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君>世界   作者: 雪ノ雪
第一章『天使の国の悪魔』
8/115

07/神子

「我々にとって愛憎は必要不可欠な活力だけど、加減を間違えると失敗の元にもなる」

 翌日、情報共有を終えたところで、リリスはこの国に来た当初よりも明らかに剣呑な気配を纏っているヴラドに言った。

「教訓話よ。だから、わたしはこうして己の本質から切り離して存在する事を決めた。下手にやりすぎて不味い事にならないようにね。とっても利口でしょう? そんなわたしの指示に従う利口さを、わたしはお前にも求めたいわ」

「御託はいい」

 ただただ鋭い声で、ヴラドは本題を促してくる。

 昔も今も、性急なのは変わらない。そしてそれを上手くコントロールする事の重要性も、リリスは良く知っていた。

「計画を始める前に一つ提案があるの。お前にとっては人間も悪魔も両方面倒でしょう? だったら両方静かにしてしまえばいい。それが一番、今後の行動を楽にすると思わない? わたしの器にするの。……まあ、決定権をもっているのはお前だけど」

 そこで一度言葉を止めて、リリスはまったく賛同する気のないヴラドに言う。

「代償行為というものが人間には必要なのかもしれないけれど、でも、間違えないで。あれはお前のルナじゃない。そしてわたしの愛しいスゥーヴィエでも、我々の唯一の神でもないわ」

「……当たり前だ」

 いっそ殺意すら滲ませながら、ヴラドは沈んだ声を放った。

 予想通りの反応。とりあえず、これで選択肢は生まれたと思う。そこに微かな期待をしながら、リリスは小悪魔っぽい笑顔を浮かべ、

「それが分かっているならいいの。分かっているならね。では、共通の流れのおさらいと行きましょうか、ご主人様」


                §


 また知らない場所で、シャルロットは目が覚めた。

 直前の記憶は、ヴラドに首を絞められて意識を手放すところだ。でも、ここは彼が居た屋敷じゃない。

(いったい、どこなんだろう?)

 悪魔がまた自分の身体を支配したんだろうか? それとも、記憶を失っている間に彼が自分をここに運んだ? 

 後者だとしたら、やっぱり自分はこの国に差し出されたという事なんだろうけれど……いや、それなら、こんな風に自由に動ける隙間なんて与えられてはいない筈だ。つまりは前者。ただ、不死の悪魔がヴラドをどうにか出来たとも考えにくい。戦闘能力自体は所詮シャルロットでしかない筈だからだ。

 もし、ここでもう少し思考する時間があったのなら、泳がされているという可能性にも至れたのかもしれないが、外から聞こえてきた音によって、それは叶わなかった。

(……誰かが、喋ってる?)

 耳を澄ませながら、静かに部屋を出て音の方に向かう。

 逃げることよりもそちらを優先したのは、その声に覚えがあったからだ。

(ここって、もしかして……)

 屋敷の中を慎重に進む中で、記憶が想起される。

 自分は昔、ここに来た事がある。

 悪魔憑きになる少し前……そう、母の九周忌かなにかだったと思う。

(そうだ、ここはレナリア叔母様の屋敷だ)

 窓から見える庭の、水瓶をもった天使の噴水を見て確信できた。

 でも、どうして此処に居るのかは未だに不明だ。それを知るためにも、息を殺して声のする部屋の前に立つ。

 扉は少し開いている。中に居るのは二人。一人は屋敷の主であるレナリア。そしてもう一人は、シャルロットの父であるダノラウトだった。

 ますます困惑を覚える。が、同時に一つの愚かな希望も灯っていた。

 もしかしたら、父が自分を匿ってくれるように叔母に頼んだのかもしれないと、そんな事を思ってしまったのだ。

 だが、二人のやりとりから知った事実は、それとは真逆もいいところで――

「結局、全て予定通りといったところか。なぁ、ダノラウト?」

「なんの話ですか」

「ずっと嬲り殺しにしたかったのでしょう? 妹を殺したあの娘を」

「……」

「隠すことはない。今更それに意味はない。でも、一体どこまでが貴方の思惑だったのか、それだけは少し気になっていてね」

「それを語る事が、条件というわけですか?」

「血族というだけで、このおぞましい怨恨に巻き込まれた身として、それを知る権利くらいはあるでしょう? 私もあの子を愛していたのよ。貴方ほどではないかもしれないけれど」

