プロローグ/白鳥のように在る事
新たな身体の中で、スロウはゆっくりと目を覚ました。
シシカ・ギコードの進化と変化によって拵えた保険の身体だ。見た目は以前のものと完全に同じなので、恙なくクリスエレスに戻る事も出来るだろう。
第一天使を簡単に納められるほどの器。素晴らしいとしか言いようがないが、それを喜ぶ精神的な余裕はなかった。
(……なんて、化物)
思い出すのは蒼。全てを滅ぼす蒼。外の世界を焼き尽くした、あの蒼。
ルシェド・オルトロージュはあれと同じだ。同次元の全てを蹂躪する暴力の化身。
儀式の勝者は、初めから決まっていたのだ。だが、認識阻害によって、誰もが自分が勝者になれる可能性を夢見て、奴のプランに乗っていた。これ以上ないほど万全な儀式場を生み出すために。
「……」
息を吐き、絶望も静かに吐きだす。
今、目の前にはダノラウトもいるのだ。彼女を目覚めさせた信徒がいる。唯一の希望がいる。彼等の前で無様を晒すわけにはいかない。醜悪とは常に、誰の目にも届かぬ裏側に留めておくべきものなのだから。
努めて冷静に、この敗北を認めた上で、スロウは次に自らが取るべき道を模索する。
そうして彼女は一つを選んだ。
「まずは、貴方が獲得した奇蹟を始めるとしましょうか。ダノラウト。やり遂げられますね?」
「はい、もちろんです」
歓喜を隠しきれない声で、彼は頷いた。




