
キリカの時もエルザが狙われていたのに冷静なまま最善の行動をとった。
もし、ただ狙ったのが普通の暗殺者だったらどうだろう。
自分は『 躊躇』できたのだろうか。
恐怖がない。
人間味がない。
喜怒哀楽の感情が変わってないだけに不気味だった。
ここまでは疑問でしかなかった。
そしてそれが確証になったのはここに来てすぐだった。
呼吸をしていない。
息を止めようと思えばいくらでも止めれるし、普段は口を動かしていないことがある。
この世界の人間はそうなのかと思って会う人を見ていたがそんな人間は一人もいなかった。
外は薄い闇が覆い、微かに星が見え始めていた。
向こうじゃろくに星も見れなかったのにな、
「怒っているか?」
彼女はあくまで平坦に興味本意に躊躇なしに言った。
「まさか。」
翔太は苦笑した。
「生きていられるだけで充分だ。確認しただけ。」
逆に言えばそれだけだ。
見た目も変わらないし、不自由もない。美味しい物を食べたら美味しいし、料理だって作れる。
でも、それは魔族も同じなのかもしれない。
それでもあの村の惨状を思い出せば『人間』の感傷が蘇ってしまう。
彼女は、神は、アズリエルは、いつの間にか此方の目を覗きこむようにしていた。
その奥にある心をみるように。
「それでもなお、この戦いに参加するの?」
「そうだよ。言われた通りに、貰った力で好き勝手やらせてもらう。ついでに好きなことも」
「君の『選択』見届けるよ。」




