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君>世界   作者: 雪ノ雪
第五章『二人のリリス』
60/64

16/死闘

 ククルの死は問題なく偽装することが出来た。無事にゼクスの元にも辿りつけたようだ。

 それをシャルロットに報告してくれたプレタは冒険者ギルドに戻り、エイダとロワァードも引き続き深海世界の隠し屋敷に匿われる事となった。ちなみに、二人を深海世界内で隠している理由は、ペドリツァーノの領域の拡張実験とロワァードが勝手な行動をしないための軟禁が目的だったようだ。

「とりあえず、こちらの問題は急ぐ必要がなくなった。平和主義者の活動領域も変わらず。侵攻の手助けは続けられるだろう。とはいえ、こちらの戦力も十分ではない。引き続き、また貴女には手を貸してもらいたいところだが――」

 と、そこで、リグチラの右耳に付けられていた通信石が微かに振動した。

 今は個人用に設定されているようで、報告相手の声はシャルロットには聞こえない。

「……そうか、わかった」

 三十秒ほど聞き役に徹したところで、リグチラは短く言葉を返して通信石との繋がりを切った。

「なにか、動きがあったの?」

「次の侵攻先が決まった」

 吐息を零すようにそう答えてから、リグチラは淡々とした口調でその内容を語り、最後にこう締めくくった。

「この作戦の中心となるのはヴラド・ギーシュであり、その邪魔となる存在の排除を貴女にも任せたいそうだ」

「そう、わかった」

「あっさりと頷くんだね」

「それは、断る理由なんてないし」

「全てを賭けて成し遂げろ、と言われていたとしても?」

「リリスさんが、そう言ったの?」

「部下の伝達に誤りがなければね」

「それだけ、危険な内容なんだね。ヴラドさんにとって」

「……嬉しそうだな」

「え? そう見える?」

「あぁ、口角が少し上がっていた」

 指摘されると、なんだか少し恥ずかしくなったが、その通りだというのは自分が一番よくわかっていた。

「そうだね。だって、戦力として評価されているって事だから。すごく、嬉しいよ」

 そう答えると、リグチラは何故か神妙な表情を浮かべて、

「一つ訊いていいかな。貴女にとってリリスとはどういう存在なんだ?」

「どういうって……どうして、そんなことを?」

「今の貴女は、最初の頃と違って、言われるがままには見えないからね」

 だから今知りたいのだと、リグチラは言った。

 シャルロットはその問いに、少し考えてから、

「怖いヒト。でも私を救ってくれた大切なヒト。きっと、ヴラドさん一人だったら、今の私はなかった。あのヒトが機会を与えてくれたから、私は昔より強くなれたんだと思ってる」

