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君>世界   作者: 雪ノ雪
第七章『遠い半身』
97/112

12/悪逆の頂

 空を泳ぐような不思議な感覚を数秒ほど味わったところで、シャルロットはクリスエレスの大地へと降り立った。。

 夕刻が終わり、夜の闇がもうじき空を覆い尽くす時間帯。

 だというのに、外がやけに明るい。

 その原因は、街灯だけではない光源が空を飛びかっているから。さらに派手な爆音も鳴り響いている。

 まるで戦場のような有様だった。

「どうなってるの?」

「騒ぎの中心点は、どうやら城の付近みたいだね。ぞわっとするような良い気配が潜んでいる。これは真剣になれそうだ。僕は先に様子を見に行く。君はプレタと合流してから行動するといい」

 愉しげな表情を浮かべて、クーレは屋根の上へと飛び乗り、首都の中心部に向かって移動を開始した。

(どうやら、ここは上層区の中のようだな。プレタがいる区画なのは幸いだが、中央以外にも飛び火しているようだ)

(たしかに、そうみたいだね)

 耳を澄ませば、あちこちから悲鳴や怒号が届いてくる。それに伴って暴力的な魔力も主張してきていた。

「……」

 小さく息を吐いて気持ちを切り替え、番石(つがいせき)を取りだしてプレタの位置を確認する。

 内門の近く。物騒な魔力も近くに複数感じられた。予断の許されない状況だ。

 シャルロットは鞘から剣を引き抜きつつ、そちらに向かって駆けだす。

 角を曲がったところで一際大きな剣戟の音が響き、足元に剣が突き刺さった。

 その直後、鮮血が視界に飛び込んでくる。

 プレタが敵の武器を弾き、返しの刃で斬り殺した場面にちょうど出くわしたのだ。

「――っ、シャルロット!? あんた、またなんでこんなところにいるのよっ!?」

「サラヴェディカの方で色々あって、スロウを追って来たんです。この状況については、どの程度把握できていますか?」

「もうじきあの子が戻ってくる。それで多分、色々と判ると思うけど――」

 言葉の途中で、風の精霊が戻ってきた。

 なんだか怯えている様子だ。唇をパクパクと動かしてなにかをプレタに訴える。こちらにはまったく聞こえなかったが、彼女にはちゃんと伝わったのだろう。

「……そう、わかった。ありがとう。これ以上探るのはなんかヤバそうだし、あたしの中に戻ってな」

 頷き、精霊は彼女の胸に飛び込んで、そのまま中へと消えていった。

 そこで彼女の感情を共有したのだろう。プレタは少し苦しげな表情を浮かべ、それを息と共に吐きだしてから、

「どうやら、アルタ・イレスが暴れまわってるみたい」

 と、苦々しげに呟き、視線を内門の方に向けた。

 そこでシャルロットは、門が完膚なきまでに破壊されていた事実――それだけの圧倒的な暴力を孕んだ何者かがいるという事実に直面する。

「これをやったのが誰かはわかんないけど、今確認できるだけでも三人、看板って言っていいような上位が出張ってる」

「目的は判りますか?」

「派手に壊せ、殺せ。そんな言葉を掲げて奴等は動いてるわ。本命はあるんだろうけど、下っ端共には知らされていないって感じかもね。なんにしても胸糞悪い。――っ、本当に、反吐が出る!」

 なにかを感じ取ったのか、舌打ちをしながらプレタが駆けだした。

 慌てて後を追いかける。

 数秒後、両足を切り裂かれて動けない母親と、その母親の眼の前で凌辱されようとしていた少女を目撃する事となった。

「下種共がっ!」

 裂帛の気迫と共に、プレタが少女の片足を掴んでいた男の腕を切り飛ばし、そのまま首も刎ね飛ばす。

 なかなかにショッキングな光景だが、その直前にシルフィの力を使って少女の視覚と聴覚を塞いでいたようだ。その力を用いて少女をゆっくりと母親のもとに誘導しつつ、少し離れたところでほくそ笑んでいたもう一人の男に向かって短剣を投擲する。

