16/格好をつける
言われた通りエレベーターを使って、エイダはゼクスとノスティワと共に一階へと降りた。
そのタイミングで、ぞろぞろと武装した集団が外に出ていくところを目撃する。元傭兵という肩書をもつ、エンシェが仕入れた社員たちだ。
クリスエレスの暴挙を止めるために動き出したのだろうか?
淡い期待は、しかしすぐに消え失せる。
彼等は頭上の脅威になどまったく目もくれず、脅威を鎮圧しに来たザーラッハの騎士たちに攻撃を開始したためだ。
ジュード商会は、決定的な一歩を踏み出してしまった。
その事実は、視界が暗くなるくらいに苦々しいもので、しかも状況の悪化は止まらない。
(――っ、この気配、お爺様)
こちらに近づいて来ている。このままでは親子の殺し合いもすぐに始まってしまいそうだった。
「大人しく部屋に居ろと言ったはずだぞ?」
背後から、声が響く。
振り返ると、そこには魔石を右手に持った父がいた。
異様な魔力を感じる魔石だ。それに呼応するように、足元に魔方陣の気配が浮かび上がる。
「それは、なに?」
「すぐに判る」
つまらなげに答えて、ロワァードは魔石に魔力を込めて、そこに宿っていた魔法を解き放った。
空間が大きく裂けて、そこからエンシェの騎士たちが姿を現す。
数は二百程度だろうか。どれも精鋭だ。纏う魔力と空気で、即座に理解できた。
「傭兵たちが情報の収集を開始した。戦力の把握が済み次第、始めたいが、問題はないかね?」
「あぁ、いつでも行ける。契約通り、指揮は任せよう」
ロワァードの問いに、隊長と思わしき騎士がそう答えた。
どのような方法でその権利を得たのかは不明だが、そこまでの権利を得ているのなら、父は多分止まらない。
「すまないが、娘をここから出さないようにしておいてくれ。あぁ、くれぐれも手荒な真似はしないように」
その指示に従って、四人の騎士がエイダたちを取り囲む。
「という事なので、大人しくしていてください」
「……」
歯噛みをするしかない。
自分とゼクスでは、この包囲を突破できないのは明白だったからだ。ノスティワに関しても、この魔力の感じでは満足な戦闘は難しそうだった。
そうして父は部隊を引き連れて、外へと出た。
父と祖父の距離が確実に埋まっていくのを感じる。戦闘が可能な距離にまで到達したら、もう終わりだ。
(そうなる前に、なんとかして、ここから逃げ出さないと……)
激しい焦りを覚えながら、きょろきょろと視線を彷徨わせる。
今、期待できることは社員の協力だ。この状況を全員が納得しているわけはないだろうし、エイダが介入すればまだ止められる可能性はあるのだから、誰か一人くらいは、猶予を生み出してくれるかもしれない。
(……甘い考え)
いつから自分はこんな他力本願になったのだろうか。
自己嫌悪を覚えながらも、それでも誰かに頼るしかないのだ。頼るしか――
「――あ」
不意に、ゼクスがエイダの手を掴んだ。
彼は呆れるような苦笑いを浮かべていて、不味いと思った。
なにか無茶をするつもりなのだ。殺されるまではいかないだろうと踏んで。
「残念だが、そちらの方を殺すなという命令は受けていない」
目敏い騎士が、さらりと言った。
牽制としてはベストなタイミング。
しかし、ゼクスは一切動じることなく、
「そうなのかい? これでも婚約者のはずなんだけどな」
「それを決めたのは、彼ではないのだろう?」
こちらの情報はしっかりと把握済みなのか、騎士は事務的な口調でそう言葉を返してきた。
「確かに、彼女のお爺様の判断だ。この状況なら、オレに気を遣う理由はないわな。じゃあ、仕方がない。――命を賭けるさ」
おどけたように肩を竦めた直後、ゼクスが動いた。
入り口を塞いでいた騎士に目掛けて蹴りを放って、僅かに抜けられる隙間を生み出し、反射的に振り抜かれた斬撃をなんとか腰から抜いた剣で防ぎつつ叫ぶ。
「行け!」
「愚かな」
その叫びに紛れるように、背後から二人の騎士が迫ってきていた。
無防備な背中を守ろうにも、こちらを取り押さえようと残りの一人も近づいて来ている。
(……莫迦!)
こうなる事は想像に容易かったのだ。
だから、こんなのはただの自殺行為で――
「別に破れかぶれに動いたわけじゃねぇよ」
エイダの思考を読んだようにゼクスが呟くと同時に、閃光が降り注がれた。
シャルロットだ。上で戦っている筈の彼女が援護してくれている。そして、そのタイミングをどういうわけかゼクスは理解していたのだ。
「ほら、早く、後ろは見ててやるから、急げ!」
声に背中を押されて、駆けだす。
やや遅れて、ゼクスも追いかけてこれる状況を手にしたようだ。
その足音に励まされつつ、エイダは父と祖父の元へと急いだ。
次回は8月21に投稿予定です。
よろしければ、また読んで頂けると幸いです。




