06/売り込み
食事店を出た後、ヴラド達は灰公爵の権限を用いてガリブロード公国の動向を注視していた。
ミッドラインダ帝国がターカスの首都を占拠し、そこに転移門の魔法陣を構築、本国との繋がりを手にしたのに対し、外から来たもう一つの国の軍隊はまだ目立った動きを見せていない。
神子が三人いるという話だが、それを証明する気配なども確認されていなかった。
マウロ・バレンタインの話は、はたしてどの程度信用できるのか、そもそも彼の情報はいつのものなのか……
(外から得られる情報は少ないわね。懐に入りたいところではある。リスクの少ない正当な方法で)
胸の内にだけ届く聲で、リリスが呟いた。監視やら盗聴を警戒しての事だろう。
(傭兵をやるのか?)
(ええ、近隣のエンシェとは確実に揉めるだろうしね。この局面で本隊の戦力は減らしたくない筈だから、募集を避ける理由もない。戦果をあげれば取り込もうともする筈よ)
(ここの諜報員に任せるのではなく、直接する理由は?)
(正しい情報をそいつらが手に入れられる保証がないからよ。エルラカが絡んでいた場合、奴を捕捉するのにはちょっとした手順が必要でね。特別な運があれば見つけられるけれど、その手順を知らなければ、運以外では絶対に見つけられない風に出来ているの)
(確認を急ぐ必要があるんだな?)
(ええ)
(わかった。どうやって向かう?)
(ひとまずザーラッハに戻って、ディアで行きましょう)
今後の方針が決まった。
二人はいったん深海世界に戻り、そこでシャルロットたちに出くわした。
「あら? そちらの用件はもう終わったの?」
「あぁ、ひとまず今日のところはね」
リリスの問いにリグチラが答えたところで、ヴラドは二人に纏わりついている血の匂いに気付く。
「なにがあった?」
「……あ、あの、お願いがあります」
いつものシャルロットなら、質問を遮って自分の用件を示す事などなかっただろう。良くも悪くもこの娘は従順だからだ。
(そういえば、似たような事が前にもあったな)
ムルカ連合でパウ・ドズワルドを災王狩りの際に見捨てようとした時の事だ。あの時も、シャルロットは自分の意志を押し通す事を選んだ。
つまり、彼女にとってはそれくらい重要な要件という事なのだろう。
「教えて欲しい事が、あるんです」
「……なんだ?」
魔力の澱みと足元の影が酷く気になったが、そう促すと彼女はヴラドの目的について聞いてきた。
妙な話だ。隣の女が既に知っているうえ、別に口止めをした覚えもないのだが……考えられるのは、リグチラの事をあまり信用できていないから、という可能性だろうか。
だが、それにしては両者の距離は以前より近い感じがした。
(妙なお願いね、てっきりわたしの正体でも訊かれるのかと思ったわ)
リリスも同じ感想らしい。
まあ、何にしても答えて困る内容ではない。
ヴラドは淡々と、自身の目的を口にした。
ルナを生贄にしようとしている神子を殺し、彼女を解放し、儀式を用いて彼女を正常な状態に戻す。その為に十年を費やしてきたのだ。ルシェド・オルトロージュを殺す手段を求めて旅をしてきた。
それは、他の勢力の目的と比べれば、酷く矮小なものなのかもしれない。だが、ルナの抱える問題は、世界をひっくり返すほどの力が無ければ、けして解決することが出来ないのだ。彼女に落ちた天泪はそれほどまでに異質であり、完全にこの世界の理全ての外にあったから。
だからこそ、ルシェドもルナを求めた。彼女以外では駄目だと、彼女を使って多くの世界を巻き込むと、奴はあの日ヴラドに告げたのだ。
『その十年をどう過ごすのかは君の自由だ。契約が成功すれば、君はその十年で大抵のモノを手に入れることが出来るだろう。君が幸福な十年を過ごせる事を、助力した私も願っているよ』
今でも覚えている。一言一句、忘れたことはない。
その事も一応伝えてルシェドの危険性を共有し、話を終えたところで、
「……その目的を達成したあと、ヴラドさんはどうなるんですか?」