 と、答えた。

 それにどんな感情を持ったのかは判らなかったけれど、彼女は平和主義者の主導者へと意識を切り替えて、

「もう一人の灰公爵は、ヴラドと敵であるノイン・ゼタの両方を殺せるように動くだろう。エンシェとしてはそうしたい筈だ。この認識に異論はあるかな?」

 と、マヌラカルタに訪ねた。

 影から不死の悪魔が顔を出す。

「特にはない。ただ捕捉をするなら、叔母様も出てくる可能性が高いといったところか。あの女は相当に強かったのだろう?」

「……ええ、強かった。でも、今度は負けない」

 力強くシャルロットは答える。

 これは、ヴラドを守るための戦いでもあるのだ。

 彼が万全の状態で、これ以上ないほど危険な相手との戦いを行えるようにする。命なんていくらでも捨てていい。なにがあっても邪魔なんてさせない。

 鋭く硬い決意をもって、シャルロットはその日のための準備を開始した。


                §


 ギアへの侵攻が始まった。

 軍を持たないマウロは、この件にもう関わる要素を持たない。

 とはいえ、それはアルドグノーゼのマウロの話であり、エンシェの統治者にしてリズの契約者たるマウロ・バレンタインにはまだいくつかの手が残されていた。

「……ええ、予定通りに行ってください」

 その一つの最終確認を済ませ吐息を零したところで、鼻孔にお香の匂いが届けられた。と同時に、彼女の聲が響く。

「ずいぶんと大きな手を打ったようじゃな」

 影からゆらりと現れたリズは、少し疲れているように見えた。

 あまり進展がなかったので、息抜きがてら戻ってきたのかもしれない。

「ええ、彼等はここで終わらせる。それが最も重要だと判断しました」

「理由を聞かせてみよ。妾が感嘆する内容であったのなら、此度の成果を教えてやろう」

「それは、なかなかに魅力的な報酬ですね。ただ、それに答えられるどうかは正直不安です。なにせ、根拠と言えるようなものが殆どありませんから」

「にもかかわらず、タシネル・リャンタに関する情報を更新させるというのか? そなたらしくないな」

「ですね。自分でもそう思います。だから、きっと彼女もそう思った事でしょう」

 それ故に、これは決定打にもなると、マウロは確信していた。

「まあ、悪くはない答えじゃな。だが、見落としが一つある」

「え? 見落としですか?」

「兵による消耗戦もほどほどにアルドグノーゼが動いた。ギア侵攻に合わせてエルラカを討つようじゃ。思ったよりもずっと早いタイミングじゃな。これでザーラッハからの横槍はほぼなくなった」

「……私の方が、してやられたという事ですか? まんまとアルドグノーゼがエルラカを狩る状況を、彼女に与えてしまったと?」

「ここでリリスが早々に降りればその通りとなりそうじゃが、おそらくそれはない。ならば、別の思惑が混ざったと見るのが自然」

「ルウォ、ですか」

「あぁ、であろうな、奴があの臆病者を焚き付けたのじゃろう。裏に居ても、奴が今の流れを作っておる。気になるのは、エルラカをどうするかではあるが……うむ、やはり、アルドグノーゼが生かして利用するとは考えにくい。となれば、ルウォの方も処分を望んでいるという事か。儀式の勝算を考えれば手駒にするのが好ましい筈じゃが、それをしない。或いは出来ない理由が生まれたか。……まあ、よい。そなたと話せて少し、気が晴れた。今度顔を合わす時は、朗報を期待しておるぞ」

 気になる疑問を残して、リズは再び内側へと消えてしまった。

 そこに拭いきれない寂しさを覚えつつも、思考に戻る。

(しないのか、出来ないのか、か)

 なんだろう、これは酷く重要な気がした。

 なにか、決定的な見落とし、或いは先入観による誤認をしているのではないかという不安が滲んだのだ。

(……まあ、いずれにしても、彼等が降りないのであれば、今回の会議での目的は果たせる)

 今は、ひとまずそれだけでいいと自身を納得させて、マウロはアルドグノーゼの動向を追いかけるべく部屋を後にした。


                §


 都市内にいた平和主義者の手によって、ヴラドとリリスはギアへの空間転移を果たした。

「転移門の気配は最小に留められている。これなら、気付かれてはいないわね」

 そう呟くリリスは、実体化している状態だ。その理由は通信石などで情報を共有するため。実体化していなければ物体に触れられないためである。

「……どうだろうな」

「なに? もうバレているっていうの?」

「あぁ、間違いない」

「魔力感知に引っ掛かった感じもしないけど……まあ、お前が言うならそうなんでしょうね」

「他の将軍は?」

「既に指定の位置についているわ。ここからじりじりと近づいて、緊張状態を高め、弾ける手前を維持して釘付けにする。今のところ、大きな問題は発生していない。小娘たちも、別の門から侵入を成功させたわ」

「……そうか」

「心配?」

「弱いからな。自分の身を守るので精一杯だ」

 そして別にそれでいいというのが、ヴラドの変わらぬ認識だった。

「その点に関しては一貫して辛辣ね。それは、お前と比べたら弱いでしょうけど、わたしよりは強いわよ」

 胸を張って淫魔もどきが言う。

「お前より弱い奴なんて、戦場にはいない」

「あら、酷い。じゃあもっと魔力を貸してくれてもいいんじゃない?」

「それでコスト以上の戦力になるならな」

 つまらなげに言葉を返しつつ、ヴラドは転移門を隠していたアパートの一室から出る。

 戦争が近付いている現実を前に、ギアの住人は怯えているようだった。こういう空気感なら、騒ぎが起きた途端に正しく逃げてくれるだろう。それが、こちらにとって良いのか悪いのかはさておき。

