キリエ レクイエム(Kyrie Requiem)
「翔太殿、先程言った通り少し貴賓室で待ってもらっていていいか?」
エルザは最初にそう切り出した。
「構わないけど貴賓室の場所はわからないぞ。」
城はまるで迷路のように同じような通路が存在していて恐らく適当に曲がるだけで帰ってこれなくなるほどだ。
「そこはメイドに任せるし、後からキースを向かわせるから大丈夫だ。そこまで時間はかからない。」
エルザは少し遠くを見ているように焦点が僅かに合っていなく、深く考え事をしているようだった。
「私も終わったら翔太さんのところにすぐにいくので大丈夫です。」
と、どちらが年上なのかわからないような台詞をキリカが言うが、実際はまだ不安なのだろう。
彼女はまだ世間なれしてなく、買い物などで一緒に市に出ても側でかたまっていることが多く、あまり外にも出たがらないようだった。
キリカの強さ(レベル)なら外でも危害が加えられることなんてないと思うが彼女の心は違う。
あの年の少女には重すぎる業を背負い続けているから。
「貴賓室までこの方を頼む、支度などは自身で出来るから最低限でいい。」
静静と気配をたちながら後に従っていたメイドは大きく一礼をした。
「かしこまりました。では、此方に。」
丁寧に手を向けるとゆっくり先導を始める。
「翔太殿、何か不都合があればこのメイドにいってくれ、部屋の外で待って貰う。」
エルザの瞳は伏せがちだったが考え事は終わったようだった。
軽く笑みを浮かべて顔を正面に戻す。
やはり暗いのは性にあわない。
「わかった。まあ、ゆっくり時間を潰すさ。」
柔らかなカーペットに足を沈ませながらメイドの後に続いていった。
「此方が貴賓室でございます。」
丁寧に礼をしながら説明する。
「ご用件があるなら何なりとお申し付けください。」
「わかりました。ありがとう。」
と労いをしながらも今、本物のメイドに何なりと・・・とか言われているなー。
と思うと妙な感慨がある。
「ティーカップ等は勝手に使っても?」
「構いません。しかし、そうならばお淹れしましょうか?」
「そこまでは大丈夫です。」
普通の生活を前の世界でもしてきた翔太にとってはなんでもかんでも他人任せというのは気分がかまりよくない。
そんな翔太の心の内を読んだように彼女は、それ以上なにも言わずに
「では失礼します。」
といって荘厳なドアの音とともに退出した。
「顔に出てたかな。」
社会人失格だなー。と頭をかきながら案外メイドに必要な要素にそれも含まれているのか、と考えもする。
白磁に金のティーポットに茶葉を入れたりしながらを外の風景を眺める、西欧的な噴水のある庭園に、かたどられた木がならんでいて一枚の絵の中のようだった。
茶葉は二人分、文字通りの魔法瓶からお湯を出して紅茶を作る。
ティーカップとコースターを2つ敷くと長く息を吐く、
昨日からあまり休憩を取っていなかったので精神的に疲れていたのだ。
この体になってから疲労や筋肉痛とは無縁だったがそこまでは無理なようだ。
これからのことや、ミーナのことなど気がかりなことは沢山あるがまずはこれだろう。
翔太は自身の前の空間をスライドさせるとステータスが現れる。
そのなかのヘルプを迷わず押すとステータスが半透明の液晶画面のような物に変わる。
大量の本棚しかみえなく、果てがないその部屋で、アズリエルはあまりにいつも通りに座っていた。
「またしばらく連絡なかったわね。」
「・・・」
「まあ、いいですけど。そんな気にしてないし。」
神なのに人間よりも人間のような反応をするアズリエルに唖然としてしまう。
相も変わらず無表情でツンデレ(という名の死語)をやってる彼女をみて、少し安心したあとに此方から口を開く。
「まあヘルプを押したんだから困ったことがあるんだけど。」
ここで一旦言葉を切ってアズリエルの目を見つめる。
「一回こっちに来てくれないか?そっちの方が話し安い。」
「?いいけど。」
無表情のまま首をかしげるアズリエル。
此方から見ると液晶画面の端に手を掛けてするりと次元を越えてきた。
・・・やっぱり神様ともなるとこんなにすんなり出来るんだな。
派手な魔法陣も魔法詠昌もない。
我が身を棚にあげてそのチートぶりに感心したあと、ティーカップを一つアズリエルに滑らせる。
カタッと音を立ててソーサーから離れたカップは華奢な腕に上げられ、唇まで運ばれていく。
「美味しいわ。」
「それはどうも。」
「それで話はなにかしら?」
本当に美味しいと思っているのかもわからない鉄仮面に難儀しながやも翔太もティーカップを上げる。
「今、この国に魔族の軍勢が迫っているんだけど。」
彼女は無言で先を促した。
「俺がここに転生させられたのってこれの為なのか?」
アズリエルの目がほんの僅かに細められた気がした。




