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君>世界   作者: 雪ノ雪
第六章『最善の悪』
72/112

09/斑色の、この世界

 空に無数の穴が空いている、そこから魚が出てきているのだ。

 程無くしてその異様を解消するかのように、空が液状化して海へと変わった。

 まさに世界そのものが侵略されているかのような光景だ。

 魚たちは地上に近づくにつ入れて、水を注いだ風船のように膨らんでいき、やがて一ヘクテルほどの大きさを手に入れた。

 そうやってサイズを手に入れた魚たちは、矢のように標的に向いて、大口を開けたままに射出される。

 瞬き一つで抉り取られる住民たち。

 呆然としていた彼等の口から、悲鳴や怒号があふれ出た。

(頭部を狙っているな。情報を取っているようだ。ついでに魔力の方も吸い取って……ふむ、これは内部で新しい命を構築しているのか)

 マヌラカルタの聲が脳内に響く。

 その言葉が事実であることを示すように、人間を喰らった魚たちは、次々と分裂してその数を増やしていく。

 騎士たちは抵抗しているが、やはりというかあまり機能していない。

 攻撃の殆どは硬い鱗に阻まれ、迂闊な接近はフグのように広がった針によって潰され、射線に入ったものは強烈な吸引に引っ張られて頭から食われていく。

 まともに討伐できているのは、おおよそに二割程度だ。明らかに数が足りていない。召喚獣の応援がなければ、あっという間に全滅してしまうだろう。

 そんな実情を建物の屋根の上から観測していたシャルロットは、一つの不自然さに気付いた。

 致命傷を逃れたが重傷を負った者たちに、恐怖や痛みの色が全くなかったのだ。まるで常に死地にいる歴戦の戦士のように、彼らは勇敢に魚たちに立ち向かっている。

(……そう、これがそうなのね)

 先程のプレタの話を思い出し、周囲の魔力の流れに意識を集中させる。

 異様な気配を放っている魔力がある筈だと、感知の波を広げていく。

 見つけた。下層と呼ばれている、外壁周辺にある屋根に穴の開いた家屋。その中にいる人物に、地下から無数の魔力が流れ込んできている。

 魚たちもそれを感じとったのか、何匹かが目先の敵を無視して、そちらに向かって泳ぎだした。

(どうやら本能だけで動いているわけではなさそうだな。むしろ、本能などない、忠実な駒として見た方が良さそうか)

 緊張を帯びたマヌラカルタの見解を聞きながら、シャルロットもまた生贄とされた者がいるであろう家屋に向かって駆けだした。

 それを補助するように、風の精霊が現れ、シャルロットに大気のヴェールを纏わせる。

  身体が軽くなり、周囲の抵抗が減退したのを感じつつ、シャルロットは速度を上げた。

 一足先に家屋に到着する。

 壁には落書きがされ、窓は割られ、生ごみの匂いが周囲には漂っていた。

 鍵なんてないドアを開けると、一人の男性がのたうち回っている。

 痙攣し、脂汗を噴き出している身体。地面を掻きむしった所為か、そこら中に爪が剥がれ落ちていた。なのに声はあげない。喉が潰されているのだ。魔法を宿した刻印が刻まれている。