「……ここの軍隊はおおよそ都市外に出た。あとはお前のタイミング次第で始まるわ。一等級以外全て使っていい。勝って」

 懐かしい物言いだ。

 まだまだ敵の実力を計る力も、実力を出し切る賢さもなかった頃、リリスは自分の不安を誤魔化すように、ヴラドに勝利を要求してきていた。

「持っていろ」

 刀を抜いて、鞘を預ける。

 それを両手で抱きしめるように受け取ったのを確認したところで、ヴラドは抑えていた魔力を解き放った。

 都市内の戦力は殆ど外に出たが、都市の魔法陣を用いる部隊は内部に留まったままだ。

 その一団が、こちらに気付いた。

 得物を抜いた傭兵がいるのだから当然警戒は一気に高まる。そしてそれがヴラド・ギーシュだと気付いた瞬間、容易く臨界点へと至った。

 そんな中、ヴラドの視線の先に居る黒髪の男は、ただただ静かだ。

 放つ声も同じく、囁きに近いほどにか細い。

 だが「下がっているといい」というその声に、誰もが足を止めた。

 威圧感などなにもない一言に、服従したのだ。

 これは魔法ではない。ただの存在感だ。

「――下がるな。兵としての義務を果たせ」

 ゆらりと近付きながら、普段はリリスに預けている支配種の力を声に込め、ヴラドはその深紫の瞳を、本来あるべき凄艶たる深紅へと戻していく。

 標的はウィン・クラヤナード一人だけだが、彼等も皆殺しにするつもりでいた。都市防衛の要を潰せば外の軍も優位になるし、なにより大量の血があってこその万全だったからだ。

 程無くして、陶酔と恐怖に狂った兵士たちが、絶叫をあげながら襲い掛かって来た。

(数は二百程度、丁度いい)

 奥歯に仕込んでおいた核を一つ砕く。

 口の中に入れているのは、その一つだけだ。普段は負荷を減らす為に直接血管内に核を入れる事は極力控えているが、この相手に手順を増やす余裕はない。

 短く息を吸って、血液に酸素を取り込み、ヴラドは地を蹴った。

 大地の魔法をもって足場から剣山を出現させ、瞬く間に二百人の陣形を破壊する。次にそれで死んだ者達の血を刃に変えて死体を増やしながら、ウィンの元へと一気に向かう。

 横一閃の斬撃。

 武器を持たない彼は、それを無手で受け流してみせた。刃の腹だけを掌で叩くようにして軌道を逸らしてみせたのだ。そうして生まれた隙に、掌打が飛んでくる。魔法の気配はない。

 ヴラドはそれを刀の柄で受け止めながら、ウィンの側面にあった死体から、超高圧縮させた血の刃を射出した。

「――」

 肉を裂く手応えとは違う、やわらかくも硬いなにかと衝突する手応えが、支配する血液から届けられる。

(……情報通り、水の魔法か)

 大気中に含まれているそれが、ウィンの身を守ったのだ。

 魔力の色から見ても、それ以外の何物でもない事もわかった。火、風、土、光、闇と同じ、大勢を占める六大元素の一つだ。トルウォラト傭兵学院でもそれを扱う生徒は多くいた。

 もちろん、同じ魔法と認識する事すら冒涜的なほど、全てが彼等とは違うわけだが。

(――これも届かない)

 血と水の刃が超高速でぶつかり合う中で、放った斬撃を今度は肘で弾かれた。

 距離を保てているので反撃は受けなかったが、信じられない神業だ。

(技術戦では勝てないな)

 そう判断するや否や、あっさり刀を投擲する。

 当然のように弾かれるが、どうでもいい。

 様子見は、これで終わり。

 ヴラドは数多の血液を全身に纏い、両手に巨大な爪を、腰に串刺し用の尾を三つ生成、さらに周囲に血の球体を点在させ、全ての魔力を使い切る覚悟をもって手数と出力を高め――そうして、決戦の火蓋は切って落とされた。


                §


 紛れもなく世界最高峰の二人の傭兵の戦いの様子を、シャルロットは街の時計台から見下ろしていた。

 此処に居る理由は、レナリア含めヴラドの戦いに横槍を入れようとする存在を早期に発見して、それを叩く為だ。

 魔法で視覚を共有しているので、周囲に展開している平和主義者の人達も頭上からの情報をいつでも把握できるし、シャルロットも建物で死角となっている場所を地上に居る人の眼を通して捕捉できる。