と、シャルロットはずいぶんと深刻な面持ちで訪ねてきた。眼差しの中にある怯えも、今まで見てきた中で一番強い。
それを何よりも訊きたかったのだという事が、よくわかった。
「別にどうも。後なんてない」
「そう、なんですね。本当に……」
「話は終わり?」
重苦しい空気を嫌うように、リリスが口を開く。
「はい……教えてくれて、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて、シャルロットは駆けだしていった。そのあとをリグチラが追いかけて行く。
相変わらずよく判らない奴だが、まあ気にしても仕方がない。
こちらも止めていた足を前に踏み出す。
「よく判ってないって感じね」
ぽつりと、リリスが呟いた。
「お前には判るのか?」
「まあ、それなりにはね」
「……死んだ影響か?」
血の匂いの事を思いだし、ヴラドはその可能性を口にした。
「多分ね。でも、それはもう問題じゃない」
「お前にとって?」
「いいえ、どちらにとってもよ。わたしが小娘に投資してきたおかげね。結果、莫迦な魔神は貴重な情報まで提供してくれた」
「情報?」
「奴が影の中にいたのはお前も気付いていたでしょう? あれは、不死の強度をさらに落とし、小娘の戦力を本来のものに近付けさせる事で得た権利。わたしがもしリズならその時点で見切りをつけるくらいの悪手だわ。可能性がゼロでもない限りまずしない。では、どうすれば、わたしがリズではないという確信を得られたのか」
「一番簡単なのは、そいつの所在を既に知っている場合だな」
「ええ、その通り。そしてリズは最上位の神よ。儀式においてもっとも重要な舵を切れる位置に居て然るべき。あの灰公爵の目的がなんなのかは、まだ不明だけど、ザーラッハとの共同作戦という事はないでしょう。エンシェのためだけの工作である可能性が高いわ。或いは、彼女のためだけの独断という線もありうる。いずれにしても、外神を宿すルシェド・オルトロージュは彼女にとっても未知、非常に目障りな存在の筈。共通の敵にはなっている。それをどう使うか。……ふふ、色々と、面白くなってきたわね」
そう言って、リリスは懐から取り出した飴を口に放りこんだ。
§
その飴が溶け切るくらいの時間で、ガリブロード公国が構える陣を二人は視界に納めた。
結界が多重で張られている関係上、中にどのような存在がいるのかは不明。ただ、戦闘の準備が行われているのは見て取れた。
まあ、仮に目視出来なくとも、そのくらいは誰でも想像できただろう。なにせ、エンシェの方が大軍を用いて、すでに堂々と進軍を始めていたからだ。
「良いタイミングで来れたわね。他の傭兵共はどう動くかしら?」
弱い傭兵は勝てる側に、強い傭兵は負けそうな側に付くというのが、戦場では常とされている。ただし、それは傭兵という存在を軽んじる外の大陸での話だ。
この大陸では、そもそも強い傭兵を多く雇った側が勝つのだから、大半の国は最初からかなりの高額を提示する。エンシェは特にその傾向が強い。対するガリブロード公国は外部勢力である。
結果、開戦直前の傭兵戦力の差は、驚くほどに開く事となった。
「予想通りではあるけれど、思った以上の差ね。これなら、わざわざ途中でディアから降りなくても良かったか。……いや、不安要素を考えれば、ちょうどいい塩梅と見るべきかしら」
そう言うリリスの視線の先には、マウロ・バレンタインの姿があった。先ほどと違い、傭兵っぽい格好をしている。
どうやら自分たちと同じく、ガリブロードの神子が何者かを探りに来たようだ。或いは戦場という混乱に乗じて、こちらになにか仕掛けてくるつもりなのか。
まあ、いずれにしても、する事は変わらない。
敵を殺して名を上げる。実にシンプルだ。不確定な存在も、邪魔になるなら殺せばいい。戦場とはそういう場所なのだから。
「……ふむ、協会員の証はもっているな。それなりの魔力もある。ならば記録石にも意味はありそうか。まあ、せいぜい励むことだな」
