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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第49話 言い合いするじゃん? 途中もうワケわかんなくなるよね

「――っ!」


 壁を背にしたアディの額に、ケレルがゴンッと勢いよく頭突きをした。

 アディの目の前に閃光が弾け、衝撃で息がつまる。

 ケレルはそのまま壁に両手をついて、アディの逃げ道をふさいでまくし立てた。


「やだね! 間違ってたら、バカって教えてやるんだよ。止めるだろ、普通。それが友達だろうが!

 俺の友達は、頭の中が食べることしかなさそうで、食堂に食べに学園来てるだけって言われても、納得出来ちゃう奴なんだよ!

 そんな奴がな、ベッドから起き上がったと思ったら、勝手に死にに行こうとしてるし、泣いてるんだよ!

 友達が危ないなら助けに行くし、バカにはバカで十分だろうが!」


「誰がそんなに食い意地はってんだよ! ふざけんな!」


 突き飛ばしてやろうとアディがケレルの肩に手をやれば、彼は真っ向からそれを掴んで押し止めた。ギリギリと、互いの力が拮抗する。


 ――()がここで何してたか、見てきたんだろうが!


 ダンジョンの下層にいる。それはつまりそういうことで、その上でここにいるのなら、そんな言葉は出てこないはずだった。


「いいや、お前は食い意地のはってるただの男だよ!

 アディがどれだけ凄かろうと、俺の友達を勝手に殺す権利はないね!

 俺は初対面で言ったぞ、他人任せにはしないから、そこは安心しろってな!

 だから絶対、頼りにしないし、期待もしない。一緒に笑って、一緒にバカをやる。

 そうやって隣にいるんだ。これからもずっと!」


 ケレルの吐息がかかる距離。ブラウンの瞳がじっと睨んでくる。

 アディの瞳には、全てが近すぎて文字が見えなかった。頭突きをされた頭はクラクラと揺れて痛み、文字に振り回された心は酷くかき乱されていた。


「そんなの勝手に他所でやれ! ()には関係ない!

 頼んでないんだよ! こんなところまで追いかけてきて、バカはお前だろうが!

 お前らが死んだら、どうするんだ!」


 ケレルたちは、この世界に必要な存在だ。ヒロインが編入してきたら、彼らの物語が始まるのだから。

 そしてそれだけではない。皆、この世界で生きている。彼らにとってここは現実だ。

 なのにケレルは今、出口のないこの空間にいる。


 ――危ないことを、してほしくなかっただけなのに。傷ついてほしくなかったのに。


 だから、アディは一人で来たんだ。だって、アディウートルならば――。


()は消えてなくなる素材だから」


「っ!?」


 ケレルが言った一言に、アディはビクリと身体を強張らせた。

 ケレルに聞かれていた。たったそれだけが、アディに衝撃を与えるには十分だった。


「……素材とかわけ分かんねぇ。なんで、アディが死んだら良いってなるんだよ?」


 ケレルは声のトーンを落として、アディに問いかけた。

 アディの瞳をじっと見つめて、ケレルは肩を掴んで距離を詰める。


「アディは俺らを大事にしてくれるのに、俺らがアディを大事に思ってるって、なんでお前、分かんねぇの?

 アディが死んで、めでたしめでたし。で笑う奴がいるとでも思ってんの?

 居るなら名前、上げろよ。ちょっと全員で絞めてくるから。

 カリスなんて喜んで社会的に抹殺するし、セレーヌスだって、笑顔で仕留めてくるぞ。

 皆。アディ、お前が好きだ。お前が死んで、誰かが助かっても、誰もそれを喜ばない」


 ――嘘だ。


 アディは、はく、と口を動かしてけれど音にはならなくて、代わりに首を左右に振った。その拍子にポロリと、雫が溢れた。

 彼らの意識がアディに向いているのは、ヒロインが居ないからだ。


「嘘じゃねぇよ。ここに来るまでに、お前すげぇの置いていっただろ。ちょっと足止めされてさ、その時、セレーヌスは言ったぞ。

 アディが望まなくても、最期を一人にしないって決めてるって。セレ兄さんってアディに呼ばれるのが、好きだって。

 お前、めっちゃ愛されてるじゃんか。分かれよ、それくらい」


 ケレルと面と向かっているのに、視界がぼやけて、あの文字がアディに見えなくなった。

 ポロポロと、アディの頬を伝って雫が落ちていく。


 ――違う。


 生徒会長で完璧な兄なだけ、そう都合よく思いたいのに、アディはその言葉を嬉しいと感じてしまった。期待しては、ダメなのに。


「カリスも、皆で仲良く籠城戦をしてもいいって下まで来てるぞ。

 王族が率先して来てるぞ。次期侯爵の俺よりやべぇだろ?」


 ――籠城戦とか、意味分かんない。


 剣を突きつけて来た時も、カリスは好き放題言ってくれたなと、アディは思い出す。

 アディはその思いを認めたくなくて、ぎゅっと唇を噛んだ。


「アディは強いんだろ? だったらこんなことしないで、最初から、自分も助かる方法が取れただろ。

 一人で飛び出してさ。こんなの、おかしいってやっぱり。

 今もほら……唇が切れるだろうが、バカ」


 ケレルが、アディの口に指を当てた。ぐっと唇を押し上げて、噛まないように。

 その優しさが、アディには痛くて涙が止まらない。


「なぁ、なんで泣くまで我慢してんだよ。なんでそんなに、自分を傷つけるんだよ。

 言いたくないなら、無理に聞かない。けど、俺は何度でも、アディにバカって言って止めるからな。

 アディが居なくなったら、誰も笑えねぇし。喜べないんだよ。

 ……間に合って、良かった。アディに会えて、本当に良かった。生きてなきゃ、許さない」


 ケレルはそう言って、アディに笑みを向けた。


 ――その思いを、偽物じゃなくて本物だと認めてしまったら、俺は。

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