エピローグ/喪失
ばち、ばち、と音を立てて、亡骸が燃えている。
ククル・オーウェンの葬儀。骨だけが残るような火葬だ。
「……」
夢の世界に囚われた人々を救うために、彼は契約者の力を揮った。夢の中であったとしても、魔法の発現は核を用いて行う行為だ。それによって彼の心臓は割れた核から漏れだした魔力によって破裂した。
死に顔は穏やかだった。
反面、亡骸を抱えてサラヴェディカへと戻されたラミアの表情は見ていられないほどに痛ましくて……どうしても、許せないという気持ちを覚えてしまう。
他に手はなかったのかと、リリスなら下手な犠牲などなくやれたのではないかと、二人を伴ってやってきた彼女を前に抱かずにはいられなかったのだ。
彼女が意図した事じゃないのも、お門違いなのも判っている。それでも、そんな事を思ってしまうのは、彼女の凄さを知っているからか。
『十日後、今度こそお前の不死を回収するわ。猶予はそこまで。しっかりと、答えを用意しておきなさい。それでは皆様、ごきげんよう』
別れ際の彼女の言葉を思い出して、いよいよ時間が差し迫ってきた事を実感する。
立ち止まっては、いられないのだ。
(ククルさん、どうか安らかに……)
黙祷を捧げて、皆が静かに消えた炎の中に歩を進める。
ザーラッハでは、親しき人や恩を受けた人がその遺骨を預かり、それを特殊な倉石に保管して、装飾品として手元に残すという習慣があるらしい。
それに倣って最初に遺骨を手にしたのはラミアだった。
ゼクス、エイダ、シャルロットがそのあとに続き、ウィンやクーレも恩人に対する感謝を忘れないようにとそれを受け取る。
そうして、火葬は終わった。
ククルの心臓から核は出てこなかった。ヴラドが回収したのだろう。でも、胸を抉られたような痕などはなかったから、そこは気を遣ってくれたんだと思う。
重い足取りでこの場を去って行く三人を見送り、シャルロットも自分の部屋に戻ろうとしたところで、
「少し話がある。リリスの事でだ」
と、こちらを待っていたらしいリグチラが言った。
夢の中でなにか情報を手にしたのだろうか? でも、自分だけに話す理由はなんなのか。重要な情報なら状況に関係なく、火葬の時に彼女なら口にしている気もするのだが……。
「パウ・ドズワルドから得た情報なのだが、確証はまだ掴めていなくてね」
その段階でわざわざ共有する必要はないだろう、という考えからそうしたようだ。
「どうやら長い話になりそうだな。立ち話もなんだ、部屋でした方が良いだろう」
影の中からマヌラカルタの声が響く。
「そうだね」
喉も乾いている。冷たい水を一杯飲みたい気分でもあった。
そうして促される形で部屋に向かって歩き出したところで、急にマヌラカルタが目の前に現れて、シャルロットの両手を掴んだ。
まったく想定していなかった事態に、身体が硬直する。
「な、なにっ!?」
と、そこで背中に何かが突き刺さった。
完全に肉体の自由が奪われる。
「リリスが設けた期限だが、あれは嘘だ」
背後から聞こえてきた声は、当然というべきかリグチラのものだった。
「彼女はもう見切りをつけた。そして私もどちらか一方を選ぶ必要が出来た。ただ、貴女を殺せとは言われていない。貴女の魔法を奪えともね。そういう意味では、まだ貴女に何かを期待はしているのだろう」
凄まじい脱力と共に、両膝が地面についた。
なにかとても大事なものが『摘出』されている。それに伴い、意識が急速に遠ざかっていく。
「……どう、して?」
「どうして? つくづく愚かだな、私が貴様の味方をしていたのは、そもそもが彼女の命令だろう? どちらに優先権があるのかなど考えるまでもない事だ。ではな、もう二度と会う事もないだろう」
そこでシャルロットは意識を失い、忌まわしくも頼りになっていた悪魔と不死という特権を失った。
これにて第八章『死者の未来』は完結となります。
ここまでお付き合いいただき、まことにありがとうございました。
次章が最終章となります。
10月15日より二~三日のペースで投稿していく予定です。
問題なく締めくくる事も出来そうなので、よろしければこの物語を最後まで見届けていただけると嬉しいです。