「おいおい、人の愉しみぶち壊してなにしてくれてんだ? あぁ? ぶち殺すぞ、てめぇ!」

 それを弾いた男が、怒声と共にプレタ目掛けて真っ直ぐに突っ込んで、大上段から斬撃を叩き込んだ。

 相当な威力を物語るように、長剣を両手に構えて受け止めたプレタの身体が少し地面に沈む。体勢も崩れてしまった。

 その隙を逃す事無く、男は再度乱暴な斬撃を繰り出し、彼女の身体をさらに大きく崩して――

「死んで詫びとけ!」

「あんたがね!」

 弾かれた短剣に繋げられていた糸を引き戻したプレタの奇襲によって、男の脇腹に剣が突き刺さった。

 驚きと痛みで動きが鈍ったところに、長剣を突き立て、腹から心臓めがけて切り上げる。

 そうして出来上がった死体を除けて、プレタは親子の視線を流し、

「足の健をやられてるのか、自力では歩けそうにないわね。ひとまず門の外に二人を連れて――」

「――っ!?」

 凄まじい速度で迫ってきた暴力を察知すると同時に、シャルロットは腰に下げていた細剣を振りぬいた。

 指と手首がじんじんと痛む程度の衝撃が残る。が、奇襲を弾き返す事は出来たようだ。

「残念。やられた仲間のお返しとは行かなかったか」

 新手の男はその死体をちらりと見てつまらなげに呟いてから、手にしていた薙刀でこびりついていた血を振り払った。ここに来るまでにも何人も殺した証である。

「てめぇらじゃ荷が重そうだな。こいつは俺が抑えておく。だから、さっさとそこの三匹殺して加勢してこい」

 遅れてこの場にやってきた七人にそう告げて、薙刀の男は姿勢を低く構えた。

 鋭い気配。少しでも気を抜いたら死ぬ、そんな予感を覚える。

「こっちの心配はしなくてもいいわ。この程度の雑魚なら、あたし一人でも十分だしね。あんたは目の前の奴に集中しな」

 親子を守れるように位置を取りながら、プレタが強い口調で言った。

 多分、この薙刀男こそがアルタ・イレスの看板の一人という事なのだろう。

(うそぶ)けるほど強くも見えないが、まあ、お手並み拝見と行こうか」

 薙刀の刃先が鈍い輝きを放つ。受けに回るのは不味そうだ。

 シャルロットは細剣を強く握りしめ、低い姿勢で地を蹴って、敵の提案に乗るみたいに薙刀男を優先する構えをみせつつ、七人が完全にプレタとその後ろにいる二人に意識を傾けた瞬間を狙って閃光を放った。

 油断していた三人の胸に風穴が空く。残りの四人はかすり傷程度。まあまあの戦果だ。

「……はぁ、マジかよ。こんな簡単な奇襲で死ぬ馬鹿が同業者だなんて、まったく嗤えるな」

 蔑みを滲ませながらこちらの斬撃を造作もなく受け止めて見せた薙刀男は、前蹴りのフェイントで間合いを確保してから、薙刀を振り下ろした。

 シャルロットは大きく左にステップして回避を試みるが、想定していた半分も移動できず、追撃の横薙ぎを細剣で受ける羽目になる。

 その衝撃を利用して再度距離を取ろうとしたが、それも上手くいかずに、相手の間合いに戻された。

(吸引の魔法だな。それ自体大した事はないが――)

 息をつく間もなく迫る刃と、いたるところから連続して発生するその現象を前に、まったく体勢を維持できない。

 一撃受けるごとに、踏ん張る事にリソースが割かれる。しかも、相手の攻撃はどんどん速くなっていく。

(……マヌラカルタ)

(さっそく刺し違え狙いか? 昔とは違う意味で命を軽く扱うようになったものだな。あぁ、心配せずとも貴様が望む再生速度に調整してやるさ。安心して死ぬがいい)

