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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第50話 泣き顔見て笑うんじゃない!

いつもお読みいただきありがとうございます!

リアクション嬉しいです(*^^*)


そんなに2章も、最終話で累計99話目なんです

3章突入前に、またSSを考えてます、何が良いかな

 バシャ、と水の跳ねる音が静かに響いた。

 静かに涙を流すアディに、ケレルはそっと片手を背中へと回して、抱き寄せたからだ。

 その温もりが、いつかの声と重なった。


『今日のことは、覚えてなくていい。いや、ずっと忘れていてほしいかな。

 でもね。君が命を投げ出したくなったら、今日を思い出してほしいんだ』


 ――それは、誰の声だっけ?


 微かに覚えているのは、その人が温かかったことだけ。もうずいぶんと前の記憶なんだろう。


『これからたくさん、辛いこともあるだろう。強い力に悩む日も来るだろう。他人と違うのは、とても傷つくことだろう。

 でも、忘れないで。終わることは、いつでも出来るんだ』


 ――この温もりに慣れてしまったら、失うことがもっと怖くなるのに?


 ヒロインが現れたら、彼らから捨てられるだろうと、アディは恐怖を拭い去れないままなのに。


 ――ここがゲームなのか、違うのか、それすらも分からないのに。


 ゲームは始まっていないのに、イベントが起きてしまった。

 けれど、今いるここはイベントとは明らかに違う階層。そして、アディの瞳にも変化が起きた。


 入学した時は、地味にしてれば平凡に何事もなく卒業出来ると思っていた。

 キャラだ、ゲームだと思えるうちは、色々と逃げていられた。ヒロイン不在のバグだと、思い込もうとしてるうちは……。

 それなのに、また今――。


「だから噛むなって、アディ。噛むなら、俺の指を噛めよ」


「――っ!」


 その甘い誘いに、アディは目を見開いて、ケレルの肩にぐしゃりと顔を埋めた。

 この温もりのまま終われたら良かったと思う日が、いつか来るんじゃないだろうか。


『もう少しだけ、もう少しだけ。そうやって先伸ばした未来に、いつか救われる日が来るかもしれないよ。

 僕やクストス家以外にも、きっと君自身を受け入れてくれる人が現れるはずだ』


 ルナも、カリスも、フィデスも、ユニタスも、セレーヌスも皆、アディをまっすぐに受け入れてくれていた。

 目の前のケレルもまた、アディを見てくれている。


 ――もう、救われても良いのだろうか?


 気づかない振りをしたらダメなんだろう。ずっと目を反らしてはいけないのだろう。

 それは今の彼らの、誠実さを無下にする行いだからだ。

 彼らが自分を求めてくれているのは、今は本心かもしれない。


 ――けどまだ、向き合うのは怖いんだ。


 ヒロインが現れた瞬間、手のひらを返されたように捨てられるなんてことになれば、きっとアディは壊れてしまう。


「……ごめん」


 今の精一杯の気持ちを、アディは声に出して伝えた。終わることはいつでも出来る。先延ばしにしてもまだ許されるだろうか。ただ、今は生き残ってしまったから、と。


「ありが、とう」


 アディは震える声で、それだけを形にした。

 こんなところまで、迎えに来てくれたから。向けられた今の気持ちに応えることで、いっぱいいっぱいだった。求めることは、まだ出来そうになかった。


『これはおまじないだよ。優しい君が、幸せになれるように――』


 ――いつか本当に、心からそう思えたら。


 アディが閉じた目蓋の裏、真っ暗な世界。余計なノイズが無くて、ただ心地よかった。

 一人じゃない、誰かの温もりはこんなにも温かい。


 ――でも、気づきたくも無かった。本当は。


 知れば知るほど、いつか傷つく時がくれば、深く絶望してしまう。アディはすでに過去で、全てを手放したことがある。今いるアディは、家族が心を砕いた結果に過ぎなかった。


「なぁ、アディ。一緒に帰ろう?」


「……うん。帰る」


 穏やかなケレルの声、ぐずぐずと泣きながら、アディはそれに返事をした。もう、いっぱいいっぱいだった。


「はは、ひでぇ顔」


 背中に回した手を離して、ケレルがアディを覗き込んだ。

 アディには、ケレルと一緒にやっぱり文字が見えて複雑な気持ちと、気恥ずかしさとで目を反らした。


「――っ!」


【ダンジョンコアの台座】

 ダンジョンの核を安置する台座。素材不明、破壊不能。


 視界に映った新しい文字に、アディは思わず息を飲んだ。

 アディたちが今いるのは端の壁。文字は部屋の中央にある、少し盛り上がった場所を差していた。

 ゲームでは、ダンジョンは繰り返し攻略出来るものであり、コアの描写など無かったはずだった。


「アディ、拗ねるなよ」


 様子が変わったアディを見て、勘違いをしたケレルがからかってくる。アディはそれに無視をして、中央を凝視した。

 ドクドクと、緊張で胸が高鳴った。ゴシゴシと、袖で乱暴に涙を拭う。よく見えるように。

 ゴクリと唾を飲み込んで、アディはそのまま、台座へと近づいた。


「アディ、どうしたんだよ?」


「出られる、かも」


 ケレルもすぐさま、パタパタとアディの隣に駆け寄って訊ねてくる。

 アディはそれに、言葉短く応えた。ここでのコアが何を指すのか、アディには分からなかった。詳しいことは、なにも言えない。


 ――コアを台座から離すか破壊すれば、ダンジョンが消えるってセオリーだよな?


 その場合、自動で外に出されるか、崩壊のカウントダウンの中、脱出するかの二択が多いと思う。

 円盤形の台座、その下には聖水が落ちていって覗いてみたけれど、底が見えなかった。

 その穴は小さく通れそうもない。やはり出口が見当たらない。


 そして、台座の上をアディは見る。中央部分に、丸い球体がはめられていた。

 現れたメッセージは――。


【ダンジョンコア】

 ダンジョンの核、心臓部。


 ――情報が、少ないな。


 でも、辺りを見渡しても部屋の中には、コア以上に脱出の足掛かりになりそうなものはなかった。

 なぜなら全て、破壊不能の表記だからだ。


「うーん? なんだこれ?」


 ケレルが横から覗いて、首をひねっていた。ダンジョンが珍しくないはずの育ちの、ケレルでもこの様子だ。よほど今が異常事態らしい。


 ――外して、ヤバそうなら戻せば良いよな?


 そう思って、アディはコアへと手を伸ばした。そうする以外の道を知らなかったから。

 アディの指が触れるか触れないか、その距離で、突然コアは燐光を放った。


「――っ!」

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