プロローグ/全ては無意味
「儀式まであと九日、いよいよ一桁にまで来たね。感慨深いよ。私はあまり時間というものに敏感な性質ではないが、それでも三百万年は長かった気がする。この大陸を戦乱の地に変え、全ての大陸に魔法陣を施し、その時に最大限可能性が芽吹くように仕向け、それを集め、ついにここまで来た。おかげで今全てが揃っている」
ノイン・ゼタの本拠となっているホテルのホールに今いる団員を集めて、ルシェド・オルトロージュは穏やかな口調でそう言った。
その内容を前にして、自分たちも贄である事を理解出来ないような莫迦はこの傭兵団にはいない。もちろん、そこに憤りを覚える者もいなかった。予感がなかった者もまた一人もいなかったからだ。それが気に入らない者はとっくに組織を去っている。
「それにしても、ここもずいぶんと人が減ったね」
最初に此処に訪れた時の事でも思い出したのだろうか、ルシェドが間延びした声で呟く。
この感じからして、想定よりは少し下回ってしまっていたようだ。
「……連れ戻しますか?」
最前列で話を聞いていたギリアムは、命を賭す程度の覚悟で口を開いた。
「その必要はないよ。どこに居ても同じだからね。それより、君はどうして残っているのかな? もう看板は、君以外皆いなくなってしまったというのに」
「それはもちろん、私だけが状況を正しく理解しているからですよ。貴方を前に抵抗など無意味だ。実に素晴らしい事です」
「そうでもないと思うけれど、まあ、そうなのかな」
ルシェドは今日も曖昧で、どうでも良さそうだった。
どれだけ時間を割いた事でも、結局そこに熱などない。
そんなものすら必要としない超然さこそが、まさに彼を絶対者たらしめていると言っても過言ではなかった。
とはいえ、そんな彼にも欠点はある。誰の目から見ても脇が甘いのは事実だ。
微笑ましいほどに彼は適当で、だからこそ、その孔を埋めるという役割が自分にはある。
まあ、結局どう転んでも彼が望む結果になるのは判り切っているので、その役割にも価値なんてものありはしないのだが、それでも構いはしない。どの道、世界や人生など、無意味で無価値なものでしかないのだから。
退廃と諦観、そして見苦しい存在への激しい嫌悪。それこそがギリアム・ローウェンハイロォという個人の全てだった。
次回は10月17日に投稿予定です。
よろしければ、また読んで頂けると幸いです。