「なかなか酷い有様だね」

 不意に背後から声がした。

 振り返った先にいたのは、知らない女性――に、化けていたリグチラだった。

「貴女の魔法で、摘出できますか?」

「あぁ、問題ないよ。ただ集中する必要がある。あと、代わりになる死体も一つ必要かな」

「わかりました」

 魚たちがやってきた。

 その数秒遅れでプレタも到着できる距離にいたが、彼女の耳はこのやりとりを把握しているので、死体の回収を優先するはずだ。

 なので、呪いを摘出するまで二人を守るのは、シャルロット一人の役目になるだろう。多分、大きな問題にはならない筈だ。

 上空に光球を展開し、そこから閃光を解き放つ。

 多少の抵抗あったが、問題なく貫けることを確認、視界に入った敵から順に撃ち落としていく。

 けれど、数が多い。

 迎撃が間に合わず、三匹ほどの接近を許してしまった。

 大きな口が真正面にこちらを捉える。凄まじい吸引で、身体が前に引っ張られた。そうして体制が崩れたところに左右からの突進がやってくる。

 シャルロットは踏ん張ることを止めて前に踏み込み、腰を細剣を振り抜いた。

 横一線に魚を捌くことに成功するが、両断されても魚は死なない。

 何事もなかったようにその姿を海蛇に変えて噛みついてくる。この分だと、撃ち落とした魚たちも絶命には至ってなさそうだ。

(核がある筈だ。早く見つけてそれを潰せ。あぁ、安易に攻撃は貰うなよ?)

 異世界の存在が相手だからか、不死の魔神も慎重だ。

 鞘で蛇の牙を凌ぎつつ、もう一体の蛇の全身を閃光焼き尽くす。燃費は悪いが、これなら確実だ。

 とはいえ、この方法を何度も続けていたら後々に響くのも明白なので、残った一匹の蛇に関しては、しっかりと核を補足したうえで、細剣で始末するのが良さそうだ。

 右側のヒレに張り付いていたそれを穿つと、たちまちに蛇は水となって地面に落ち、一切の反応を示さなくなった。

(なるほど、核以外は全部水で出来ているのね)

 おおよその特性を把握しつつ振り返ると、残っていたはずの二匹は大きな一匹へと変わっていた。どうやらぶつかった拍子にくっついたらしい。

(……核は二つ、いや、三つ? 増えてる)

 代わりにサイズはダウンしているが、魚自体の大きさはそのままだ。

 大口を開けながら突っ込んでくる。と、同時に、三つの核は尻尾から外に飛び出て、水たまりになった蛇の方へと向かっていった。

 その動きを補足できなかったら、それこそイタチごっこになっていただろう。

 巨大な魚を躱しつつ、シャルロットは核に向かって閃光を解き放つ。

 二つはそれで消滅したが、一つを取り逃がした。

 背後で水が落ちる音が鳴る。振り返ると巨大魚は小魚へと変わっていた。核を失ったことで、制御できる水の量が減ったようだ。

(最初から分裂しなかったのは、やっぱり核が大きい方が出力を出せるからとかなのかな)

 なんてことを考えつつ最後の核を細剣で斬り捨て、視線をリグチラに向けると、彼女は生贄とされた男性の四肢をツタのようなもので拘束し、ゆっくりと胸元に手を這わせていた。

 まだ時間はかかりそうである。

 対して、敵の増援はすぐにやって来ていた。

 今度は七匹。しかも全部がシャルロットの倍くらいの大きさをしている。倒す事自体はそう難しくないだろうが、守りながらとなるとなかなかに骨だ。

 プレタも死体探しに少し苦労しているようだし、騎士たちがこちらに来る気配もなし。

 最大火力で一気に畳みかけるべきか、それとも――

(随分と遅い到着だったな。まったく、腑抜けの限りだ)

 マヌラカルタの呆れるような声と共に、空間が裂けて、そこから天使の軍勢が姿を見せた。

 翼を大きく広げ、彼らは光の槍をその手に持ち、七匹の魚目掛けて一斉に投擲する。直撃と同時に大量の熱を放出する槍は、掠めるだけでも魚たちを沸騰させて核を焼き尽くした。

 さらに逃げ延びた一匹を、一人の天使が羽ばたき一つで間合いに捉え、新たに具現化した槍をもって一突きで核を射抜く。

 あっという間の処理だった。

(これが、サラヴェディカの戦力……)

