もう一人の料理人
霧が視界を閉めるなか大樹の間を一行は抜けていった。
「これもでかい樹だなー。」
幹をぱしぱし叩きながら翔太が言うと
「そうですねー。それだけ大地のマナが多いってことですよ。」
「そうだな。マナが多い場所では植物も動物も育ちやすい。野生の薬草と栽培される薬草では効果が違うのはそのせいだ。」
「へぇー、なるほど。」
つまりこの世界では土壌や農薬や新鮮さに左右されない『マナ』の要素があるらしい。
それで野菜の味とかもマナに左右されるのならかなり興味がひかれる話だ。
「ただし、そういうところでは強いモンスターが出やすい。気をつけなければいけないだろう。」
「なあ、マナの多い場所ってこう言う秘境みたいな場所にしかないのか?」
エルザはそれを聞いたとたん怪訝そうな顔をする。
「まあ・・祝福された土地などを除いてだいたいそうだ。しかしそんなことは誰でも知ってることじゃないか。大体は自然の豊かさに比例している。」
「ああ、ちょっと忘れてただけだ。」
少し冷や汗がでるがなんとか誤魔化せたようだ。
しかしもう少し注意して行動しないと不味いな。
怪しまれていいことはない。
「そんなことよりもう霧が晴れて来たぞ、頂上は多分近いな。」
目前の雲はゆっくりと晴れ、少ないがまた木々が姿を表す。
ーーこの前みたいにはぐれる何てことがなくて良かった。思ったよりもモンスターは出現しないし大助かりだ。
その時、遠くからカーン、カーンという何かを打ち付ける音が等間隔で聞こえてきた。
「なんか音が聞こえるなー。金属で何かを叩くみたいな音。」
「そうか?私にはまだ聞こえてこないが。」
「私もです。何の音でしょう?」
しばらく歩いていると音は次第に大きくなり明確に聞こえるようになってきた。
「あ、聞こえますね。」
と最初にキリカが反応するとそれに続いてエルザも頷く。
「確かに金属の音だ。自然に出る音とは考えにくいな。」
続けて何か崩れるような音が響き、また別の金属音に変わる。
「多分この先の道ですね。いってみましょう。」
キリカがそう提案すると少し先程よりも歩みを早めて音のでる方角に向かう。
最初に人影を見つけたのはまたもや翔太だった。
道から少し外れた所で人がしゃがんで何か作業をしているのが見えた。
「こんにちは。」
と手を挙げて気軽に挨拶すると
こちらに気がついたように振り向く、顔は三十代を越えてるくらいの働きざかりの男、といった感じだった。
なんとなく表現するなら山のようだ。肩幅も相当広く、髭は生やしてはいるがしっかりと手入れがされていて粗雑な印象は抱かない。
ないがなんとなく大胆な印象をうける。
「おー、久しぶりに人間をみたな!こんなところまできてどうしたんだ。服装を見る限り冒険者のようだが。」
といってガハハハハと豪快に笑う。
そのまま木材をくくりつける作業をやめ、よっこらせという擬音が付きそうな様子で立ち上がる。
先程は遠目だったし、まわりの樹が巨大だったほで違和感がなかったが立ち上がると二メートルを越えそうなほど大きく、驚いてしまう。
視線を少し上に向けるようにして話を続ける。
「俺はガルドって言うんだ宜しくな。」
「俺は翔太だ。でこっちがキリカで、こっちがエルザ。」
と簡単に名前を伝える。
「俺たちはここの山頂近くに料理を作る人がいるって聞いたんだけど、あなたがそうなのか。」
ガルドは急に渋い顔になる。
「ああ、そうだが・・・俺は気に入ったやつにしたか料理を作らないって決めてるんだが。」
後ろではキリカとエルザがひそひそと
「噂、本当でしたね。」
「ああ、しかし本当にこの男が旨い料理を作れるのかは不明だがな。」
と言い合っている。
とは言っても見た目で料理ができ無さそうって言うのは悪いと思うけどなー。
まあ俺もこの人が作る料理と言われて一瞬新鮮な食材を積めていくだけの丼物とか想像しちゃったけど。
まあそれでも美味しい時もあるし、食材を作ったり取ったりする人が美味しい食べ方を知ってるなんていうのはよくあることだ。
しかし、料理人としてはここで確かめておきたい。
この人がどのくらい『料理』を知っているのかを。
「じゃあ、俺が料理を作ります。それで旨いと認めてくれたら料理を作ってください。」
「ん?それでも構わねえぞ。」
といってからガルドはニヤリと笑う。
「けど俺は見た目よりも数倍グルメだから旨いって認めるかはわかんねえがな。」
「けど翔太さん、食材はどうするんですか?」
キリカが不思議そうに聞いてくる。
翔太は自慢げに後ろの魔法鞄を前に出すと
「こんなこともあろうかと結構食材この中に詰め込んできたからな。大丈夫だ。」
「しかし、結構な時間移動していたし、鮮度が落ちているのでは?」
とエルザのもっともな疑問にも答えておく。
「この魔法鞄は特別でな、容量が小さい代わりに鮮度を保つことができる。」
「翔太殿は本当に何でも持っているな。」
「下じゃあそんな便利なもんが売られてんだな。」
感心したような声にすこし言い過ぎたなと笑ってしまう。
「これは王都で買ったんだよ。ちょっと高めだったけど買って良かった。」
「そうなのか?王都にそんなにいい店が・・・こんなの取り扱ってるとしても最高級の店にもあるかどうか。」
エルザは少し口の中でもごもごいっていたが
「その店の名前を知っているか?」
と問われる。
「えーっと、多分名前は見なかったな。」
と翔太は思い出しながらいう。
もともて隠蔽されている店だから看板も要らないんだろう。
今度行くかと思いながらガルドのほうに向き直る。
「そう言えばガルドさんってここで何してたんですか?」
ふと金属音が気になって問う。
「そんな格式ばった言葉じゃなくてもいいぞ。名前も呼び捨てでいい。」
そんな丁寧な言葉使いされたらこっちの方が恥ずかしくなるじゃねえか。
と付け加えながら破顔する。
「あー、じゃあ普通の言葉使いでいくよ。」
「そうそう、それでいい。慣れてないからな。後ろの嬢ちゃんたちもそれでいいからな。」
「嬢ちゃん?」
慣れない言い方にキリカは首をかしげ、エルザは肩をくすめる。
「俺は竃に使う薪を切ってたんだよ。ついでに植林もしながらな。」
と背中に背負った巨大な斧を見せる。
それはよく見ると微かに魔力の光を帯びており、かなりのものだということがわかった。
近くに点在する切り株を見ながら納得する。
「なるほど、それにしてはこれだけの大木を切ることができるのは凄いな。」
「まー毎日してることだからな、日課だ日課。いい運動にもなる。」
といって薪を全部背負うと
「じゃあ家まで案内するからついてきてくれ。」
と言った。




