エピローグ/素朴な疑問
「いやはや、色々と危なかったね。下手をすれば皆死ぬところだった」
帝国を容易く消し飛ばすほどの威力と規模の極大魔法を封殺したルシェドは、どこか愉しげな声でそう言った。
彼の傍にはアンナの他にも看板一歩手前の有力な傭兵が数名いたが、その言葉を信じた者は居なかった。
だからこそ、報復もしない彼に疑問を覚えるのだ。そして、誰かが代わりにそれを担う事になるのではないかという不安を抱く。
(気になるなら訊けばいいのに。臆病な人達)
そんなのだから看板になれないんだよ、と内心で小馬鹿にしつつ、アンナは率直に訪ねた。
「やり返さないんですか?」
「やり返す? どうして?」
「どうしてって、殺されかけたわけですから、報復するのは当然だと思いますけど」
「儀式まであと五十八日。ずいぶんと迫ってきた。けれど、まだ早い。全ての死はこの大地に浸けられる事にはなっているけれど、それでも生贄は新鮮な方がいいからね」
「殺せるうちに殺しておいた方が良いと思いますけどね。最上位の神が相手なんですし」
「? だから遅い方が良いのだろう?」
よく判らないといった風に、彼は首を傾げながら不思議そうに言った。
……まあ、これにも驚きはない。その認識が誤りだとも思わなかった。
ただ、一つ気になるのは、他の神子たちがその事実に気付いているのかという点だ。この男だけは、他の勢力と決定的に勝利条件が違うという事を、はたしてどれだけの勢力が理解しているのか。
(誰も居なかったら、本当に終わり……いや、もう既に終わってるのか)
そんな事を思い、内心でため息をついたところで、
「幸い、一番の脅威は無害だからね」
と、ルシェドは思い出したように、そう捕捉した。
これもまた、何一つ嘘も裏もない言葉で、
「……そういえば、訊いてみたかった事があるんですけど、団長とルナ様が殺し合ったら、一体どっちが勝つんですか?」
自分が殺される可能性を想定しつつも、アンナはまったく淀みない口調で訪ねた。
それに対して、ルシェドは一瞬きょとんとした反応をみせてから、くすりと微笑んで――
これにて第六章『最善の悪』は完結となります。
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