霧隠れの森 前菜(アンティパスト)
もうこの大きな道を走り初めてから1時間近くが経過していた。
「この辺りで一度休憩をしよう。そろそろ馬を休ませないとな。」
エルザの提案で道の脇の木立で休憩することにした。
道はだんだんと粗悪になってきており馬の蹄鉄も心配だ。
と言うことよりも気になることがある。
いくらこの黒い馬よりも華奢だとは言え二人を乗せていない白い馬がへとへととはどういうことか。
まぁ答えはわかっている。単純に重いのだ。
エルザが重いと言っているのではなく、その装備が。
軽量化の魔法はかけられてはいるだろうがそれでも全身鎧だけでもエルザ以上の重さがありそうだ。
だからキリカにこちらの馬に乗るようにいったと言うのが大きい。
なんて思いながら見ているとエルザのほうから声がかかる。
「どうした?」
「え?いやなんでもない。」
水の入った水筒っぽい革袋をあおりながら不審そうな表情をされるが何とも言いようがない。
「目的地まであとどのくらいあるんですか?」
キリカが横から救いの手をさしのべてくれる。
「そんなに離れてないぞ。ここを右に曲がってあと5分もすればつく。」
こっちも時間の数え方は一緒なんだと感心しながらマジッグバックを漁る。
目的のものを見つけるととりだして組み立て始めているとエルザから声がかかった。
「何をしてるんだ?」
「まずは腹ごしらえと思ってな。依頼を達成しないうちは何も食べれないだろうし軽く作ろうと思って。」
まぁさっき食べたばかりだけどなとつけ加えながら火をつける。
「お!これやっぱ便利だな。多分魔法で動いてるんだろうけどカセットコンロみたいだ。」
そのままフライパンを取り出す。
この世界に来てわかったのは屋台などを見る限り料理の文化はもとの世界より発達していないといくことと、食材の味が前と少し変わっていると言うことだ。
これからはこちらの素材に合わせた料理法を考えないといけないだろう。
最初に玉ねぎっぽい実を薄切りにして手早く入れインベントリに入れといた新緑の牛などの挽き肉(売られてた)をいれてソースを入れる。
臭いは玉ねぎだな・・・
玉ねぎがしんなりしてきたら酒や塩コショウみたいな香辛料をどんどん味見をしながら入れていく。
そっちの火は止め、今度はフライパンに油を敷いて熱し卵と牛乳を流し込むと黄色の液体が美味しそうな臭いをかもし出す。
こっちの世界の鶏はでかいらしく、卵も特大サイズでこちらのほうが香りは美味しそうだった。
そのまま具を入れて鮮やかに包むとラグビーボールのような形にしていく。
これに昨日の夜頑張って作ったケチャップに似せたソースをつけれて野菜を添えたら出来上がりだ。
皿に盛り付けられたオムライスは湯気をたてて鎮座しており、とても美味しそうだった。
「これ何ですか?はじめてみる料理ですが。」
キリカが首をかしげている。
「ああ、これはオムライスだよ。俺の故郷じゃあ結構有名なんだが。」
「キリカ殿と翔太殿は同じ国の出身ではないのか?」
これは墓穴を掘ったと思いながら返答する。
「同じ国なんだけど地方がだいぶ離れててな。文化もそこそこ違うんだ。」
言い訳としてはくるしいかと思ったがオムライスへの好奇心が勝ったらしく口に運ぶ。
キリカと翔太もそれに習うとキリカはまた驚いた顔をする。
オムライスは滑らかな舌触りでそれを噛みきったときに肉汁が溢れそこからほぐれる挽き肉の味がまた格別でとてもおいしかった。
翔太はそのままどんどん口に運んでいき、味わっている二人を前にかたずけながら今回の反省をしていく。
挽き肉とソースにまだ改良の余地があるな。
そうしていると二人は食べ終わった。
「美味しかったです。」
「ああ、いつも通り最高だ。」
と口々に称賛してくれる。
そのまま深く息をついて座る。
料理のもたらす笑顔はやっぱり他のものでは再現できないもので素晴らしいものだ。
そのまま二人の文の皿もかたづけるとエルザは地図を見ていた。
「今回の目的地の雲隠れの森って大分でかいな。
じゃあそろそろ行くか。」
そういって馬に飛び乗るとキリカに手を伸ばす。
キリカは躊躇いなくその手を握ると慣れたよに飛び乗る。
「ああ、名前の通り霧が常時かかっていると共にかなり広大だから入ると迷う者も多いらしい。今回の依頼はこの近くの住民から最近森からモンスターが出てくるようになったからだそうだ。」
「そうなのか~迷わないようにしとかないとな。」
「ああ、あとモンスターが森から出てきたのは強力なモンスターの出現が原因たから注意しろと受付嬢も言っていたな。」
馬に乗りながらも地図を見続けられるのはエルザのバランス感覚が優れているからだろう。
「そろそろ到着だ。」
前方には鬱蒼とした森が広がってこちらを包んでいくようだった。
「まぁここら辺ならいいだろう。」
そういって翔太は馬の手綱を木にくくりつけると周りを見渡す。