 気怠そうな調子で、レナリアは父の本心を求める。

 心臓が、どくん、と跳ねた。

 今すぐ耳を塞げという心の聲と、都合のいい幻想がせめぎ合う。

 その幻想に動きを堰き止められたまま、シャルロットは答えを聞く事となった。

「あの方が亡くなった日からずっと、私はこの時を待っていた。何故あんなものがあの方に代わって生きているのか、その理不尽に耐える事など、到底できなかった。……私は、自分を騙せなかった」


                §


「そう、やっぱりそうなのね。やっぱり貴方が全てを……」

 心苦しげな表情を浮かべながら、レナリアはその視線を扉の奥にいるであろうシャルロットに向けて、

「――っ、そこにいるのは誰!?」

 と、驚きを滲ませた険しい表情を作って叫んだ。

 直後、弾けるように離れていく足音。

 背後の存在にまったく気づいていなかったダノラウトは慌てて振り返り、

「まさか……」

「そのようね。睡眠薬はまだ少し効いているはずだったのだけど。……行って、私の用は済んだ。始末は、貴方に任せるわ」

「では、失礼します」

 おざなりに頭を一つ下げて、彼はその足音を慌ただしく追いかけていった。

 そちらの足音も鼓膜が拾えなくなったところで、レナリアはくすくすと笑う。

「やっぱり、私の事をなにもわかっていないのね、貴方は。……でも、私は貴方の事をよく知っている。貴方よりもずっと」

 だから、ああ言えば自分が最初から全部仕組んだと嘯くのも分かっていた。そうやってアステアへの情を最大限に示すことによって、こちらが納得すると思っているからだ。あの男の目には、未だにこのレナリアが妹を愛する姉に見えているのである。

 ……本当、最初から最後まで、滑稽極まりない話。

 だが、おかげで、あの小娘には絶望を提供することが出来た。

 今まで、アステアが死んだ事に負い目を抱き、罪悪感で多くを受け入れてきたシャルロットにとって、この真実は耐えがたいものだろう。仮に最後に憎悪を抱けたとしても、それすらけして報われることなく潰えるしかないのだから、本当に絶望的だ。

「即興としては十分でしょう? 文句があるのなら自分でやれと、あの節穴に言ってやってもいいくらいには、上手くいったのだから」

 ため息交じりにそんな事を呟きつつ、レナリアは台の下に置かれていた、今はまだ空っぽの大き目のバックを手に取った。

 こちらの為すべき事はこれで全部終わり。あとはエンシェの連中が上手くやるのを祈るだけだ。

(結界と処断の両方に力を用いた状態で、果たしてあの愚かな操り人形はエンシェの神子に打ち勝つことが出来るのか……無理に決まっているわよね)

 これだけで滅ぶ事はないだろうが、良い気味である。

 もはや憎悪しか抱く余地のない祖国崩壊の第一歩に凍える微笑を浮かべつつ、レナリアはエンシェに向けて出発するべくバックを満たし、最後に台の上に立てかけられていた写真立てを丁寧に仕舞って、優雅な足取りでもう帰らない我が家を後にした。


                §


(私、なにしているんだろう……?)

