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君>世界   作者: 雪ノ雪
第七章『遠い半身』
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30/国巡り

 ヴラドたちが転移したのは、エンシェの首都付近にある山の中腹だった。

 目の前にはディアがいる。

 その光景に顔をひきつらせながら、ククルが口を開いた。

「……俺たちを、どうするつもりだ?」

「して欲しい事があるのよ。お前にはね。他の三人はそのための人質。あぁ、二人はっていうのが正解? それにしても、ずいぶんと地味な顔になったものね、犬ころ。――ふふ、ずっと騙されていたのに、そんな感情を見せる。良かったわ。ちゃんと三人に価値がありそうで」

 ククルの反応をみて、隣のリリスが嗤う。

 そんな悪魔の悪趣味な確認に小さくため息をついて、

「さっさと本題に移れ」

 と、ヴラドは言った。

「わかってるわよ。悪魔の契約の内容はシンプル、お前がわたしたちの望む時に解の魔法を使えば、三人は殺さない」

「……ダメよ。そんなの呑んだらダメ。貴方は、神子じゃないんだから」

 恐怖を押し殺しながら、エイダが口を開いた。

「四人死ぬか一人死ぬかの違いよ。今か少しあとか、それだけ。大した違いはないわ」

「ふざけんなよ! そんなわけ――」

 声を荒げたゼクスの太腿に、ヴラドは刀を突き刺した。さらに悲鳴を上げそうになった喉に鞘を打ち込み黙らせる。

「余計な事はしない方が良いわよ。今の彼は非常に機嫌が悪いんだから」

 その理由は明白。イリアから手にし、リリスから送られてきた情報によって、ルナの身体が非常に望ましくない状態にある事を知ったためだ。

 彼等がシャルロットの友人でなかったのなら、間違いなく今二人殺していただろう。人質など一人で十分だからだ。

「あ、あの、出来れば穏便にいきませんかねぇ? はは」

 遅れてやってきたパウが言った。

 それから、

「貴方たちも、自分の置かれている立場を理解して発言してくれると有難いかな。……うん、この空気感でそういう事をするのは本当に止めて欲しい。死ぬだけじゃすまなくなるかね」

