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君>世界   作者: 雪ノ雪
第七章『遠い半身』
112/119

28/健闘を試みる

 海に沈んだサラヴェディカの区画からなんとか抜け出し、シャルロットはプレタと共に海面に浮上した。

 規模が規模だったこともあってか、一部は浮力もなしに海の上に顔をだしている。そこに登って、ゆっくりと呼吸を整えた。

 ……朝日が眩しい。今の時刻は把握していないが、夜の真っ只中だったのは間違いない筈だ。

「ほんと、一体全体どうなってんのよ?」

 顔をしかめながらプレタがぼやく。

 ちなみに、その深い困惑は夜中の朝日だけではなく、制御室に一緒に赴いたノスティワ、マルテシア、ファリンがここに居ない事も要因となっていた。

 墜落先を海面に変更させる事に成功し、その衝撃の緩和に作業が移行したタイミングで、三人は忽然と姿を消してしまったのだ。

「さっきまで居た場所とは時差があるからだよ。ちょうど朝になっている場所を緊急転移先に指定したからね」

 疑問の一つに答えるように、側面からクーレの声が響いた。

 振り向くと、そこにはクーレ、ウィン、リグチラ、ララエスタ、アンナ、クウォンタ、そしてクウォンタに背負われたレナリアの姿があった。

 こちらより先に脱出し、この凹凸の多い外壁の上に避難していたらしい。

 内部にヒトがいないか、脱出ルートはどこか、この二点に力を集中させていた所為でまったく把握できていなかった。

「……どうして、叔母様が此処に?」

「私が誘ったのよぉ」

 答えたのはララエスタだった。

 ますます状況が判らないが、相手が彼女である時点で恐怖でしかない。

「そう身構えなくてもいいわぁ、賭けは貴女たちの勝ちだから。あぁ、でも、彼女の復讐は最後まで見ていたいから、殺すのはダメよぉ? ……というか、まだ目を覚まさないのよねぇ。よほど蒸し返された罪とやらが痛かったのかしら?」

 不思議そうに呟きつつ、ララエスタはレナリアの頬を指でつついたり、鼻をつまんだりしてみせる。

 そのなかなかに衝撃的な光景に唖然としていると、

「シャルロットさん、少しいいですか?」

 と、アンナがこちらに近付いてきた。

「え、ええ、なんでしょうか?」

「ルナ様の事についてです。今なら正しく伝えられると思うので」

 そんな前置きと共に、彼女はシャルロットの中にあった誤解を解き、全てはアブロイの魔法によって歪められた情報であり、今現在の彼女がスロウの身体の中に居るという真実を教えてくれた。

「では、誤解も解けたところで確認を。貴女たちは、ルナ様をどうするつもりなんですか?」

 真剣な眼差し。

 彼女がルナの事を大切に思っている事は間違いないのだろう。ならば、こちらの目的を隠す理由もない。

「……なるほど、だったら私達は手を組めそうですね。ルナ様は今、シャイアさんのところに居ます」

「どうしてそんなところに?」

「彼女に記憶障害の元を断ち切ってもらうためです。まあ、その問題は既に解決したみたいですが、スロウの肉体との繋がり次第では、まだ利用は出来そうですね」

「そこまで強固な繋がりになる事はないだろう」静かな口調で、ウィンが言った。「彼女の魂に合う肉体はおそらく存在しないだろうからな。それよりも、この後はどうするんだ? そもそも、ここはどこなのか」

「さあ? とにかく朝である場所にこの区画を飛ばしてくれって言っただけだからね。詳しい場所は知らないな」

 そう答えたクーレの視線がこちらに向けられる。ノスティワと直前まで行動していたのだからなにか知っているのではないかという期待が、そこには含まれているようだった。

 ただ、残念ながらシャルロットにも答えはない。制御室での操作に関しては、魔力提供以外ほぼノータッチだったためだ。

「今の太陽の位置から、飛ばされた方角はある程度判るけど……」

 と、プレタが呟いたところで、彼女の契約者であるレーニィスが戻ってきた。

「……そう。わかった。ありがとう。どうやら周囲五十ヘクター内には、あたしたち以外何もないみたいね。完全に海のど真ん中って感じ。まあ、溺れる心配はなさそうだけど、どうやって戻るのかが問題」