 他人事のような声が、シャルロットの頭の中で回っている。

 息を切らせて、心臓を暴れさせて、がむしゃらに逃げ惑って、もうどこにも居場所なんてないのに、終わるしかないのに、惨めなほど必死になって、本当に一体なにを――

「――っ、ぁ」

 なにかに躓いて、盛大に転んだ。

 ……痛い。これより痛い事なんて忘れてしまうくらいにあったのに、ただの擦り傷が泣きそうなくらいに痛い。

「う、うぅ……」

「良い誘導だったな。見事な供物の提供だ」

 呻くシャルロットの頭上から、踏みにじるような声が響いた。

 顔をあげた先にいたのは、この国の象徴の一人たるユーリッヒ。

「哀れな罪人よ、なにか言い残す事はあるか?」

「――っ」

 咄嗟に身体を起こしながら駆けだす。

 瞬間、両足の感覚が無くなった。ユーリッヒの腰から抜き放たれた剣によって、根元から断たれたのだ。

「まったく、見苦しい。今更逃げてどうなるというのか。……しかし、まだ生きている筈だが、死がトリガーというわけではないのか。直前の状態でも機能するようだな。それにしても、一瞬で治るとは、大した再生力だ」

 軽い感心を抱きながら、ユーリッヒは続けてシャルロットの右手を踏み潰す。

 噴き出す鮮血と共に、悲鳴を抑えられないほどの激痛が走った。意識が異様な鮮明さに支配され、眩暈を誘発する。痛覚を過剰に刺激する、なにかしらの魔法が込められているのだ。

「……ふむ、これはすぐに再生されないのか。魔法を込めた分、ダメージはこちらの方が多い筈なのだがな。単純な損傷でもない。なかなかに複雑だ。確実に処断するためにも、もう少しサンプルが必要だな」

 ユーリッヒの声はどこまでも冷たい。

 彼はこのまま、いくつかの検証のためにシャルロットを痛めつけて、最後に必要十分な魔力をもって滅却を行うのだろう。

 涙が出た。

「やだ、たす、けて、だれか、だれか――」

 本能のままに零れた言葉に、どうしようもなく後悔する。

 もっと早く誰かに、あの人に言えばよかったのだ。助けてって、何よりも知って欲しかったこの気持ちを伝えれば良かった。結果がどうであったとしても、そうすれば諦めはついたはずだから。

「雑音は不要だ」

 痛みを訴える権利すらお前にはないと言わんばかりに、不快を示したユーリッヒが喉を抉らんと刺突の構えを取る。

 全身が震え上がるには十分なほどの魔力。その恐怖に釘づけにされたかのように、シャルロットは剣の切っ先をただ見つめて――

「――ずいぶんと愉しそうだな。小娘一人嬲るのが」

 耳を劈く刃物同士の衝突音と、低く鋭い怒りの声と共に、ヴラド・ギーシュが両者の間に割って入った。


                §


 それだけで人が死にかねないほどの甚大な魔力に晒された繁華街は、あっという間に混乱と恐慌に満たされる。

 しかし、そんな喧噪など歯牙にもかけず真っ直ぐに敵を見据えるヴラドを前に、隣に佇む悪魔は静かな吐息をこぼした。

「やっぱり、お前はそっちを選ぶのね」

 少しは利口を期待していただけに残念ではあるが……まあ、それだけだ。

「いいわ。本番前の練習台としては悪くない相手でもあるしね。二等級は一つまで、三等級主体で処理しなさい。くれぐれも、わたしを失望させないでね」

「お前こそ、さっさとその荷物を連れて消えろ」

「辛辣ね、命懸けで助ける相手を目障りだなんて」

 ヴラド・ギーシュという存在は、おそらくこの世界の中でも最強格の一つだが、それは神子を除いた中での話になる。戦略兵器に該当する彼等は、基本的に魔神や大天使などの上位存在と同列の化物だからだ。

 制限を与えた上で肉薄する事が戦うのに必要な最低条件であり、もし此処が神子の住む街の中などではなく、なんの被害も気にしなくていい場所だったなら、微塵も勝ち目はなかっただろう。もちろん、条件を満たしたところで不利な事に変わりはない。器の戦力差は酷なほどだった。