 想像していた以上の強さだ。

 たしか自由に行使できる数は千以上という話でもあったし、この分なら空の魚たちを造作もなく一掃してくれるだろう。

 ただ、問題はその権利をもっているがシャルロットではなくノスティワだという点だ。彼女がこの局面をどう利用するか次第で、天使の行動も変わってくる。

 どの程度クリスエレスに恩を売るのか、どの程度のダメージをクリスエレスに期待するのか。

「中央の被害は無視しそうな感じね。外周だけを守って、あとは騎士たちに任せる、少なくとも、要望があるまではそうするつもりなんでしょう」

 生贄の男性と体格の近い死体を肩に担いでやって来たプレタが言う。

 その言葉通りに、天使たちはしばらく静観したのち、残りの魚たちに向かって攻撃を再開した。


                §


 ……もうじき、殲滅が完了する。

 追加の増援もなく、魚が減るごとに空は正常な状態へと戻っていっていた。

 リグチラはその間に生贄にされた元貴族に刻まれた呪いを摘出し、それを死体に移し、死体の姿を元貴族へと変化させた。さらにご丁寧に、身代わりを用意したタイミングで侵略者と同じ魚を一匹生み出して、それを外へと放出する。

 その擬態を何人かに目撃させて、物陰に隠したところで変身を解除、隠蔽工作を完了させた。

「もう、ここに用はない。ひとまず戻ろうか」

 一仕事を終えたリグチラが、裏世界の扉を開く。

 シャルロットは生贄から解放された男性を抱き上げて、最後に中に入った。

 本来の持ち主であるペドリツァーノの片腕をヴラドに差し出したことで、多少狭くなった深海世界は、相変わらず落ち着く静けさに満たされている。

 そこを経由して、サラヴェディカへと移動し、ひとまず医務室へと男性を運ぶことにした。

 肉体の方のダメージはそこまで深刻ではないが、精神の方はかなり心配だ。

「死体が雑に処理される事は把握しているからね、偽物だと気付かれる可能性は低いだろう」

 そんなシャルロットの視線を見て、そちらの方を心配していると勘違いしたらしいリグチラが言う。

「そうだね。うん、ありがとう」

「歯切れが悪いね。つまりは私の認識違いか。……もしかして、この人物を心配しているのかな?」

「もしかしなくても普通はそうでしょ?」

 呆れたようにプレタが言う。

 それに対し、リグチラは微かに眉を顰め、

「加害者を心配するのが普通というのは、いささか偏った見方だと思うが」

「加害者って、どういう事……?」

 聞き流せない言葉に、シャルロットは足を止めた。

「彼女から聞かされていないのか? 彼は貴女が以前所属していた自警団の出資者の一人だよ。つまり、貴女の扱いに口を挟めた一人だった」

「……」

 ちらりとプレタに視線を向けると、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。

 どうやら事実のようだ。そのうえで彼女は黙秘を選んだ。……まあ、どちらの選択も悪意があってのものじゃないのは判っているので、ここはどちらの厚意も受け取っておくのが一番良いのだろう。

 止めていた歩みを再開させ、医務室のベッドの上に彼を寝かせる。

 室内と寝台にはそれぞれ魔方陣が描かれており、回復能力を高める効果があるようだった。

 そのおかげか、剥がれた爪はあっという間に生え変わり、隈が酷かった目元も顔色の悪さも見る見るうちに健康なものへと変わっていく。

 そうして改善が一通り完了したところで、彼は眼を覚ました。

「ここは、一体……?」

「ここはサラヴェディカ、ある神様の領域の一つ。安全な場所ですよ」

 と、シャルロットが答えると、彼はまじまじとこちらを見て、

「貴女は、まさか……」

 声を震わせ、腰を引かせて、恐怖に満ちた眼差しをこちらに向けてきた。

 けれど、嫌悪の類は見当たらない。これはリグチラが洗脳の類も一緒に摘出してくれたから、なのだろうか。

「……ええ、私は、シャルロットです」

 少し考えて自己紹介をすると、彼は落ち着きなく視線を彷徨わせ、自身の胸を鷲掴み、懊悩するように眉間に皺を刻み、身体をわずかに震わせ、それからしばらく息を止めたのちに、

