ログハウスにて 2
翔太はガルドの口にゆっくりと運ばれていく寿司をじっと見ていた。
ガルドはその性格には似合わないほど上品に寿司をつまみあげ、醤油が垂れないように食す。
他の二人も見よう見まねで口に運んでいく。
そこまでを見届けてから翔太自身もゆっくりと食べる。
まず、舌触りのいいネタの新鮮な風味が口の中に広がっていき後から旨味がやってくる。
そしてそれを軽く噛みきると山葵のツンとするような辛さと酢飯のゆっくり解れた味が加わり更に味覚を刺激される。
そして山葵が消えた後にくる旨味は先程よりも鮮明になりそして溶けていく。
下手に後味が残らずすっきりと食べ終える。
その間僅か5秒と少し、しかしかなり長く感じられる美味しさ、また手を伸ばしてしまうような美味しさがでておりかなりの自信作と言えた。
「これは・・・」
ガルドは少し絶句したあと、口に手を当てる。
「あんた本当に何もんだ?これだけの物は宮廷レベルの料理はみたことない。しかもこんな料理の種類や調味料も。」
恐らく同じ料理人だったからわかったのだろう。
この料理に賭けた工夫も経験もそして気持ちも。
「まあ俺の故郷の料理だよ。結構得意なやつで調味料とかは再現だ。で、どうだった。」
「これは凄いもんだ。お前の言う山葵に似せたもんは初めてだったから驚いたがこれが味わつてみると確かに合う。」
そこでもう一度味わうように目を閉じた。
「こんだけの料理を作ってもらったんじゃあしかたねえ。俺も最高の料理を作らせてもらうぜ。」
店に採用してもらったときのような達成感をあじわいながら翔太はガッツポーズをする。
なんだか仲間を見つけたようでとても嬉しかった。
ガルドの称賛には言葉以上のものが込められているように見えた。
翔太も食べ終わって手を合わせているとちょうど二人も食べ終わったところだった。
「凄い凄いといつも思っていたが今回のは格別だな。特にこのリキュールフィッシュの物はとても美味しかった!」
うんうんというようにキリカは頷くと
「とてもおいしかったです。魚がこんなに美味しいとは知りませんでした。」
と同調する。その目は爛々としていて本心からの言葉と言うことがわかった。
「ありがとう。そのくらい言ってくれるとつくりがいがあるよ。」
やっぱり料理はいいものだ。幸せな人しか作らない。
こうやって喜んでくれるからこそ研鑽のしがいがある。
「俺が皿とかは洗っとくからあんたはそこで見てな。腕によりをかけて作ってやるぜ。」
ガルドは腕捲りをしながら手を洗うと皿を洗い始める。
「そのくらいやっとくよ。」
「いいっていいってもう何回したかわかんねえ作業だ。それに俺の皿だからな。」
その会話になんだか親近感を芽生えさせながらその作業を見る。
ガルドの大きな手は、驚くほど器用に手早く皿を洗っていく。
「さてと、俺も作り始めるかな。」
後ろの魔法道具らしき棚から食材をとりだしてくると竃の上に鍋をおき、熱し始める。
その慣れた動きに自分の働いていた店の料理長が重なった。
ニンジンっぽいオレンジ色の野菜を水洗いしたあとまな板におくとタンタンタンとリズミカルに均一に切り揃えていく。
その様子をみて翔太は確信する。
ガルドの料理の腕は前の世界でも充分通用するレベルだ。
こんな些細な野菜の切り方一つでわかる。
その見た目に似合わぬ鮮やかな料理にキリカが息を飲む。
エルザも
「翔太殿を除くとこんなに料理に慣れているように見える人は初めてかもしれん。」
と唸るように言った。
「まあ、ここまでなるのにだいぶかかったがな。」
と作業を続けながらもエルザに答える。
「宮廷の料理人にも負けてないつもりだったんだが・・・まさか翔太みたいなやつがいるとはなー。」
「ああ、宮廷の料理人にも負けていないと思う。ただ翔太殿が特別なだけだ。」
とエルザは苦笑する。
食材を全て切り終わったガルドが眉値を上げる。
「あんたひょっとして宮廷の関係者か?」
「ああ!」
とエルザは胸をはるようにしていう。
「私の名はエルザ・・・」
「そうかそうか、なら料理長のグランバルトは元気か?」
エルザの名乗りはガルドの答えで止められてしまったがエルザはそんなことを気にも止めずに驚いた顔をする。
「グランバルトを知っているのか!それは驚きだ。」
「ああ、グランバルトは若い頃一緒に料理をしていた仲だ。俺はどうにも人里暮しは性にあわんでな。食材も新鮮なこの山に住むことにしたのだがやつは逆に技術を磨きたいと王都のほうにでたんだよ。宮廷料理人になったと聞いたが本当だったか。」
ガルドは嬉しそうに鍋をかき混ぜながらいうと何処か懐かしむように語った。
「しばらくあっていないし、久しぶりにあってみるかな。」
「グランバルトは今料理の腕なら右にでるものはいないと言われるくらいになっているぞ!私も小さい頃彼に料理をせがんだものだ。」
「ほー、あいつもそこまで成り上がったか。大したもんだ。」
ガルドは自分のことのように嬉しがりながら破顔する。
会話に入れず、ぼぉーとしていよキリカを横目に見て話しかける。
「キリカ、大丈夫か?」
「え!あ、大丈夫です。」
半分ほど目をつぶっていたキリカはビクッとするように背筋を正すようにすると恥ずかしそうにはにかむ。
「ただ、なんだか居心地がよくて。暖炉も暖かくて眠くなってただけです。」
そういわれてもう一度このログハウスを見渡すととても落ち着けるような見た目になっていて確かに暖かくて寝てしまいそうだ。
「まあ山道もずっと歩いてきたしね。疲れてもしょうがないよ。」
「いえ、そういうわけではないんですが。けどいい気分です。」
キリカはくつろいだ表情をすると笑う。
「たしかにそうだなー。将来店を作るとしたらこんなのもいいかもな。」
なんとなくそんなことを言うとキリカが驚いた顔をする。
「そ・・そうなんですか。私も料理頑張らないと。」
「?まぁ料理ができるのはいいことだよ。」
どうしたのか決心したような顔をするキリカを見ていると前から声がかかった。
「出来たぞ、完成だ。」
ガルドはちょうど器に分けているところでその中身がもくもくと湯気をたてていた。
「何を作ってくれたんだ?」
と翔太が聞くとガルドはゆっくりと笑って答える。
「これはビーフシチューだ。あんまり町に近いところでは食べられていないだろうが、これが旨いんだ。」
ビーフシチューがこの世界にもあったのかと愕然とする。
確かに偶然の一致と言うべきなのか共通の名前を持つものも結構あったが(例えば米やパン)これまで一緒だとは思わなかった。
「俺も知ってるよ。ここで聞くとは思わなかった。」
「そうなのか?お前意外と田舎出身なのかもな。まあ知ってるやつとどっちが旨いか食べてみろ。」
ガルドは机に器を持ってくると全員分並べる。
「こいつは俺の特製だ。普通のとは一味違うからな。」
そこまで言われるととても興味をひかれる。
翔太は期待を抱きながらシチューをゆっくりと口にいれた。