まんべんなく深い霧におおわれており、人の手の加わってない原生林というのが相応しい背の高い木が密集していた。
乳白色の霧は少し離れた風景を溶かしており何とも言えない不気味さを感じさせた。
「話以上だな。これはかたまって動かなければ。」
キリカは頷くと特殊技術を発動させた。
翔太の視点では輪郭が方向をぼやけたようにしか見えないがエルザは違ったようだ。
「キリカ殿?」
「ああ、大丈夫だよ。多分、隠蔽とかを使っただけだよ。」
「隠蔽か!かなり珍しいスキルだな、主に暗殺者などが使うと聞いたが?」
話が変な方へ進み始めたのであわてて修正する。
「あ、そんなことより迷わないように対策するのはどうしますか?」
「ああ、それならこれがあるぞ。」
エルザはマジックバッグを漁ると目的のものを取り出す。
それは鳥のような紋章がついた魔力で光る篭のように見えた。
「それは?」
「これは妖精の道標だ。」
そういってその篭を振るとその場に淡い緑の光が現れる。
「こうやってマークしていると使用者はその場所へ行くのにどの方向にどのくらいいけばいいかわかる。」
「へー便利だな。」
今後似たようなことがあるかもしれないから同じようなアイテムがないか探しておこうか。
とにかく迷うと言うことは無くなった。
「じゃあひとまず探索しよう。キリカ、見つけたら教えてくれ。」
「了解」
彼女はゆっくり頷いて軽やかに跳ぶと木の枝に着地する。
「では翔太殿、参ろうか」
エルザが妖精の道標をランタンのように持ちながら先頭し始める。
発光する苔や露で濡れた草を踏んでいくうちに小動物が目の前を横切ったりする。
それらは始めてみるようなものばかりでついついそちらのほうに気をとられてしまう。
リスの尻尾がとても長くして刺をつけたような動物を遠目に見かけたとき、背後にキリカが降りてきた。
「もう少し先にそれらしい魔獣の群れを発見しました。」
「ありがとう、すぐに向かってみよう。」
すぐに見つかったのは幸先がいい。
急いで向かってみると少し先に淡い蒼の光が見えた。
ちゃんと観察すると木々のむこうに角のある狼のようだが二回りほど獣が大きい電気のようにうごめくオーラを纏っているのが見えた。
「確かにそれらしいな。」
小声でエルザに囁くと
「恐らくそうだろう。まだかなり距離があるのできづいていないようだがいずれ勘づく、なるべく包囲しよう。」
頷くとそのままお互いに距離をとる。
それにしても数が多い、ぱっと見だが15匹は軽くいるだろう。
ゆっくりと看破の領域を使ってみると18匹いるようただった。
もし、予想以上にサンダウルが強く二人に被害が及ぶようだったら本気を出すしかないだろうが、そうではないのなら完全には力を使用しなくてもいいだろう。
そう思い、翔太は月詠をしまう。
代わりに取り出したのはキリカに渡したのと同等の武器、魂の剣だ。
これは切った相手に魔法ダメージを与えるものだ。
直接与えるので魔力耐性があるモンスターにも効きやすいと言う利点が有るらしい。
その刀身が半透明な剣を使って一気に加速しながらきりかかる。
流石獣というべきかすぐに顔を上げたがそのまま二閃、魔力ダメージによって傷を負わないまま絶命する。
残りの二人も強襲を仕掛けたようだ。
群れの全てが顔を上げて体にまとわせた雷の勢いが激しくなり、一斉に逃亡し始めた。
後に知ったことだがこのサンダウルは襲われるなどしたとき、最大の長所であるスピードと雷による加速を生かして逃亡し、撹乱させたところで遠吠えによって合流して敵をそれぞれ撃破するという習性があったようだ。
そこまで知らなかった三人は慌てておいながら撃破する。
しかし流石Aランク指定のモンスターだけあって個だけとして見てもなかなか強い。
翔太はスピードをセーブしておっていたのだが5匹目を倒したところでふと気がつく。
「二人がいない・・・」
深い霧の中で視界は悪いし二人とも看破の領域のそとにいるらしく気配を感じることができなかった。
動き回るのは逆効果だ。ひとまずこの状況を打破できるアイテムを探そう。
翔太はインベントリを開いてスクロールを始めた。
その頃、エルザとキリカは幸い一緒にいた。
「翔太殿がいなくなってまった。」
エルザは目を凝らして辺りを見るが全く見つからない。
「翔太殿~!」
大声で呼んでみるがその声はそのまま森に消えていった。
「あんまり叫ばない方がいいです。この森にはあの獣よりも強いモンスターがいくらでもいると思いますから。」
意外と冷静なキリカに大きく感心する。
「確かにそうだな。気を付けよう。」
と頷くと
「ひとまず先程の場所の近くまで戻りましょう、今まではほぼ直進しかしていなくて、さっき獣を追った時は来た道の方角だったはずなので妖精の道標と逆の方角に少しいった辺りだと思います。」
「なるほど、ならこっちだ。」
そして二人はさらに霧の奥へ呑まれていく。