 ……とはいえ、その程度の話ではある。少なくとも、この世界を敵にすると決めた自分たちにとっては。

「立てる? 死なないだけじゃ戦力にならないんだから、早く離れるわよ。――ほら、こっちよ、こっち」

 軽やかな調子でシャルロットに発破をかけ、リリスは微塵も後ろ髪を引かれることなく、彼女と共にこの場をあとにした。


                §


「……余所者が、解っているのか? 今、貴様の目の前にいるのは、清浄なる大国の片翼を担う神子だという事が」

 くだらない脅し文句を鼻で嗤った瞬間、静止していたユーリッヒの腕が鞭のようにしなった。

 首を撥ねんと襲い掛かってくる斬撃。

 それを造作なく躱して、ヴラドは太刀を返す。

 手応えはない。ユーリッヒが凄まじい速度をもって、こちらの射程外へとバックステップしたためだ。単純な身体能力は、間違いなくこちらよりも高そうだった。

「どうやら、威勢がいいだけの事はあるようだな」

 向こうは向こうで躱されるとは思っていなかったらしい。あんな予備動作まみれの攻撃で死ぬような雑魚ばかりを、これまで相手にしてきたという事なのだろう。

「だが、所詮は只人の契約者だ。それも薄汚い悪魔のな」

 増長の具合は、この言葉からも良く伝わってきていた。

 望ましい限りである。おかげで、油断をついて一撃を喰らわせるプランが簡単に用意出来た。

 その成功率を出来るだけ高めようと、単純な性能の比べ合いを開始する。

 ただただ鋭く重く速いだけの斬撃に、直線的で目先だけの回避。

 プライドの高い神子は、当然のようにこちらの姿勢に乗り、自身の性能を上げていく。

(……そろそろか)

 もう少し無理をして追い縋る事も出来たが、まだ仕留められない事に神子が苛立ちを見せたのを感じ取り、このあたりで仕掛ける事にした。

 追い詰められた者の破れかぶれな大振り――それを避けて一撃を加えれば終わりというシチュエーション。

 ユーリッヒは殆ど迷うことなく、こちらが意図した通りの動作を取り、

「後悔はもう済ませたか? さあ、天罰の時間だ」

 という嘲笑を嘲笑うように、この戦闘が始まった時から仕掛けていた奇襲が、綺麗に成立した。

 ヴラドの魔法で開き繋げた二つの空間によって、彼の斬撃はこちらの首ではなく、背後から自身の首へと振り抜かれたのだ。

 勝利を確信していたユーリッヒは、自分が死ぬことすら察知できずに即死する。彼一人なら、それ以外の未来は存在していなかっただろう。

「……油断が過ぎますよ。魔力をもっと良く視てから行動しなさい」

 六枚の翼をもった大天使がユーリッヒの背中から現れ、斬撃をその翼で受け止めていた。

 白と青の礼装を身に纏った金髪碧眼の女。ギルド前の広場で見た石像のモデルでもある。

 噴き出た血によって翼は赤く染まったが、致命傷には程遠い。

 基本的に口だけしか出せないこちらのリリスと違って、それ以外の事もこの天使は実行してくるだろう。

 ここからが本番だ。こちらも本気で気を引き締めて行かなければ容易く即死する、そんな相手。

 それを理解した上で、ヴラドは心底つまらなそうに言葉を綴ってみせた。

「そちらも後悔は済んだか、足手纏い。……次はないぞ?」


                §


 天使の第二位の席に着く完全な上位存在であるルプテにとって、目の前の人間は取るに足らない相手だったが、未熟な宿主にとっては実物以上に大きく見えているようだ。普段なら安い挑発など喜んで買うところを、今は警戒心の方が強くなってしまっている。そしてそれは、おそらく相手の狙い通りの結果だった。

 敵の目的はシャルロットを逃がす事。ある程度の時間を稼ぐことが出来たら、あとはこちらを撒くつもりなのだろう。空間に干渉する魔法をもっているのだから、それは十分可能な話だ。

(戦力差を理解出来ていれば、容易にたどり着ける事だと思うのですが、やはりまだまだ相手を見極めるという行為には難があるという事なのでしょうか)

 経験不足は、生まれた時より他と隔絶している神子という存在である以上、仕方がない事ではあるが、このままでいいわけでもない。

 そういう意味では、目の前の相手は実に良い教材だ。すぐに殺すのも惜しかった。

(戦いの駆け引きも、同格以上を相手にするようになれば、絶対に必要となるものですしね)

