集いし者への四重奏(カルテット) 2
聖主国の貴族家、グラディウス家にあるとき一人の子供が生まれた。
その親から引き継がれた翡翠色の目からとって名前はジェイドとなづけられた。
彼は様々な才に恵まれ親の希望によってたくさんの技術を習わされた。
そんな神童の異常性があらわになり始めたのはまだ幼い十一才の頃だった。
「あら?静かですわね。」
ジェイドの母は優雅に首をかしげた。
飲んでいた紅茶を受け皿におき、なんのなく風景を眺める微睡みの時間を終える。
「この時間帯でしたら剣術の稽古をしてるはずですのに」
いつもこの時間帯になるとカンカンと鋼のぶつかりあう澄んだ音が響いているはずなのだが
ジェイドは特に剣術の稽古に熱心だった。
刃のない重たい訓練用の剣を暇があればいつもふっていた。
「先生を困らせてないといいのだけど。」
長いガラス張りの大理石の廊下を歩き、手入れのされた草花の中に我が子を探す。
いつも稽古している中庭に歩いていくと剣をつきつけているジェイドを見つける。
「ジェイド!?何してるの。」
沢山の貴族の子供に教えている優秀な先生という触れ込みで雇った貴族は腰が抜けたかのように座り込み首筋に剣をつきつけられ震えていた。
「大丈夫だよ。お母さん、けど聞いて!初めて勝ったんだよ。」
まだ十一才の少年はニコニコと無邪気に笑って大きな剣を首につきつけていた。
「僕はお父さんが言ってたみたいに全員を守れる人になるんだ。」
ジェイドの父は厳格な人でよく理想の人物像についてかたっていた。
先生の貴族が手を抜いた・・ということも無さそうだ。
彼は化け物でも見るような目でジェイドのことを見ていた。
その見開いた目は剣の切っ先を見つめ呼吸を大きく荒らしている。
剣に秀でていると言うことは聞いてはいたがこれほどまでとは思っていなかった。
「凄いわ!ジェイド。そんな年で大人に勝っちゃうなんて」
笑ってはいるが感情の籠ってない瞳に微かな悪寒が込み上げてきてしまうが、それを無視していつものように誉める。
ジェイドの全てを肯定する。
端から見ると滑稽な中庭の風景。
しかし本人たちに喜劇を踊ってるという自覚はない。
ーー子供のころの僕は考えにとりつかれていた。
いや、今でもそのままだったかもしれない。
彼女がいなければ。
十五歳になり王国との会談の際、父に連れられて王城の庭にいた。
母の仕立てた礼服をきて挨拶にまわったが流石に会議の場にはおれず、待合室でじっとしているのにも飽きたのでベンチに座ってゆっくり庭の景色を眺めていた。
ため息をひとつつくと風に揺れて少し気持ちが静まってくる。
「おい、そこは私の定席だぞ。」
突然声をかけられて腰を浮かせるといつの間にか後ろに同じくらいの年の帯剣した少女が腕を組んでたっていた。
「え?ああ、ごめん。」
ここの城の関係者だろうと思い、ベンチの席を譲ると少女はどっかりと座ってさっき自分がしていたように景色を眺め始める。
改めて見るその横顔は可憐で、とても快活そうだった。
しかし今は眉間にシワがよっており、不機嫌そうな面持ちを隠さない。
そのまま風景を眺めて幾度も優しい風が吹き抜けるうちに知らない人ならば、と思い切り出した。
「少し、悩みをきいてもらっていいかい?」
何故そんな気持ちになったかは知らないが無言を承諾としていつも自分の行動原理になっているものを話す。
「僕はなんで自分が頑張ってるかわからないんだ。」
飽くまで大真面目に僕は言った。
「?」
困惑した顔を向けられるが構わずにつづける。
「親に言われたことを守ってこなして、剣をふって、そんなことをしてるだけで僕自身は空っぽなんだ。」
受動的に努力をして喜びのないままこなしてしまう。
楽しみのない
無気力の満ちた
外面だけの自分。
「僕は本当は何をすればいいんだろう。」
下らないと思われても仕方ない、笑われるかも知れない。
しかしジェイドの心は一杯一杯で今にも破綻しそうだった。
「化け物だ。」
「化け物!」
「この化け物め!」
今でも声が追いかけてきている気がする。
好かれようと、わかって貰おうとする努力はいつでもその言葉で締め括られた。
どんな人でも好意的に近寄ってきては恐怖を顔に浮かべて離れていく。
「私はお前が苦手だ。」
不意に出てきたことばに驚き、思わず横を向いてしまう。
みんなとは違うあっさりとした否定。
「あったばかりなのに悪いのだが言葉を飾るのが不得意でな。」
ただ、何をしても誉められるか化け物をみるような目をされるだけの繰り返しで、そんなことを言われたことはなくて、
初めて『自分』という殼の中を見てくれる人にあった気がする。
「しかし、相談されたのだから答えておこう。」
間をとった後に少女は真面目な顔で答える。
「私は守りたいものを守るために剣を振るう、お前はそうではないのか?」
少女は当たり前のように言った。
「僕の・・守りたいもの。」
「自分が何をしたいかわからないなんて贅沢な悩みもいいところだがな。」
「それを言われると何も言い返せないよ。」
ジェイドは苦笑すると少女の迷いのない目を見る。
それは眩しくて、根無し草のように流される自分とは明らかに違った。
「なりたい自分になればいい、なりたい自分がないなら作ればいい。材料はそこら辺にでも転がってる。」
僕は貴方のようは心の強さが欲しい。
貴方と同じ領域に立ちたい。
初めてあったこの少女はジェイドが知る誰よりもまっすぐで誰よりも輝いていた。
貴方と並べるような力量なんかではない本当の『騎士』になる。
そんな『なりたいもの』を目指すなんていうのは悪いですか?




