自称発明家
「いらっしゃいませ。」
と爽やかな声で迎えられたのは白と黒の木を基調とした店内だった。
お洒落な鑑賞用の植物などもあり、とても雰囲気がよかった。
但し客らしき人の影はなかった。
そこでグラスを磨いていた眼鏡をした自分よりは背が低く見える青年は少し驚いた顔をしていた。
そのまま布巾を置くと話しかけてくる。
「お酒にされます?珈琲にされます?」
昼間から酒を飲むような気分ではなかったので珈琲を注文する。
「いくらですか?」
値段を聞くが首を振られた。
「これはサービスなので、まー、一杯目はですけど。」
そのまま後ろの棚にあった豆を絞るためのマジックアイテムらしいものに袋から珈琲豆を入れるとハンドルを回しながらコーヒーを作り始める。
時間は自分の感覚で覚えているらしく時計もみらずに
「少し苦めかもしれません。」
と言って珈琲をコップに注いだ。
その動作はとても自然で何度も繰り返しているとこがわかった。
「ミルクや角砂糖はいりますか?」
この辺りは前の世界と一緒なんだなーと思いつつ
「じゃあミルクだけ。」
「かしこまりました。」
と言ってミルクを注ぐとミルクは円を描きなから珈琲に溶けていった。
「どうぞ」
受けとると臭いを楽しみながらゆっくりと口に運ぶ。
そのとたんじんわりと珈琲の風味が口内をとおりほどよい苦みが後から感じられる。
「美味しいです。」
「お口にあってよかったです。」
本心からの言葉だった。この世界にきて飲食したものの中で一番美味しいかもしれない。
「それでご用件はなんでしょう?」
「え・・あ、そのこの店が何故か光っているように見えて気になってきたんですが。」
「なるほど」
眼鏡の奥の半分ほど閉じられた目が鋭く光ったような気がした。
そして少し微笑むと返事を返した。
「それはここに隠蔽の魔法をかけているからですよ。内は限られたお客さんとしか商売をしませんから。恐らく普通の人には『注目』できず素通りしてしまうでしょう。」
「あーなるほど。」
だからこんなに美味しい珈琲をだすお店にも関わらず客がいないのか。
「まあ内の『商品』は信用できるかたでないとお売りできないですからねー」
そこで少しこちらを見る。
「よく『看破』しましたね。これでも魔術師としての腕には自信があったのですが。」
「いやーたまたまですよ。」
と少し冷や汗をかいてしまう。
「いえいえご謙遜なさらずに、しかしこの魔法を看破できる方ですから当然内の商品を買っていただけます。」
と言って店の一角の棚がならんでいるとこをいくと棚をあける。
そこには魔法の光に輝く様々な物があった。
「これは全部貴方が作ったんですか?」
「恥ずかしながら私は自称発明家を公言しておりますので。」
今まででもマジックアイテムの店がたくさんあったが胡散臭いものや効果が弱いものがほとんどで翔太の興味を引くものはほとんどなかった。
しかし、かなりの魔術師にみえるこの店主さんの商品ならば期待できるのではないか。
店主は先程よりも目をキラキラさせながら説明してくる。
「例えばこれなんかは新作です。」
と薄茶色のバッグを取り出す。
デザインもよく、銀のような留め金等にルーンが刻まれていた。
「この新鮮化魔法鞄は従来の魔法鞄とは違い鞄の中の食材の鮮度を保つことができます。それもあり得ない精度で!」
と少し言葉を止めた。
「まぁ友人にそんな細かい鮮度などたいして変わらないと言われたのですが。」
翔太は条件反射で答えていた。
「それは凄い。」
魔法鞄の中では鮮度は変わらないと思い、この前霧隠れの森に食材を魔法鞄にその前の日に摘めて持っていったとき野菜も肉も本当に若干鮮度が落ちていた。
これは料理人にとってかなり大事なものだ。
今使っている『エルシャトワールの魔法鞄』は小さいが容量はあり得ないほど大きい、そのあとの店主の説明にあった容量とは比べものにならないくらいだがそれでもその差は大きい。
「それいくらですか?」
熱弁をふるっていた店主は我にかえると
「金貨50枚です。」
と答える。恐らくこの世界でいくとかなりの高額だが翔太のストレージにはまだ莫大な金貨が入っている。
もともとこの世界のマジックアイテムは高額なのだ。買って損はないだろう。
「その魔法鞄買います。」
「本当ですか?お買いあげありがとうございます。」
店主は嬉しそうに鞄を差し出すと金貨を受けとる。
「いやー癖で思い付いてしまったらあまり儲からないものでも徹夜で魔導回路を掘ったりデザインを考えてしまうんですよね。」
そして付け加える。
「それが楽しいんですけど。200年前なんか・・・」
とまた我に帰る。
「おっといけない、発明関係になるとついつい話が長くなってしまって。他に買いたいものはありますか?」
「今日はこれくらいにしときます。」
「そうですか。またの後来店をお待ちしております。」
翔太は木のドアを押すとベルの音が軽やかに鳴った。
「いやーよかったです。」
店主はゆっくりとグラス磨きに戻っていく。
本来あのクラスの魔法鞄なら金貨50枚はかなり安いのだが別に営利目的でやっているわけではないので安くつけている。
「兵器関連のものを作ってしまわなければ普通に店を出した方が楽しいのですけど。」
少し苦笑いする。
「発明家の性ですかね。」
そして磨き終わったグラスを直し倉庫がわりの魔法鞄をあける。
「しかし私が顔も知りませんし冒険者ではないのですかね~」
店主はまた発明を探求する