 ただ、仮にいたとしても、この極限の戦いに、一体どうやったら干渉などできるというのか。

「……」

 初めて見るヴラドの全力は、あまりに常軌を逸していた。

 二百人以上いた精鋭部隊は、ヴラドが血を纏ったタイミングで既に全滅していたし、それ以外の者達も手に負えないと即座に理解して、自分たちがヴラド・ギーシュの血の糧にならないように距離を取るほどだった。

 それだけ超高密度の魔力を宿した血は圧倒的な暴力を孕んでいたし、その上で複数の他人の魔法を振舞うのだ。

 視界の外から貪欲に襲い続ける血の尾針に、凶悪な速度とパワーで揮われるヴラド自身の足と爪、そして二百人以上がもつ数十種類の魔法行使というこの三重攻勢は、まさに理不尽という言葉以外のなにものでもなかった。

 だが、ウィンという男はその中を平然と泳いでいる。

 ……いや、平然ではない。至る所から出血しているし、対処に余裕があるわけでもない。

 それでも、彼に揺らぎはなかった。水の魔法と、奇蹟のような体術の二つだけで、紙一重を続けている。

「あれは、まさに私の天敵だな」

 影から声がした。

 ゆらりと実体化し不死の魔神は、神妙な表情で両者の戦いを見つめている。

「それは、どういう意味?」

「私は大抵の神子には強く出れる、消耗戦にさえ出来ればいずれ勝てるからな。だが、同時に私は大抵の神子より戦力に劣る。故に、たとえ制限がなくとも、あのクラスの戦力を制圧することは出来ない。その特性は、理解しておくといいだろう」

「……」

 意識を二人に戻す。

 戦いは次の局面に移ろうとしていた。

 ヴラドが空間と音の魔法をもって、面を潰しにかかったのだ。

 魔力量、出力、強度ともにヴラドの方が上だ。ウィンも水の膜で防ぐが、完全とは言えない。

 一方、開戦からまもなく降り出した雨は、ヴラドが広範囲に展開した血の膜によって地表に到達することなく全て防がれていた。

 優劣は明白だ。

 それを決定的なものにせんと、ヴラドが念動力をもって血液が残っていた死体を纏め上げ、それを小規模な太陽へ変える。

 太陽と謳えるほどの超高温の炎をもって、周囲の煩わしい水――つまりはウィンのテリトリーを根こそぎを蒸発させようとしたのだ。

 熱は血の膜の中にあっという間に行き届き、すぐさま周囲の建物を燃やしていく。

 そんな中、ヴラドが支配する血だけが影響を受けることなく、血の膜で覆われた周囲を紅く朱く染め上げていき――しかし、その猛威は、雨雲の上に潜んでいた巨大な巨大な水の塊によって相殺された。

 本当に信じられない質量の水の塊が、血の膜を突き破って地表に叩きつけられたのだ。

 蒸発した大量の水が白い湯気を発生させて、都市を霧で覆う。

 突然中心部分で発生した津波によって、焼けただれていた建物が押し流され、シャルロットたちが待機していた建物にも衝突し、少し傾いた。

「……海の匂いがするな」

 咄嗟に踏ん張り転倒を防いでいたシャルロットの傍らで、悠然と佇んでいたマヌラカルタが、ぽつりと零す。

「どうやらあの男は予め近隣の海の水を一定量蒸発させて、この都市の真上、雲の遥か上に用意していたようだ」

 そして、それを瞬間的に液体と固体の中間のような状態にし、血の膜目掛けて高速で落下させ、ヴラドの支配を拭ったという事らしい。

 言葉にするのは簡単だが、果たして実行難度はどれほどのものなのか……。

 いずれにせよ、保険を無事に機能させ、戦場に張り巡らされていた血の膜や、死体、建物などを排除して見せたウィンは、ぬかるんだ地面を軽く踏みつけて、いつのまにか足元に刻み込まれていた魔方陣を起動した。