「申し訳、ありませんでした……」

 と、深々とシャルロットに謝罪をし、続けて感謝の言葉を述べた。

 ……複雑な気持ちだった。煮えたぎるような怒りと、どうしようもない虚しさが同時に胸に去来していて、どんな表情をしていいのか分からなかった。

 そんなシャルロットに代わって、リグチラがズカズカとこうなった経緯を淡々とした口調で尋ねる。

 すると彼は、激しい怒りと共に叫んだ。

「私の意志じゃないっ! そんなわけがない! ……だって、愛していたんだ。妻を、娘を……どうして、どうしてこんな事に……!」

 怒りは途中から深い悲しみと絶望に塗りつぶされて、やがて嗚咽と乱れた呼吸だけが室内を揺らしていく。

 無理もないと思った。彼は、自分の手を使って最愛の人を奪われたのだ。慰めの言葉なんて、見つかるわけもなかった。

「……まずは、休んでください」

 それだけ告げて、シャルロットは医務室を後にする。

 三人が出たところで扉は自動で閉められて、悲痛な音は完全に聞こえなくなった。

「助けて、それで次はどうするんだ?」

 影から顔をだした悪魔が、愉しそうに訊いてくる。

 この場面で、そういう感情を持っているという事実が本当に悍ましいが、次を考えなければならないのが自分であることは事実だ。

「……彼がいなくなったことで、次の生贄を用意しようとするはず。そこを突破口にする。……それで、どうかな?」

「こちらに異論はないよ」

 特に表情を変えることもなく、リグチラは頷いた。

「あたしも問題はないと思うわ。まあ、先にクーレの奴の了承を得る必要はあると思うけれど」

 そう言って、プレタが虚空に向かって彼の現在地を訪ねると、数秒後虚空から無機質な天使の声が返って来た。

「クーレ様とノスティワ様は、現在戦力確認のため、アルタ・イレスの活動場所に赴いております」


                §


 魚たちの襲撃はクリスエレスだけではなく、大陸の多くの国で同時に発生していた。

「あれがオセか」

 ザーラッハの防衛で雇われたのだろうアルタ・イレスの傭兵団が、空飛ぶ魚共と戦っている。

 その中心にいるオセは、数多の敵を干乾びらせながら、敵将と思わしき家屋ほどの大きさの巨大魚の元に悠然と近付いていっていた。

 生気でも吸収しているのか、それとも『枯らせる』魔法なのか、おそらくは前者だとは思うが、オセは神子らしい圧倒的な力で、しかし神子として見れば不足気味な力で、事を優勢に進めている。

 その様を見ていたクーレが、

「彼、死ぬね」

 と、呟いた。

 正直ノスティワにはその言葉の意味がまったく理解できなかった。近くにそのような脅威はまったく感知出来なかったからだ。

 一体、どのような展開になれば、そんな事が起きうるのか……

「ねぇ、ノスティワ、君はこの戦争、どちらに分があると思う?」

 戸惑う彼女に、質問が投げかけられる。

 これもまた答える必要がないくらい判りきった話で、

「僕は五分くらいだと見ている。だからこの戦争、きっと長引くよ」

 しかし、彼はこちらの認識とは反対の言葉を口にした。

 大きな相違に、否応なく不安を覚える。

「その根拠は――」

 問い返しを遮るように、歪んだ音が耳朶を叩いた。

 どこから放たれたのかはまったく分からなかったが、それが齎した結果はすぐに理解する事が出来た。。

 オセの胸に大穴が開いて、そこから大量の血飛沫が噴きあがっていたからだ。

 おそらくは即死だろう。オセはそのまま前のめりに倒れて動かなくなった。その死体を慌てて部下の傭兵たちが回収して、アルタ・イレスは撤退。優勢だった戦場は、たちまち拮抗状態にまで悪化する。

