第52話 ゲーマーとして、俺は望むままに選びとる
ザザッ。
【情報共有……】
ザザッ。
【言語習得、解析……】
ノイズと一緒に、時おり何かが聞こえてくる。辺りは静まり返っていて、それは徐々にハッキリと聞こえてくる。
両足を投げ出して、アディは台座にズルズルと身体をもたれさせていた。
――さて、どうやって出よう。
昔から、痛みに慣れるのは早かった。けれど、怠さは一向に慣れない。
深く息を吐いて、天井を見上げる。そこかしこの文字が、破壊可能に変わっている。
いっそ身体の内に暴れる力を、破壊に全振りしてみるか、と何度目かの問いが首をもたげた。
――生き埋めになるよなぁ、多分。
ここは地下八階層のはずだ。ずっと下に向かっていたのだから。
ザザッ。
【解。現在地、ダンジョン中心部。階層独立、該当不能】
「……?」
――今、何か。
ザザザ。
【質疑応答中……】
「――!?」
【???】
最適化中。エラー。
アディは思わず自分の手を見た。けれど、表示は変わってなかった。ため息をついて、脱力する。頭がおかしくなって、聞き間違えたのかと思ったからだ。
ザザッ。
【同時進行中、最適化七十パーセント完了】
「……あ、やっぱ。会話してるのか、これ」
よく分からないが、アディに応えてくれるらしい。
そういえば、脱出を考えた時に、強制退場が聞こえていた。皆の姿も見えていた。タイミングがいいわけである。
「最適化とか要らねえから、早く……帰してくんない?」
ザザザ。
【非推奨、ダンジョンコア分離。アディウートル・クストス死亡】
――重たいな、おい。
勝手に入ってきて、返却不可とは理不尽だ。誰も、欲しいとは言ってないのに。
勝手に落ちてしまったわけで、ただ、ダンジョンの外に出たかっただけなのに。
アディは口をへの字に曲げて、苦虫を噛み潰したように辟易する。
ザザザ。
【仮定、コア同化前。アディウートル・クストス推定寿命、三ヶ月】
「はぁ?」
予想外の返答に、アディは間抜けな声が出た。いきなりの余命宣告に、思い至る節がなかったからだ。
ザザッ。
【原因、魔法行使による内部損傷、回復不可。魔眼常時発動による衰弱死】
「……」
訂正、思い至る節しかなくて、アディは顔を両手で覆った。穴があったら入りたい。的確に思考を読まないで欲しい。
というかアディウートルの目は、そんなにヤバい目だったのか。
ザザザ。
【不可、情報共有中……】
それにアディの身体の消耗具合は、ダンジョンだけ見ても分かっていた。発動による負荷、魔力残量を読み間違えていた。魔力枯渇による吐血が、想像よりも早かった。
無茶な攻略とはいえ、とっくに人として限界を迎えていたんだろう。
聖水による回復が無ければ、今死んでいたかも知れない。
――なら……辻褄は合う、のか?
ヒロインが編入し、チュートリアル後初期強化で消費されるキャラだったアディウートル。
ダンジョンに潜って無ければ、ヒロイン編入後に入れ替わるように衰弱死。ゲームの強制力として、十分にあり得そうだ。
ザザザ。
【解答不能、理解不能】
「あれ? そうなの?」
何でも応えてくれると思っていたら、そうではないらしい。意外過ぎて、アディは驚いた。
「じゃあ、なんで階層独立して来れないはずのところに……俺が落ちて、都合よくコアと接触したの? コアって、お前?」
これならどうだと、アディは話を投げ掛けた。一息に話すのも疲れる。
ザザザ。
【……ダンジョン、ソロ踏破、前代未聞。接続、イレギュラー、理解不能】
「いや、一人でとは言わないぞ。全階層殲滅してないじゃん。ケレルも一緒に落ちてたし」
ザザッ。
【解、イレギュラー】
――便利な言葉だな、おい。
もう少し明瞭に喋って欲しい、そう思いながらアディは再度聞いた。この機会を逃す手はない。次があるとも限らない。
「お前はなに? 延命は、嬉しいんだろうけど。なんで俺?」
触れて入るなら分かる、接触したからだ。でも、アディはコアに直接触れてなかった。
それに、これらはコア側にメリットがない。
ザザザ。
【コア、安置最適。希望、興味、探求、真理、必然、表現不能……】
――器扱い……。しかも、表現不能とか。
まるで、アディに言語を合わせてるような言い方だ。そういえば、さっき……。
ザザッ。
【言語習得済、解析中】
「ああ、どうも。で、最適化が終わったらどうなるの?」
ボーと過ごすだけの時間はアディには長く退屈で、話し相手が出来ただけでもありがたい。さらには疑問に答えてくれるのだ。
が、それはそれ、これはこれだった。
帰ると約束したのだから、これから先のことがアディには大事なのだった。
ザザッ。
【最適化八十パーセント完了。アディウートル・クストス、コア完全同化。事象未知数、不確定】
「ええー」
解答になっていないではないか。アディは本気で、そう思った。そしてアディ自身がそうであれば、もう一つはと疑問を抱く。
「じゃあダンジョンは? コアが離れたらどうなるんだよ。俺の中に、コアがあるんだろ?」
王道では、崩壊。まだ何も始まっていないところを見ると、最適化中だからか、アディがいるからかのどちらかだと思っていたのだ。
ザザザ。
【選択可、ダンジョン共存、消滅。
共存、常時接続、負荷大。不老不死制限。リスク大、危険増。コア共存、未知数。不確定。
消滅、完全独立。不老不死。長命、能力強大。創生、未知数。コア消滅、不確定】
――わぁ、不穏ワードのオンパレード。
スラスラと列挙された単語の数々を、飲み込もうとしてアディは一瞬、不安に駆られた。
帰ったとして、果たして皆の元へも戻れるのだろうか、日常に戻れるのだろうか。
――でも、死ぬよりずっと良い。
別れたケレルを思い出す。ダンジョンから戻らなくても、戻って衰弱死しても、彼はきっと気にしてしまう。
ならば選択肢と言えど、アディには一つしかないと即座に雑念を切り捨てた。
ザザッ。
【選択可、カウント開始。期限、最適化完了】
「カウントなんか要らねぇよ、俺が選ぶのは――」
なぜ、出された選択肢から選ばないといけないのか。思考を読むならば、無双を好まないことくらい把握しても良いだろう。茶番だった。ここはゲームだと、コアも断定しなかったのに。
――俺は、帰る。
何を提示されても迷うことなど無かったではないか。アディが望むのは、ずっと一つだったのだから。