あまり傭兵運用が盛んな国ではないのだろう。協会員証の脇に記されてる『真深夜』を意味する色を気にも留めずに、ガリブロードの役人が言った。
「こいつ、あとでディアに食べてもらいましょうか?」
よほど気に入らなかったのか、リリスがそんなことを言うが、幸いというべきか今は実体化していないので、役人がその言葉を聞くことはなかった。
ともあれ、契約は無事に成立し、戦場への準備段階に移行する。
といっても、敵はすでに動いているので猶予はあまりない。必要最低限のほかに出来る事といえば、せいぜい自陣の味方の質を確かめる事くらいだろう。
(兵はまあまあ。傭兵の方はお察しか)
おおよそ想定通りだ。競合相手はマウロくらいしかいない。
そのマウロが、こちらにやって来た。
「こんなところでまた会うだなんて奇遇ですね。巧く協同で来たら良いのですが」
まるで今気づいたみたいな物言いだが、そんなわけがあるはずもない。
これは、ある種の宣戦布告だ。
「……あぁ、そうだな、上手くできたらいいな」
それを踏まえた上で言葉を返したところで、ガリブロードの役人が拡声石を用いて戦闘開始の合図を告げた。
傭兵たちが一斉に敵軍に向かって駆けだす。血気盛んだ。まあ、駆け出しが殆どなのを考えれば不自然な点はない。
そんな彼らの背中をのんびりと追いかけつつ、ヴラドも戦場へと向かっていく。
「なにをちんたら歩いている! さっさと行け!」
背後から数人の正規兵が怒声を上げていたが、どうせ戦場が終わった頃には死んでいる連中だ。気にする必要もないだろう。
長刀を抜きつつ、戦局をのんびり観察する。
まずはセオリー通り、傭兵同士の戦闘が始まった。
数にして二万五千対八千の衝突だ。数も質も負けているのだから、当然長くは続かない。
それを少しでも引き延ばすために、三万のガリブロード正規軍が遠距離からの砲撃を撃ち始める。
精度は上々、威力は並。少なくとも誤射はないという認識を、最前線に立った傭兵たちは抱いたことだろう。
故に、混戦になり敵だけを狙うのが難しくなった途端にガリブロード公国が行った砲撃は、これ以上ないくらいはっきりと傭兵を捨て石にする事を告げていた。
まあ、外の大陸ではよくある事だ。多くの傭兵はそれも込みで戦場に出ている。
けれど、この大陸にそんな常識はない。これは明白な裏切り行為だ。傭兵には鞍替えの権利が発生する。
そしてエンシェは傭兵の扱いに長けた国家。当然のように拡声器をもって提案を持ちかけた。
「――報復を是とするのなら背を向けよ! そうすれば契約成立だ! 先着は三千名まで!」
別に全員と契約をしても、最終的に報酬を受け取れる人数にそう大きな差は出なかっただろうに、それでも敢えて人数制限をかけたのは、簡単に最初の戦果を得られやすくするためだ。
その狙い通り、裏切りを許さなかった傭兵は、すぐに結論を出せなかった元仲間の傭兵に斬りかかり、はっきりとした意志表明を果たした。
そんな彼らにエンシェが次に行うのは、色の上書きだ。
傭兵というものは基本的に、戦場に出る前に味方であることを示す色の魔力を身体に纏うのだが、その色を変えてしまうというわけである。もちろん、簡単に落ちるようには出来ていないので専門的な魔法が必要になってくるが、この事態は最初から想定していたのだろう。エンシェの正規兵たちは簡易な魔方陣を構築し、その補助を用いてあっさりと行動を起こした者達の色を変えていった。
「哀れなくらいに酷い展開ね。指揮官はよほど無能なのかしら? それとも正規兵だけでどうにでもなると思っているのか。お前はどう思う?」
「両方だろうな」
リリスの言葉に、投げやりに答える。
戦争に塗れているこのブーセット大陸の兵士の水準は、どの国であっても非常に高いので、その基準でまあまあなガリブロードの兵士たちは、外の大陸基準で言えば世界最高峰といっても差し支えはなかった。
無論、エンシェの兵がその程度に後れを取ることはないし、彼らを選んだ傭兵が負けることもあり得ないわけだが。