 その言葉に安心など出来る筈もないが、一応信頼はする事にして、シャルロットは防御を捨てて一撃を右肩で受けつつ、次の切り上げに合わせるように剣を振りぬいた。

 タイミングは完璧。だが時間差で発生した吸引によって、直前で斬撃の軌道をズラされる。

「弱い奴が取る手はいつも同じだな」

 予定調和だったと言わんばかりの冷淡さと共に、薙刀男は懐から短剣を取りだして、髪の毛を切り裂くに終わったシャルロットの首を刎ねた。

 視界がぐるぐるとまわる。意識が急速に暗くなる。その最中で、シャルロットは相手が勝利を確信して視線をプレタに流したのを確認した。

 不死の発動。

 首を失った身体がスムーズに次の斬撃を繰りだす。

 殺しに慣れている者ほど、どの程度で人が死ぬかをよく知っているが故に、この奇襲は有効だ。それを物語るように、綺麗に入った。

 右の脇腹から左の脇腹に、肋骨を破断しながら細剣が走りぬける。両断は出来なかったが臓器には十分届いた。

「――ふざけんなよ、てめぇ」

 掠れた男の声。

 それにはまったくの同意だ。自身の血が頭部を掴んで元に位置に連れ戻すという異様な現象は、本当に理不尽だと思う。

 でも、一般人を殺して楽しんでいるような者達に同情の余地はない。

 しっかりと繋がったのを確認するように首を軽く動かしながら、トドメの一撃を振り下ろす。

 しかし、直前で薙刀男の身体が大きく後方に引っ張られたことにより、先端が掠めるだけに留まった。

 どうやら保険を掛けていたようだ。

 薙刀男はさらに逃走と同時に倒れている母親の真上に吸引の魔法を展開し、大量の瓦礫の飛礫を殺到させた。近くにいた味方が巻き込まれる事などお構いなしである。

 相当な速度と、吸引と同時に行われた魔力付与によって、飛礫は十二分に人を殺せる暴力性を孕んでいた。

「レーニィス!」

 プレタが風の精霊の名を呼び、背中から具現化する。

 彼女は吸引の魔法を覆うように超圧縮された大気の渦を発生させ、瓦礫の軌道を変えようと試みたようだが、大きな効果はない。

 このままでは直撃する。閃光でいくつか消し飛ばす事は出来るだろうが、全部は無理だ。

「余計な事はしなくていい! それよりそいつを逃がすんじゃないわよ!」

 こちらの介入を拒絶しつつ、プレタは右腕を振り払い、自分たちを囲うように『糸』の魔法を地面に解き放った。それらは頭上の渦と吸引の魔法に呑みこまれ、瓦礫を筆頭とした外部の暴力を受け止める鳥籠へと変わる。

 それが突破される前に、シャルロットは閃光を薙刀男の胸に撃ちこんだ。

 決定打だ。

 吸引の魔法が途切れ、瓦礫が地面に落ちる。

 飛礫に巻き込まれなかった生き残り二人が、勝ち目のなさを悟って踵を返した。

 増援を呼ばれるリスクがあるので逃がしたくはない。しかしこちらの魔法は既に露見しているので、それを警戒している相手を仕留めるのは難しそうだ。このままでは逃げられる。