 そして、神子が本来戦うべき相手は同じ神子なのだ。この先に待ち受けているであろう重要な局面において、それはなによりも必要な経験と言えた。

(……それにしても、巧い)

 最初の戦闘はやはり簡単な罠だったということを示すように、今のヴラドの動きには単調さがまるでない。攻撃も防御も全て異なるリズムで行われ、その変化も極端なうえ、相手の感情を読み切ったように時に大胆な選択も取ってくる。

 基礎的な技術の高さも特筆しており、一手一手の攻防で差がつけられているのが見て取れた。

 それをユーリッヒは性能でなんとか埋めているが、これだけの性能差があってなお埋めきれないというのは正直驚きだ。油断などとうに消え失せているだろうに、未だに劣勢が覆せていない。

(神子である以上、規模調整が極端になってしまうのは仕方がないですが、せめてもう少し攻撃の精度と出力の調整が出来る器だったのなら、或いは当て勘のようなものでも持っていてくれれば……なんて、望み過ぎですね)

 自分の思考に、少し呆れる。

 第二天使を無理なく宿せる器が人間の世界にある事自体、奇蹟もいいところなのだ。

(私がいる限り、この子が死ぬことはない。絶対的な強度の差もある。ならば、このまま静観をするのが一番でしょうか)

 仮に逃げられたとしても問題はない。別段この男を今すぐに殺さなければならない理由はないのである。それに、どうせ結界内からは誰も出られない。不死の魔神にその力はない。

(とはいえ、あまり時間を掛け過ぎるのも、好ましくはありませんが)

 結界の維持には多大な魔力を使う。

 もし、それこそが敵の狙いだとするのなら……

(……いえ、これも過度な警戒ですね。それに、どの道決定打にはならない)

 そう結論を出したタイミングで、ルプテは眉を顰めた。

 人間が扱える魔法は心臓に宿った核によって決まる。一人一種類しか使えないというのが常識だ。一応、水と氷などの近しい魔法ならその両方を扱う事が出来るケースもあるが、それだって稀なもの。

 だが、目の前の敵は今、空間に纏わるものとはまったく異なる魔法を放った。大地に干渉して、ユーリッヒの足場を乱したのだ。

(魔石を使った?)

 普通に考えればそうだ。

 番石や記録石などとは違い、攻撃系の魔石はその出力の関係上基本的に使い捨てだが、魔石の許容量次第では強力な魔法を安価の魔力で解き放つことが出来る。ただ、その場合は目の前の男ではない別の誰かの魔力が前面に出る筈。

 しかし、感じ取れたのは魔石の起動に必要な程度の微量な魔力のみで、半径二十ヘクテルの地盤を大きく歪ませるほどの魔力の方は、目の前の男から溢れ出たものだった。

 これは異常だ。だが、それ以上に異常なのは、ここで初めて明確に感知出来たこの男の魔力の色が、どう見ても大地に干渉する事の出来るものではなかったという点である。

 それは、さながら石炭や石油で生きた馬を動かすような不条理で――

「――貴方、まさか……?」

 強い嫌悪感が、全身を満たしていく。

 この男は、他人の核を使っているのだ。

 核に残された魔力の原液を取り込む事によって、その魔力を自身の世界に『定着』させているのか、或いはその情報の一部を『再現』させているのか、いずれにしても概念に干渉する最上位クラスの魔法である事は間違いないだろう。

 と同時に、それは死者に対する最大の冒涜でもあった。許しがたい罪だ。到底看過は出来ない。

「……このままでは埒が明かない。ここからは私も、本格的に加わる事にしましょう」

「っ、それは――」

「貴方の動きに合わせます。良いですね?」

「わ、わかったよ、ルプテ」

 幼いころから偉大な母として振る舞ってきたルプテに、ユーリッヒが逆らえるわけもないので、この手の無駄は最小限で済む。そして頷いた以上、ユーリッヒはそれに集中するし、不安から解放されて動きも良くなる。

 結果、全ての局面で、形勢は一気に逆転した。

「……ふむ、どうやら、あちらの抵抗も終わりに出来そうですね。よい位置にいる」


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