「クウォンタさん、飛龍は?」

 アンナが訪ねた。

「侵入した後すぐに外に戻したからな! 近くにはいないな! 離れ過ぎた所為か共有も駄目そうだから、吾輩を見つけるのも難しいだろう! 実に残念だ!」

「私も同じね。迎えは期待できないわぁ」

 ララエスタも頷く。

「転移石は持っていないんですか?」

「単品で大陸間を転移できる魔石なんて、いくら私でも持ち歩いてはいないわぁ。仮に、持っていたとしてもここの座標が判らないから、目当ての場所に跳ぶのは無理ね」

「つまり、僕たちはこの件から除外されたという事だね。厄介払いを喰らった」

 と、クーレが呟いた。

 たしかに状況を見ればその通りだ。

「でも、一体誰が?」

「本気で言っているのか?」

 シャルロットの疑問に、マヌラカルタが呆れたような反応をみせた。

 それで、気付く。

 ダノラウトだ。彼がおそらくスロウの指示でそれを行った。あの場面で彼女の代わりに自由に動けたのは、彼だけだったはずだから、その可能性は非常に高い。

「こちらの施設は完全に水没。修復できる人もいなさそうだし、中枢がなんとかしてくれるのを待つしかない、か」

 その場に寝転がって、クーレは気の抜けたような声で呟いた。

「……さて、此処に隔離されなかった人達で、果たして誰がそれを成し遂げれそうかな?」


                §


 サラヴェディカが大きく揺れた時、ククルはエイダとゼクスと一緒に居た。

 揺れている時間はそれほど長くなかったが、緊急事態と認識されたからかドアはロックされてしまったようだ。

 落ち着けば戻るだろうと待っていたが、そこから十分が経過しても解除される事はなかった。

「これは、本格的になにか不味い事でも起きたみたいね」

 不安そうにエイダが呟く。その視線は、彼女の父親に宛がわれている一室の方に向けられていた。

「……出よう」

 そう言って、ククルはベッドに降ろしていた腰を上げた。

「出るって、どうやってだ?」

「こうやって、だよ」

 ゼクスの問いに、ククルは扉があった場所に触れる事で答えた。

 魔力をそこに流した途端、ロックされていた扉が解除される。

「……解の天使の力ってやつか、でも大丈夫なのかよ?」

「恩恵だけなら問題ない。魔法を使えば、そこで確実に死ぬだろうけどね」

「使うなよ? 間違っても」

 自暴自棄な気配がまだ拭えていない事を危惧してか、強い口調でゼクスは言った。

「判ってるよ」

 苦笑気味に頷きながら外に出る。

 途方もなく長い通路に、特に変わった様子はない。

「で、次はどうする?」

「パパとラミアの様子が知りたいわ」

「そうだな。まずはその確認からか。それでいいよな?」

「あぁ、別に構わないよ」

 最初にエイダの父の元に向かう。

 同じ方法で扉を解除して中に入ると、怯えた表情をした彼がいた。とりあえずは無事なようだ。

 その事に安堵を覚えつつ、

「私が外の様子を見て来るから、パパはここに居て。外に出ちゃダメだからね」

 と、エイダが言った。彼女の父親は商人であって戦闘技術を持っているわけではないので、これには素直に頷いた。

 危ない真似はするな、と娘に言わなかったのは信頼から来ているのか、それともそういったリスクが頭にないのか、どちらなのかは判別がつかなかった。

 続いてラミアの部屋に入る。

 彼女はエイダの父親と違って、一切動揺の色を見せてはいなかった。

「許可もなく私を外に出したら、問題になりますわよ?」

「それでもいいさ。慌ててやってきてくれるなら、その分早く保護もして貰えるだろうからね。……そういうわけだから、大人しく着いて来い」

 努めて強い口調でククルは言う。

「ええ、了解したわ」

 面倒そうにベッドから腰を上げたラミアは外に出て、周囲に魔力を流した。

 この中でもっとも感知能力が高いのはラミアだ。その彼女が補足できないものは、ここに居る他の誰にも捕捉は出来ない。

「妙な魔力の靄、どうやらジャミングされているみたいですわね。何者かの侵入を許しているのか。……この状況なら、区画管理室に向かうのが良いと思うのだけど、どうかしら? 他の人達も同じことを考える筈だから、仮に中に入れなくても誰かと合流できる可能性も高いでしょうし」

「俺はそれでいいと思うぜ?」

「私も同意よ」

「……分かった」

 そうして四人が庭園を経由して、区画管理室に到着した。

 魔力を込めて触れてみると、瞬く間にロックは解除されて、施設内を監視するモニターへのアクセス権を手に入れる。

 それ以上の権利は得られなかったが、おかげで敵がエンシェの兵達たちだというのが判明した。ついでノスティワとマルテシア、ファリンの位置も捕捉する。

「相当な数じゃねぇか。これ、攻め込まれてるってことかよ」

 驚きを滲ませた声で、ゼクスが呟いた。

「ただの兵隊で制圧できるなんて普通は考えない。つまり、それで十分な状況にしたという事ですわね。クーレ・サーランタやウィン・クラヤナードは除外されたと見てもよさそう。なんにしても、我々だけで固まっていても仕方がないんだから、さっさと合流をしましょう」

 修羅場に慣れている事を物語るように、淡々とした口調でラミアが言う。

 色々と思うところはあるが異論はなかったので、四人は彼女の提案のままにノスティワたちの元へと移動を開始した。


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