 だが、危惧した未来が訪れる事はなかった。

「たった二人を殺すのに無駄に時間を掛けて横槍を入れられたあげく、おめおめと逃げようだなんて、これはぁ、アウト」

 ゆったりとした声が鼓膜を震わせると同時に突然二人の男がその場に倒れ、ピクリとも動かなくなったからだ。

「それにしても、弱いのに危険を冒してまで他人を助けようとするなんて、現実の中でドラマを見たような感じで、私感動しちゃったわぁ」

 かつ、かつと、ハイヒールの音を立てて、ゆっくりと一人の女が近付いてくる。

 額にもう一つの瞳をもった忌子。

 傍らには二人の男が控えている。戦場でこんな感想を抱くのもあれだけど、美男だ。それを強く主張するみたいに化粧も施されているから、そんな第一印象になったのだろう。

 彼等は、優雅でありながらこの上なく不吉な空気を孕んだ女性のバッグと買い物袋を後生大事に抱えている。

 凄まじく場違いだった。すでに戦火で朱く染まっている空の下で、彼等はあまりにも日常的だ。

「この感動を、ぐちゃっ、て潰してしまうのも贅沢だけど、見逃してあげるのも悪くはないのかしら? ねぇ、貴方はどう思う?」

 話を振られた美男がびくっと身体を震わせる。此処が死地だという事をたった今理解したみたいに、極度の緊張に冷や汗を滲ませていく。

「ほ、本番を前に無駄に魔力を消耗するのは、得策ではないかと」

「あら? どうして私がやるって話になってるのかしら?」

「っ、そ、それは……」

「駄目ねぇ。ご主人様の手を煩わせようだなんて。これもぉ、アウト」

「や、やめ、助け――」

 言葉が途中で途切れて、美男は糸の切れた人形のように倒れた。

 なにが行われたのかは、全く分からなかった。魔力の気配すら感じなかった。

「貴方はぁ……やっぱりいいわぁ。荷物持ちが居なくなるのは困るものねぇ」

 そう言って、三つ目の女は左手を男に差し出した。

 その意図を理解した男は、買い物袋から密封された紙コップを取りだし、それにストローをさし、彼女に差し出す。

「ど、どうぞ」

「ありがと。ちょうど喉が渇いていたの、ここ熱いし。……あぁ、美味しい。この国、とっても不愉快だけど、お菓子や飲み物だけは出来がいいのよねぇ」

 コップを男に返し、三つ目の女はゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。

「貴女たち、ここに住んでいるわけではないわよね? そういう格好じゃないし。だとしたら、どうして今ここにいるの? もしかして、私と同じ目的なのかしらぁ? だとしたら、私たち、仲良くなれるかも。ふふ、仲良くなれるといいなぁ。戦場でお友達が出来るなんて、とっても贅沢な事だもの」

 両手を合わせて、三つ目の女は微笑む。

「……なんで、ノイン・ゼタの看板が、アルタ・イレスなんかとつるんでるわけ?」

 強張りきった声で、プレタが訪ねた。

 足の健を切られた女性を背負って、その子供を脇に抱え、逃げる準備は万端と言った様子だが、三つ目の女の許可がない限りは絶対に逃げられないという確信もあるのだろう。だからこそ、プレタはこの事態を引き起こした元凶かもしれない女に向き合う事にしたようだ。

「貴女、私の事を知っているの?」

「『九桁』、或いは『十桁』のララエスタ。ノイン・ゼタの看板の中でも、あんたほど悪名を轟かせている奴はいないわよ。小国の兵隊皆殺しにしたあげく王族に懸賞金をかけて民衆に虐殺を促したり、数十人の貴族を攫ってそいつらの核を圧縮して宝石を作らせたり、街が壊れる様を記録石に残したいとか言って火山の噴火を誘発させたり、大量の傭兵を雇って戦争吹っ掛けて国を三つも滅ぼしたり、『真深夜』の傭兵として以上に、世界最大の賞金首としてあんたの名前は知れ渡ってる」

「それだけ私の事を知っているのなら、どうして、なんて疑問を持つ必要はないんじゃない?」

「噂と実物は違うわ。あんたは、噂以上にヤバそうだけどね」

「なにがどうヤバいのかしら? 気になるわぁ」

「あんた、スロウを殺す気なんでしょう? 奴を炙り出すために、この状況を作った」

「へぇ、凄い、大当たり」

 嬉しそうにララエスタは微笑んだ。

 シャルロットはてっきりルナを連れ戻すために、ノイン・ゼタが寄越した存在とばかり思っていたのだが、彼女は別口という事なのだろうか? それとも適当にこちらに話を合わせているだけなのか……。