 と、太腿を抑えてその場に跪くゼクスと、そんな彼に寄り添うエイダ、そして友人を傷つけられ臨戦態勢に入ったククルに対して投げやり気味に続ける。

 それが刺さったのかどうかは不明だが、ククルは剣の鞘にかけていた手を離した。

 そこで、リリスが懐から倉石を取り出して、それを爪先で弾く。

 魔力に反応して、裏世界への扉が開かれた。

「入れ」

 頷き、四人が裏世界に入る。

 入ったところで、イリアが口を開いた。

「リグチラも隔離されているはずだけど、彼女から裏世界を獲得していたの?」

「ええ、信頼の証として、ペドリツァーノの身体の一部をね」

 つまらなそうにリリスが答える。

 すると今度はパウが、

「貴方は、彼女が最終的にどちらの側に付くと思っているんですかね?」

 と、訪ねてきた。

「さあ? 別に、どっちでもいいわ。それより、早くお前たちも入って。じゃないとこっちが移動できないでしょう?」

 そんなパウの足をリリスは蹴とばし、二人を裏世界に押しやったところで世界を閉じて、ヴラドと共に飛龍へと騎乗した。


                §


 翼を力強く羽ばたいて、一直線に向かうのはムルカ連合の辺境。

 目的はルナの状態の確認する事だ。スロウの身体との適合率が低い事はイリアの情報から判っているが、具体的なところは検査されていなかったので、それを確認する。

 目的地に降り立つと、そこにはシャイア、カンゼリッツァ、ボーゼス、そしてモルガナの姿があった。

 一触即発の空気。ただ、その原因であるモルガナに戦闘の意志はなさそうだ。

「どういう状況?」

 と、リリスが訪ねる。

「私もそれを訊くために来たのだ。腰抜け共の所為であまりにも退屈であったのでな」

 胸を張って、モルガナは言った。

 自分から手を出さない限り、絶対に相手から仕掛けてくる事はないという確信からか、なかなかの傲慢さだ。

「それで、もう一度訊くけど、どういう状況? なにがあったのかしら?」

「……はぁ」

 黙秘しても面倒になるだけだと判断したのか、シャイアがため息を一つついてから答える。

「スロウの身体をもったルナ・オルトロージュが懐に忍ばせていた転移石を砕いて姿を消した」

 どうやら、ある程度時間が経てば自分たちの領土に戻るよう、肉体に設定を加えていたようだ。スロウは自身の器も最大限有効活用するつもりなのだろう。

 しかし、どこに消えたのか、その答えはモルガナがもっていた。

「ターカスだ。そこに神子が一人急に現れたからな。間違いないだろう。まあ、私にはどうでもいい事だがな。事情も分かった事だし、もう帰る」

「……本当に、自由な奴だ」

 消えたモルガナにシャイアがため息をつき、それから数秒後、こちらに視線を向けた。

「まだ用があるのか?」

「ないわよ。だから、これは猶予ね」

「猶予だと?」

 微かに眉を顰めるシャイアに、リリスは嘲笑を返す。

「判らないの? オマケの二人も? ……本当に愚かなのね」

「なにが愚かなのか、よければ教えて貰えないかな?」

 怒を滲ませるボーゼスをやんわりと制しながら、カンゼリッツァが言った。

 こいつだけはリリスの言う、猶予、の意味を理解しているようだ。

 それで多少は見込みがあると判断したのか、

「中途半端な神子三人が、儀式の勝者になれる余地はない。それどころかお前たちは今居るほぼ全ての陣営に勝てない。そんなお前たちがしなければならない事はなに?」

「何故そんな事が断言できる?」

「アルドグノーゼ、モルガナ、カラエル、()()()()、アルタ・イレスに星舟にいるはずの神共、そしてルシェド・オルトロージュ。……仮にお前たちが共同できたとして、このうちの誰か一人にでも勝てる見込みがあるのかしら?」

「……貴様と組めば、打ち崩せるとでも言うのか?」

「ええ、もちろんよ。この『叡の劫火』がお前たちを上手く使ってあげるわ」

 その言葉にボーゼスが驚きを滲ませる、

「貴様が、リズ・ペディア・リリスだというのか……?」

「あら、その物言い。わたしを騙るものにでも先に会ったのかしら? それか誰かの昔話にわたしが出てきた? いずれにしても正確な情報ではないみたいだけど」

「……まさか、眠り姫の身体に宿るつもりなのか? 原初の二柱が?」

 口元に手を当てていたカンゼリッツァが、呟くように言う。

「どうやら、面白い昔話を聞かされていたようね。そして、この中で一番ヒトの話を聞けるのはお前みたい。いいわ、次の機会を一度だけ与えてあげる。それまでに決めておきなさい。身の振り方というものをね」

 唾をつけるのはひとまず終わりのようだ。リリスがこちらに身体を向けた。

 どの程度の期待をしての戯れかは不明だが、まあ、どう転ぼうがヴラドにはどうでもいい。正直、彼らの存在が役に立つとは思えなかったからだ。

(……それで、次はどこに向かう?)

(そのまま眠り姫の元に行こうとしないあたり、まだ冷静ではあるようね。良かった。ザーラッハに向かうわよ。まずはね)


                §


 そうしてザーラッハの首都アンシェルに到着し、手近な食事店に入る。

 エネルギーの確保と、作戦会議をするためだ。

「スロウの肉体でルナが生きられる時間は大体四日程度。だから、その時間的制限は重要ではないわ。それよりも致命的な問題が先に訪れるでしょうからね」

 その問題とはもちろん、ルシェドの帰還である。

 戻ってきた奴が、この現状を前にしてどのような行動に出るのかは全く読めない。最悪、その日に儀式の勝者が決まる可能性すらあった。そしてそれはヴラドとリリスにとってまったく望ましくない結末だ。

「契約はいつになる?」

「今日は調整に使われるだろうから、明日のこの時間が濃厚。それまでに眠り姫を取り戻す必要がある。摘出系の魔法でも問題はなさそうだけど、解の魔法を用いれば確実に中に居る奴は駆除出来るわ。場合によっては魔法である必要もない」

「戦力の方は?」

「そうね、儀式に邪魔が入らないよう結界の類が展開される事は確実だろうから、それを潰すのと一応の陽動に『真深夜(レドゥフォドゥン)』が三人くらい欲しいわね。というわけだから記者もどき、お前にも任せるわ。あぁ、心配しなくても依頼をするだけよ。子供のお使いと変わらないわね」

 隣のテーブルに腰かけていたパウにリリスが言う。

「でも、未来視が必要なお使いなんでしょう? 怖いなぁ。相手はどなたなんですか?」

「もちろんノイン・ゼタよ。上から順に、依頼を完遂する相手を選んでいきなさい。最低でも一人は確保して」

 そう言って、リリスはヴラドのコートの内ポケットから布袋を取り出し、そこから一個の倉石を取り出して、袋の中に倉石の中に入っていた魔石を放出しパンパンにしていく。

 大体、五十億リラ程度の価値はあるだろうか。これまでヴラドが稼いできた資金の大体三分の一程度だ。最終決戦で戦争を可能にするために用意してきたカードの一つ。まあ、それで確実に『真深夜』の傭兵を雇えるかどうかは不明だが、交渉の席に座らされるには十分だろう。

「そちらはどうするのですか?」

「そうね、それはルウォ帝国に戻ってから考えるわ」

 そこで、料理がやってくる。

 ヴラドは味を確かめる事もなく、さっさと胃に押し込んで店をあとにした。

 

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