「さて、あの喧しかった正規兵共が死ぬまで、あと何分くらい掛かるかしら?」
どうやら、そこまで待てという事らしい。
まあ、特に異論はない。
そうしてガリブロード側の傭兵が殆ど駆逐され、残る少数が敗走し正規兵を守るものがなくなり、傭兵と正規兵の戦闘に移行してから五分。
「あ、死んだわ。やっとと言うべきか、もうと言うべきか、どちらにしても偉そうにしていたわりには弱かったわね。さあ、じゃあ、そろそろ行きましょうか? 一応、わたしは上空で待機しているわ」
気だるげに言って、リリスが離れていく。
俯瞰の視点がこの戦場で必要になるかどうかはわからないが、一応マウロを警戒しての事だろう。
そのマウロもまた、こちらに動きに合わせて、戦闘を開始したようだ。
正規兵と事を構える傭兵たちの両側面から、ヴラドとマウロが攻撃を開始する。
ここまで魔力と気配を上手く隠してきたので、おそらく敵は誰もヴラドに気付いていない。
ならばと掌から流出させた血液を地面に零したところで、
(――あぁ、そうそう、魔法は使わなくていいわよ。雇い主へのアピールはいらないわ。刀だけで適当に始末しなさい)
と、リリスの聲が脳裏によぎった。
この感じ、おそらくたった今思いついた方針だ。
一応魔法を中止しつつ理由を求めるが(必要ないからよ)という答えしか返ってこなかった。
追及しても良かったが、マウロの動向も気になる。
ヴラドはため息を一つつきつつ、長刀をゆっくりと引き抜いた。
そこで隠匿していた魔力を解放、
「――っ、ヴラド・ギーシュか!?」
不躾に人の名前を叫ぶ男を切り伏せて、そのまま敵陣へと踏み込んでいく。
マウロの方も同様だ。剣を躍らせて的確に敵の急所を突きながら、傭兵部隊を優先して潰しに掛かる。
といっても、そう上手くはいかない。
エンシェが雇っただけあって、やはり優秀どころが多く、彼らは早々に戦果よりも生存を優先し、周りの見えていない駆け出しどもを生贄に安全圏へと逃れていたためだ。
ゆえに、数こそ減らせてはいるが、戦力自体にはあまり打撃を与えられていない状況がしばらく続く。
(……誘われているな)
対象はガリブロードの正規兵たちだ。
この状況を見誤り士気を取り戻した彼等は、まんまとそれに乗っかかってエンシェの傭兵へと襲い掛かる。戦場の端役風情にいつまでもいい顔はさせていられないというプライドのようなものが、そこには感じられた。
まったくもって愚かな話だが、これに関しては同情の余地もなくはなかった。
彼らは自身の行いによる結果を、ちゃんと学んだうえで敵陣へと突っ込んだからだ。つまり、エンシェの正規兵が味方諸共に攻撃することはないという認識がそこには確かにあったのである。そして、事実それは正しかった。エンシェの正規兵は絶対に傭兵には手を出せない。彼等に出来ることは補助だけだ。
けれど、同じ傭兵は違う。
特にこのような、仲間を殺すペナルティーよりも戦果の方が価値が高くなることが多い局面では、彼らは躊躇わずに攻撃を仕掛けるだろう。
というか、すでに足元に罠は仕掛けられていた。
それを踏んだ正規兵が見事に集団の真ん中から崩され、そこに遠距離からの集中砲火が襲い掛かる。
もちろん、ヴラドがそれを防ぐ理由はない。半壊した彼等の敗走を成立させてやれば、それで戦果としては十分だったからだ。
残ったエンシェの傭兵たちも、おそらくヴラドが動けば早々に撤退を決め込むだろう。お互い、それ以上頑張る理由もないのだから。
そんな想定を思い描きながら、ヴラドは敗走する正規兵を守るべく戦場の渦中へと身を躍らせ――そこで初めて手傷を負った。
抵抗から逃走、迎撃から追撃へと両陣営のスタンスが変わる刹那の、最も混沌としたタイミングで、死体に覆われた地面から突然生えてきた槍が頬を裂いたのだ。
それを行ったマウロは涼しい顔で近くにいた敵を斬り裂きながら、
「残念、仕留められませんでしたか」
と、弾むような声でそう呟いた。