「うん、やっぱり間違いないな。ヴラドが神子と戦っていた時にも感じた魔力だね。これは」

 ぽつりとそう呟いてから、クーレはこちらに視線を向けて、

「答える必要、まだありそう?」

「……いいえ」

 苦々しい気持ちを抱えながら、ノスティワは彼の言葉がもつ説得力に頷くしかなかった。


                §


 宣戦布告の攻勢を完璧に防いだルウォ帝国は、間髪入れずに報復に打って出た。

 ターカス付近の、現状管理が曖昧となっている領域を陣取った敵に、軍を差し向けたのだ。

 指揮を執ったのはグンダルとトォーベだった。

 グンダルは自軍の最後方で大あくびをを漏らしながら手に持つ酒をちびちびと飲んで、それはもうやる気の欠片も見当たらなかったが、トォーベの方はやる気満々、既に最前線で戦っている。魔法は風だろうか。見えない刃をこすり合わせて、派手な演奏を奏でていた。

「行くぞ行くぞ行くぞぉお!」

 その音よりも大きな声で叫びながら、彼は大鎌を振う。

 風切り音も混ざって、とにかく不穏な音がひっきりなしに続いていた。

「……あれ、魔法のコントロールが出来てないんじゃない? だからあんな風に髪の毛を固めているのかしら? 固めないと視界の邪魔にもなりそうだしね、あの長さだと」

 飴を口の中で転がしながら、隣に立つリリスが言う。

「切れば解決だろう?」

 同じように口の中に入れた飴をバリバリとかみ砕いてから、ヴラドも適当な言葉を返した。

「莫迦ねぇ。それはお前の理屈。皆、お前よりはずっと美意識というものをもって生きているんだから。絶対にわたしの予想が正解よ」

「まあ、なんでもいいが」

「ええ、それも正解ね」

 気の抜けたやりとりをしながら、二人は両軍の側面、約十ヘクター先から彼等の戦いを眺める。

 戦場に参加するつもりはなかった。どうせ放っておいてもこちらが勝つのが判りきっていたからだ。そして何人殺したところで、追加の報酬があるわけでもなし。

「退屈そうね。だったら少し建設的なお話でもしましょうか。あれ、見える?」

「ミッドラインダの兵士たちだな」

「そう。空戦士もいるからかなり本気の構成と言えるわね。共闘の話が通っているのか、お互いの距離もかなり近い。余所者が全方位に喧嘩を吹っ掛けたおかげで、今この世界の全てが共通の敵を打倒するため手を取り合っている。実に合理的ね。ただ、哀しいかな、彼等は巨悪と呼ぶには不足過ぎる」

 その不足が孕んでいるものはなんなのか、リリスは冷ややかな微笑で示してくる。

「仕掛けてくると思うのか?」

「さあ、どうかしらね。さすがに戦力差が大きいから、この戦場ではなさそう。でも、あちらやそちらの戦場でもこういった状況になるとは思えない」

 つまりは、戦場という混沌を使った暗殺や謀殺があらゆる陣営で頻発すると、リリスは言っているわけだ。そして当然、自分たちもその状況を利用するべきという考えが、そこには含まれている筈で、

「標的は?」

「もちろん、あの灰公爵……と言いたいところだけど、戦場に出てくる理由が乏しいわ。そして他に死んでもらいたい相手もルウォには特にいない。ひとまずは静観ね。期待をして待つことにしましょう、たくさんの自惚れ屋共が無様に死ぬことを。ふふ、あっはは」

「……」

「なに?」

「いや、調子が戻って来たなと、思っただけだ」

「なにそれ?」

 リリスは不機嫌そうに眉を顰めつつ、だがすぐにバツが悪そうにそっぽを向いた。

 と、そこで、通信石が震える。誰かから連絡が届いたのだ。

 よほど重要な内容だったのだろう。弛緩していた空気が変わった。

「……そう、ずいぶんと早かったわね。重役連中を殺してくれた平凡顔の皇帝さまに感謝するべきかしら? それで、場所は? ……そう、そんなところにあったのね。ありがとう」

「また、あの記者もどきか?」

「ええ。ちょうどいいタイミングというべきか、しばらく大陸を離れることになったわ。大仕事よ。戻ってくるのは、この戦争が終わる頃くらいかしら。まあ、わたしの想定通りに行けば、だけどね」

 そう言って、彼女は少しだけ寂しそうな表情を浮かべてみせた。


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