噂
「ただいま。」
買った魔法鞄に食材を詰めて帰ってきた翔太はなるべく音をたてないようなノックする。
大きなドアがゆっくりとひらかれ、奥から人形のような少女が顔を見せる。
「お帰りなさい。」
エプロンをきて新妻みたいになっているキリカだがそんなことはなくただ料理を手伝ってもらうだけだ。
「遅かったですよ。」
と軽くじと目でみてくるが
「途中でよりたい店があったんだよ。」
と軽くいなす。
手を洗うと冷たい感触が手を伝っていき水滴をタオルで拭き取る。
自分もエプロンをつけると買ってきた食材を出して並べていく。
「キリカがどのくらい料理をできるか見とかないといきないしね~」
ということでこの前作ったスクランブルエッグに挑戦してもらうことにする。
「料理したことないんですが・・・」
「大丈夫、大丈夫ゆっくりやっていけばできるって。」
そしてレモン色の卵を取り出すと胡椒やケチャツプに似ているが少し辛い調味料を取り出した。
少し向こうのスクランブルエッグとは作り方は変わるがしょうがない。
こちらの世界の卵のほうが甘味が強いのでこの調味料でちょうどいい。
「ハヤハヤ鳥の卵とマトトの実をソースですか?」
「そうそう、この前朝食で食べ・・・」
とそこまで言ってエルザの食べっぷりを思い出す。
「てなかったな。そういえば。」
というか最近卵料理が多い気がする。
まあハヤハヤ鳥の卵を気に入ったせいもあるがお手軽なのもある。
じゃあメインは別のを作るか。
「じゃあ俺はムニエルでも作るから。最初に卵をボウルに割ってくれる?」
「は、はい。」
と力んだ様子で慎重に卵を掴むとそのままボウルの上で砕いてしまう。
「あ、」
「あ!」
殼だらけで黄身も溢してしまい、キリカが情けない声をだす。
「まあしょうがないね。」
とあたふたしているキリカの横で溢れた黄身を布巾でふくと菜箸で殼を取り除いていく。そしてもう一つの卵を手に取り、手慣れた様子でカンカンとひびを作ってカラッという音と共に黄身を取り出す。
「こういう風にするんだよ。」
と言って最後の卵を手にとってキリカに手渡す。
「えーっと。」
といってまだあたふたしているキリカをみて笑ってしまい、後ろから手をそえてあげる。
「こうして・・・こうして・・これで終了。」
と正しい手順をしてあげる。
キリカの表情はよく見えなかったがなんとか手順を覚えたようで実践している。
「できました!」
誉めてくださいとばかりにこっちを見てくるキリカだったが少し顔が赤い。
多分初めてのことを挑戦してできたから嬉しかったんだろう。
確かに不格好だが初めて料理をする人が急にできると言うのは凄いと思う。
「じゃあ次は卵を溶こうか。」
キリカは菜箸をつかんでゆっくり混ぜていく。
本当はもっと早い方がいいのだが敢えて何も言わない。
特にキリカのようなタイプはもっと早くと言ったら早く回しすぎてしまう気がしたからだ。
菜箸が折れてしまうオチまで見えてしまう。
つい笑みがこぼれてしまう。
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ。」
こういうキリカの無垢なところは恐らく過去のことが関係していると思うと悲しくなるがこれも大きな長所だ。
「違う、違うそこはもう少し早めに混ぜ始めないと。」
指示している間にも自分も魚に粉をまぶして下準備を始める。
先に水分をとっておき、少しスパイスをつけておくのが重要だ。
そのあとはじっくりと様子を見ながら焼いていき、添えるための野菜を軽やかに切っていく。
彩りも考えて暗色系は控えておき絞るためのレモンをおく。
魚はやはり鮮度で大きく味が変わるが新鮮化魔法鞄のお陰で綺麗な状態のままになっているので美味しいムニエルになるだろう。
しかしこのムニエルも焼き加減やスパイスによって全く味が変わるがそこも考えないといけない。
と自分の料理に夢中になっていたところでふと思い当たって顔をあげる。
「キリカ、スクランブルエッグどうなっ・・・」
そとにあったのは明らかに分量を間違えたと思われるこげたのスクランブルエッグがあった。
「え?あれ、どうして!」
「もうちょっと練習しようね。」
少しだけ初めて料理を作ったときのことを思い出してしまう。
あのときは俺の大失敗したっけ。
苦笑いしながら皿に盛り付けていく。
やっぱり配置も大事だ。
料理は本の些細なことで全く見方を変えてくれる。
「え!焦げちゃったけど食べるんですか?」
「勿論食べるよ。ケチャップもあるし大丈夫。」
「ケチャップって何かよくわかりませんがわかりました。」
不思議そうに首をかしげていたキリカだったがすぐに嬉しそうに席につく。
「いただきます。」
「いただきます。」
とスプーンを手に取るとキリカがふと聞いてくる。
「前も思いましたがこれは何の合図なのでしょう?昔一通り作法は学びましたがこの動作はありませんでした。」
あー前は見よう見まねでやってたのか。
「これは俺が前いたとこの習慣で、食事って命をいただくとこだからその繋がりに感謝をこめるって意味だよ。」
「なるほど」
意味を加味したあと生真面目に頷き
「いただきます。」
ともう一度言った。
少しずつ口に運ぶと
「おいしいー」
とムニエルをつつく。
翔太はお爺さんにしっかり作法は叩き込まれているので綺麗に分解して食べる。
キリカのスクランブルエッグも少し焦げているだけで味は悪いわけではなかった。
こうなったら和食もつくってみたな。
こっちに来てから一回も作ってないし。
と思っていたところでノックをされた。
キリカは美味しそうにムニエルを食べていたので自分で出ることにする。
「はい、なんですか?ってエルザ!」
不味いと一瞬で感じた今回はもう食べちゃったしキリカにハイドを頼む時間もない。
「上がらせてもらうぞ。いい噂を持ってきた。」
こうなったら腹をくくるしかない。
この世界の倫理感はわからないが何でもないという態度をとるか。
それに今は旅の仲間と言う設定もあるから大丈夫だろう。
「上がっていいよ。」
と奥へ通すとキリカは半分以上食べ終えており、こちらを驚いた顔でみていた。
二人は少し見つめあっていたが先にエルザが切り出す。
「おお、キリカ殿ではないか。この間助けてくれたこと感謝する。」
「お礼はもう一度言われたので・・・大丈夫です。」
ギリギリセーブだったようだ。
翔太はほっと息をつけながらエルザに問う。
「で、いい噂ってなんだ?」
「ああ、翔太殿は料理に興味があるそうなのでな。」
そこで少し企んだような笑いをする。
「山奥にいる凄腕の料理人の噂だ。」