魔力は隠していないので同士討ちのペナルティーは生じるはずだ。それでもこちらを巻き込んできたのは、数時間前の報復と、エンシェの正規兵の被害を完全になくすための念のための足止めと、特殊な魔法を披露して自身の価値を高めるため。
そのうえで、ヴラドと契約するのなら降りるとでも言って二者択一を要求すれば、間違いなく戦果の上でも勝っているマウロが選ばれる事になるだろう。こちらの目的は果たせなくなる。
(つまり、それでも良いという事か)
(ええ、そういう事よ。他に適任者がいるのなら、わざわざこんなところで時間を使う必要はない。他に優先したい事も出てきそうだしね)
降りてきたリリスの聲が脳裏に響く。
程無くしてガリブロードの正規兵たちは安全圏にまで逃げ切り、エンシェもまたこの場での戦果は十分だと、正規兵の一人の犠牲も出さずに撤退していった。
戦闘終了だ。
あとは報酬を貰って帰るだけと彼らの陣営に足を運ぶと、偉そうにしていた役人の姿はなく、別の役人がずいぶんとへりくだった表情で迎えてくれた。
「大変すばらしい戦果でした。貴方とはぜひとも今後の事について話したいと――」
「報酬」
戯言に付き合うつもりはないので、さっさと要件を口にする。
そのタイミングでマウロも陣営の報酬窓口に戻って来た。別の役人が慌ててやってきて、同じような意味のないねぎらいを並べる。
その滑稽なさまを眺めながら、ヴラドは報酬を受け取るなり彼らに背を向けた。
§
半壊したガリブロードの正規戦力の穴埋めとして渡された新たな契約書にサインを果たしたマウロは、次にそこの将軍に会う事となった。この分だと、共同してエンシェに備えるという流れになりそうだ。
とりあえずは一歩前進。あとは一度か二度ほど適当に戦果を加算させて自身の重要度を高めつつ、将軍から情報を引き出していけば、おのずと確認は完了することだろう。
(それにしても、意外だったな)
神子の情報は非常に重要だ。それは大帝国たるルウォであっても例外ではない。だからこそ、その情報を得る事が出来ればルウォにおいての立場をより強固なもものにする事も出来るわけだが、ヴラド・ギーシュはあっさりとその価値を放棄した。
もちろん、それはマウロの妨害を鑑みての事だろうし、優先順位としてそこまで高くなかったという点もあるのかもしれないが、それでもやはり腑に落ちない。
(……気にしすぎかな)
いずれにせよ報復は果たし、仕掛けるまでもなく除外にも成功したのである。
好都合な展開は確かに警戒するべきものだが、相手を意識しすぎて裏を求めすぎるというのもまた、望ましい事ではない。
それに、別にマウロがそこに居なくとも、ルウォに干渉する手段はある。
ただ、一つ問題なのは、今レナリアを別件に使っているという点だ。そのため平和主義者を使ったヴラドの裏工作に対してのカウンターが、少し弱くなってしまっている。
(その点を埋めるためには、タシネル・リャンタを使う必要があるか)
あの人形の権限を利用すれば手札は足りるだろうし、よほど乱暴な方法を取らない限りは、タシネル・リャンタの異変に気付かれる事もない。
(そうだな、それでいこうか)
そうと決まれば早速行動だと、将軍のもとに向かう最中に通信石を用いて、人形の傍に待機させている部下に連絡して指示をだしつつ、マウロはエンシェの今後の予定について考える。
現状の目的は、ザーラッハを消耗させながらルウォの戦力も削る事だ。
アルドグノーゼを討つには最低でも三人の神子がいる。そして当然、その中にエンシェの陣営が含まれてはならない。
望ましいのはシャイアを含む五名以上の神子が相手をする事だ。同盟工作によって数を確保できたのなら、あとはその流れを作るだけでいい。
まあ、それが最も難しい行程ではあるのだが、やるべき事がはっきりしているのは良い事だ。
(何はともあれ、まずはガリブロードの神子の確認を急がなければね)
その相手次第では、また状況も変わってくる。
すべては、神子という埒外によって動くものなのだから。