 その効果は、身体強化。

 魔法陣はまたすぐにヴラドによって消されるが、一度でも接近できればそれでよかったのだろう。

 ヴラドが刀を捨てて以降、中遠距離での戦いを余儀なくされていたウィンは、ようやくまた素手の間合いに入った。

 攻守が逆転する。

 ただ、ヴラドの護りも相当な強度だ。

 距離を作れなくとも、数多の魔法と血液を用いて、突破を許さない。

 一進一退の状況が続く。心臓に悪い展開だ。眼を逸らした瞬間に、全てが終わっているような怖さがある。

「――見つけたぞ」

 固唾を呑んで見守るシャルロットに、マヌラカルタの声が届けられた。

 レナリアが姿を見せたのだ。

 すっかり見入って忘れていた自身の役割を思い出し、シャルロットは不死の魔神が寄越してきた魔力情報を頼りに、そちらに向かって移動を開始した。


                §


「ずいぶんと焦っているようだけど、一体どうしたのかしら?」

 何時から気付いていたのか、こちらが着地すると同時に振り返ったレナリアが言った。

 涼しげでいて蔑むようでもある嫌な眼差しだ。腰には例の芸術品のようなナイフが携えられていたが、そこにはまだ触れられていない。

 場所は都市の外壁付近。霧の影響はない。ついでに人気もなかった。

 ここからヴラド達にどのような干渉が出来るのかは不明だが、きっと狙撃かなにかを目的としているのだろう。

 シャルロットは細剣を引き抜き、いつでも仕掛けられるように周囲に光源を顕していく。

 互いの距離は大体十五ヘクテル。一歩で届く間合いだ。すぐでも戦いは始められる。……けれど、そんな状況にもかかわらず、レナリアは一向にその手をナイフに伸ばす事なく、

「心配しなくても、ここで荒事を起こすつもりはないわ」

 と、ため息交じりに答えた。

「では、どうしてここにいる?」

 影からマヌラカルタが姿を見せる。

 レナリアの表情に変化はなし。

「表に出て来れるようになったみたいね。にも拘らず、こちらに何の報告も寄越さない。それは一体どういう了見かしら?」

 淡々とした口調だった。事前に知っていたと言った感じだ。

「言葉にしなければわからないのか? 存外粗末な頭だったようだな」

 マヌラカルタがせせら笑う。

 しかし、そこに感情を返す事もなく、

「そう、やはり裏切るつもりなのね。しっかりとした確認が取れて良かったわ。それにしても愚かな真似をしたものね。国ではない個人の側につく? そうでなければ達成できない目的ということ? 或いは私には見せられていない後ろ盾でもあるのか。……まあ、なんにせよ、もう上辺だけでも貴方を敬う必要がなくなったというのは、大変いい事だわ」

 ゆらりと上体が揺れて、レナリアの重心が微かに後ろに下がる。

 それに対して、当然シャルロットは警戒を強めるわけだが、

「同じことを二度も言わせないで、私はここに荒事をしに来たわけじゃない。目的はもう果たした。だから、あとは帰るだけ」

 と、つまらなそうに告げてから、彼女は壁に背中を預けて空を見上げ

「外の方でも始まったみたいね。中の戦いもじきに終わる。……ねぇ、せっかくこうして、可愛い姪の為に話す機会を与えてあげているのよ? それなのに、ただ見つめているだけ?」

「なるほど、時間稼ぎが目的か?」

「粗末な頭はどちらなのか」

 レナリアはつまらなげにマヌラカルタにそう返し、

「もう、貴女たちは詰んでいるのよ。同情してもいいくらいに決定的にね」

(詰んでいる? ……もしかして)

 シャルロットが有している情報というのは、リリス達と違って少ない。最低限だ。

 でもだからこそ、絶対にない、と言い切れるような確信も持てず、それゆえに柔軟な可能性を探る事も可能だった。

「大前提が崩れているということ? この都市は、生贄になったの?」

 なんとなく思いついただけの、あてずっぽうの言葉だ。なんの根拠もない。

 ただ、いい線は行っていたのだろう。

「少し、あの女に似てきたわね」

 レナリアの空気が変わった。

 ナイフに手が伸ばされる――が、それは触れる寸前で留められた。

 代わりに、彼女はジャケットの内ポケットから魔石を一つ取り出して、

「これがなにか解る?」

 と、訪ねてきた。

「転移石だと?」

 微かな驚きが、マヌラカルタから滲む。

 その理由は転移門という手段があるのに、数千万リラはするであろう極めて高価な長距離転移石を持ち込んでいるという点だ。

「この都市の転移門は、私の影が全て閉ざした。これでもう誰もすぐには逃げられない。私以外の誰もね」

 そう言って、彼女は転移石を砕き、姿を消した。

 直後、凄まじい気配が上空に顕現し――


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