「ところで、話を戻すけれどぉ、私たち手を組めないかしら? 貴女の不死は使えそうなのよねぇ」

 とろんとした瞳が、シャルロットを見据えている。

 その奥にある底知れない闇を感じた瞬間、シャルロットの心臓は停止した。血流も電気信号も全てが止まる。魔力感知も不能。思考も程無くして途切れ――

「――っ、ぐぅ、あ、ああ」

 その場にへたり込み、荒い息を吐く。

 なにかをされた。そして死んだのだ。先程の死がまだ遠ざかる前に、立て続けに二度目の死を得る事になってしまった。

 強い強い喪失感に寒気がする。

「やっぱり、私の色格より強い。この神子は殺せない。ふふ、良かった。簡単に終わらなくて」

「あ、あんた!」

 攻撃を受けた事に気付いたプレタが敵意を滲ませたが、自殺行為だ。それを手で制しながら、シャルロットは言った。

「プレタさんは、いったんその二人を連れて外に。私は、大丈夫ですから」

「……分かった」

 二人を気遣って素直に離れていくプレタを見送ったところで、ようやく気持ち悪さが拭われた。

 もっとも、目の前の三つ目の女に対する圧倒的な不快感の所為で、まだ頭はくらくらしているが。

「あら? 私と殺り合うつもりなのかしら?」

 剣に力を込めたのを感じ取ったララエスタが、その第三の眼を少しだけ細めた。

 殺しきれない相手を前にしても、そこに焦りの色は微塵も見当たらない。殺さずとも無力化する術も持ち合わせているという事なのだろう。

「それは、貴女の答え次第です。……貴女は、ルナさんを、眠り姫をどうするつもりなんですか?」

「ルナ? 話が見えないのだけど、もしかしてアンナと繋がっているのかしら? あの子、ルナの事も探しているの? 余裕ねぇ。まあ、私も一杯余分なことしてるからおあいこだけど。それにしてに意外。ウィンさんが行方不明な以上、クウォンタくらいしか宛てがないと思っていたんだけどなぁ」

 下唇に人差し指を押しあて、しみじみとそう呟いてから、ララエスタは言葉を続ける。

「たしかに、ルナを殺すことも考えたわぁ。能力はともかくそれ以外の部分は非常に穴がある娘ですもの。勝つことだけを優先するなら選んでいたかもしれない。でも、死にたがりを殺るというのもねぇ。やっぱり自分が絶対だって信じていて、誰かに殺される事なんて想像もしていない命を奪うほうが、私らしくていいと思うの。何事も贅沢にいかないとね。……それで、どうなのかしら? 一緒にスロウを殺してくれる?」

「……頷けば、虐殺を止めてくれますか?」

「殺しているのは傭兵よ。気に入らないのなら、彼らを皆殺しにするか、私が支払った額以上を出して買収でもすればいい。そうすれば、私が傭兵を皆殺しにすることになって全部解決、するかもしれないわね」

「でしたらお断りします」

 鋭く言葉を返しつつ、自身の周りに複数の光点を展開する。

 戦って勝てる相手ではなさそうだけど、プレタが安全な場所に離れるまでの時間稼ぎはしなければならない。

 その決意をもって構えるけれど、ララエスタはむしろこの返答こそを望んでいたみたいに柔らかく微笑んで、

「そう、それは残念。じゃあ、最低限でいいわぁ。お互い、スロウを見つけたら報告するの。殺すにしても捕獲するにしても、早い方が被害は減るわけだし、それなら大丈夫でしょう?」

「……」

「あれ? 上手く伝わらなかった? つまり今は見逃してあげると言ってるのだけど、行かないの? ――私、結構気紛れよ?」

「――っ!?」

 信じられないほど異様な魔力の圧力に突き飛ばされたみたいに、シャルロットはその場から逃げ出した。

 そうして恐怖が消えるまで離れ続けて、立ち止まったところで荒い呼吸を繰り返し、必死に心を落ち着けている最中に、目的の気配を捉えたのだ。

 スロウの気配を。


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