霧隠れの森 主菜(メインディッシュ)
エルザのもとにたどり着いたころには敵もかなり数を減らしていた。
エルザはあまり外傷はなかったがかなり消耗しており戦闘を継続するのはそろそろ無理そうだった。
なんとか支援するために無理して武技を使って加速するとお互いに背中合わせになる。
「キリカ殿、まだ戦えるか?」
もう立つのも精一杯に見えるのにこちらの心配をしてくるエルザに感嘆する。
どこからこんな力がわいてくるのだろう。
土台、魔力は気持ちや信念に大きな影響を受ける。
しかし、それにももちろん限度がある。これまでの戦闘からすると他人を気にする余裕はないはずだがやはり王家の人間と言うことだろう。
「問題ない。」
と返すと刀を再び振るう。
武技の多重併用で意識は朦朧としているが傷はそんなに負っていない。
終わりがないように見えた増援もこれなら切り抜けられると希望がみえて来たところで敵の攻撃が不意に止まる。
その合図を出したのは先程の魔族だった。
「はいはいもう終わり、やっぱお前らじゃ弱すぎて相手になんないわ。」
片手をあげるとそこに血のような色の片手剣が出現する。
「戦士交代」
冷酷に宣言すると魔法を詠昌し始める。
「三重強化魔法深淵の力 戦士化・闇 加速付与。」
本来ならすぐに止めにいかないといけないが距離が開き過ぎている。
魔法を使うには基本的に四つの方法がある。
通常詠昌は最も一般的なもので、その術の名称を詠昌するものだ。
無詠昌化は詠昌をせずに行使するもので効果は大きく落ちる。
儀式詠昌はその術の正式なルーンを唱えるもので時間がかかるが大きな効果を得られる。
最後は刻印、付与などでルーンを刻んだり付与することで効果を得るものだ。
キリカは戦士としての力しかないが対策をするために魔術の知識はかなり刻みこまされている。
三重強化はかなり強力だ。しかしその魔法で自分を強力したと言うことは彼は戦士の技術の方を重点的に修めているということになる。
強化魔法は幾つかかけるだけでも格段に強くなる。
間違いない、彼は相当に強い。
「エルザさん、下がっててください。」
その発言に心外という表情をした彼女は首を振る。
「見捨るなど出来るものか!まだ私の剣は折れていない。」
まだ余裕を隠さず、剣を担いでこちらを見ている彼から少し目線をそらしてエルザの目を見る。
「私は、私の目の前で人を殺させないって誓ったから。」
エルザはその瞳から何かを読み取ったようだった。
「わかった。」
エルザは頷きながらゆっくりと後ろに下がる。
「そろそろいいかな~?」
彼はそういいながら剣を構えた。その瞳はあくまで気だるげだった。
「君は『強さ』を持っているようだから一応名乗っておこう。72柱第九将マルナーク。」
「キリカ」
短くそう返した。無愛想でも返事を返すのは魔族はそうそうのことではなを名乗らないと知っているからだ。
上位魔族の名前はその魔族自身にとって特別な意味がある。
なので返答したそれだけである。
もうこれで死ぬのかも知れないが悔いはない。
不意に眼が紅く染まった。
あの妖刀がいなくなったのだからもう起きなくなったはずの現象、
それは過去を忘れないための戒めなのかもしれないし、過去から決別するための力なのかもしれない。
刀を一気に引き抜くと一陣の風となってきりかかる。
「はぁ!」
渾身の力を込めた刀は受け止めたマルナークを二歩動かすことしかできなかった。
敵の反撃をかわしながら予備動作にはいる。
「暗殺!」
紫のオーラが剣を覆うとそのまま飛ぶように剣が吸い込まれていく。
「暗黒剣」
相手の真っ黒に染まった剣と正面から衝突してスパークがおこる。
お互いにノックバックするが瞬時に距離を詰め、何度も切り結ぶ。
その最中にもマルナークは術式を詠昌し、魔法陣が展開されて攻撃魔法が飛んでくる。
直撃したら足を取られて一気に決着をつけられる。
それでもなんとかかすらせるまでで済ませていた。
しかし、やはりキリカの部が悪い。
恐らく天河がなければとっくに倒れていただろう。
鍔迫り合いをしながらも剣は少しずつこちらに倒れてくる。
たまらず少し飛び退いたときにマルナークは指を鳴らした。
すると霧の奥から魔法が複数飛んでくる。
「まだ伏兵が!?」
咄嗟に後ろに空中で回転しながら避けるがマルナークの無詠昌化した魔法が飛んでくる。
・・・!動けない。
無詠昌化している上に純粋な魔法詠昌者ではないので効果時間は二秒ほどだろう。
しかし、この闘いの中の二秒は限りなく長い。
拡張された時の中で恐ろしいな早さで迫ってくる剣をただ見ていることしかできなかった。
澄んだ音が響いた。
今まで何もなかったキリカとマルナークの剣の間には白いオーラのかかった刀があった。
「翔太殿!」
「どうしてここがわかったんですか?」
驚いたような声が上がる。
翔太はいつもよりも厳しい、それでも落ち着いた顔でこちらを振り替える。
「詳しい話は後だ。」
そういって刀を構え直した。
「貴様、何処から沸いてでた。」
マルナークは初めて表情を崩し、警戒した様子になる。
「そんなことはどうでもいい・・・早く終わらせたいんだ。」
「なめた口を、黒魔術部隊!出てこい。」
先程魔法攻撃をしてきたらしい一段が姿を表した。
フードを被った者だけで構成されており一人一人が魔化が施された杖を持っていた。
「こいつらの支援を受けながら戦える俺に勝てるかな?」
翔太はその一団を一瞥すると刀を中段に構える。
「数が多くて厄介そうだな・・・もう使っちゃうか。」
刀は白い輝きを強くし大気が震えはじめる。
「そんなところで何を・・・」
不審そうな顔をしていたマルナークだったが嫌な予感に後押しされたかのように普段見えない翼を展開して舞い上がる。
そして空間がずれる。
月詠の軌跡をなぞるようにして景色は切り裂かれ黒魔術部隊は黒い血を溢れさせながら一瞬で全滅する。
「な・・・に?」
被害はその回りの木々までに及びゆっくりと地響きをたてながら倒れていくところだった。
「これで邪魔なやつらもいなくなった。始めようか。」
そういって一気にマルナークと距離を詰める。
激しいスパークが舞い、軌跡が踊るように刻まれる。
そしてマルナークの顔には焦りが浮かび始めた。
「くそ、剣技の腕はそこまで変わらないはずだ。何故そこまで余裕のある顔をしていられる!」
マルナークの武技をそのまま受け止め、凄まじい攻防をしながらも翔太は言う。
「確かに剣だけじゃあ力はこんな物だ。しかし」
そこで初めて剣にライトエフェクトが灯る。
この武技の名は[彗星]、そのまま視認できるスピードを超え、マルナークの心臓を貫いた。
「まだお前では本気を出すレベルまでは追い詰められなかったってことだ。」
囁くように言った直後、マルナークの体にひびが入り黒い光と共に散っていった。




