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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第48話 ケレルがだんだんと関西人に見えてくるよね? あの気安いノリが

「はぁ――……」


 息を吐き出して、アディは気持ちを落ちけようとした。

 ダンジョンに、ケレルが一人で来れるわけがない。同行者がいたはずで、きっと彼を探しているだろう。


 ――ケレルを帰さないと。


 立ち上がろうとして、アディはくんっと引っ掛かる。

 そう言えば、彼に手を掴まれたままだった。


「……」


 何もない空間に、バシャンと静かに水音が響いた。

 そっとケレルの手を、アディは引き剥がそうとする。


「ん――」


 ケレルが身じろぎをして、目蓋が震えた。そっとブラウンの瞳が見える。


 ――やべ。


 バチッと、ケレルの目が合った。アディはビシリと音を立てて固まる。

 彼は潤んだ瞳で、しばらくの間ぼーとアディを見つめていた。


「――っ、アディ!」


「ぅわ――っ!?」


 バシャッ。


 突然、ケレルが感極まったように勢いよく起き上がり、アディに抱きついた。

 繋いだ手がもつれバランスを崩したアディは、そのままケレルと二人後ろへと倒れる。

 僅かに後ろの方が水深があったらしく、倒れた拍子に、アディの顔に水がかかった。


「っ!」


 アディはたまらず、ぎゅっと目を閉じる。身体に変に力が入って、うまく起き上がれなかった。


「あっ! 悪い……」


「……げほっ。けほ」


 気づいたケレルが慌てて手を離し、アディを助け起こした。

 アディは軽く咳き込んで、そろそろとケレルを見上げる。ポタポタと濡れた髪から、いくつも雫が落ちた。


【ケレル・ウォレンティア】

 ウォレンティア家、長子。男。十四歳。得意属性、風属性、土属性。


 ――ちっ。


 顔には出さず、アディは内心で舌打ちをした。視界に映るケレルと一緒に、見たくないものが見えてしまった。

 自覚したばかりの能力は、使い分けが全く出来ていなかった。

 そして期待とは裏腹に、そこに見えた文字には、攻略キャラだとか、ゲームだとかの文言がなかった。


 ――どっちを、期待したんだ、俺は。


 手が離れたのを良いことに、アディはケレルから視線を反らして立ち上がる。

 対する彼は、そんなアディをずっと見つめていた。


「……アディ?」


「なんだよ」


 ケレルの顔も見ずに、アディは素っ気なく返事を返した。そのまま何処かへ歩き出そうとする。

 そのアディの手を、座り込んだままのケレルが掴んだ。


「泣くなよ。バカ」


「はっ、水だろ。くだらないこと言ってないで、出口を探すぞ。お前、帰らないと」


 アディが振り返って、ケレルをジロッと睨む。だが、彼は真っ向からムスッと睨み返してきた。


 振り払おうとするアディに、ケレルはさらに力強く掴んでその手を離さなかった。バシャバシャと、ただ水音が響いていた。

 アディは苛立ちのまま眉間に皺を寄せ、彼は手を離さずに俯き――そして。


「すぅ――」


「……?」


「アディの……、バカー!!」


 深呼吸をしたケレルが、勢いに任せて大音量でアディを怒鳴りつけた。


「バッカじゃねぇの!? なに強がってんだよ! どう見ても、誰が見ても、泣いてるだろうが、アディ!

 どれだけ心配したと思ってんだ。なんで全部、自分で解決しようとしてんだよ!

 人の気も知らないで、何が帰らないとだよ!? アディも一緒に帰るんだよ!」


 一息にまくし立てると、ケレルは肩で息をしてアディを見上げ睨んでいる。


 ――俺は、お前とは違う。そんなのは、嘘だ。


 ケレルは攻略対象のキャラで、アディはチュートリアルのサポートキャラだ。なんならヒロインの初期強化で、アディは素材として消費される。


 ――ヒロインが来たら、俺は消える。ヒロインが来れば、攻略キャラは俺なんて……。


 目覚めた時には軽かったアディの身体が、水に濡れて立ち上がった今、とても重く感じた。捕まれた手が、振りほどけなかった。


「皆、怒ってるんだからな。心配してるんだからな! 帰るんだよ、アディ。

 お前を迎えに来たんだ。一緒に帰ろう?」


 ケレルにまっすぐに見つめられて、アディの目には文字が一緒に映り込んだ。

 仮眠室で錯乱していた時と、今とでは明確に違う。鑑定結果として見える文字に、アディは耐えられずに目を閉じた。


 ――気持ち悪い。気持ち悪い!


 ギリッと音が鳴るほどに歯を食いしばり、アディはその手を力任せに振り払った。バシャバシャと水の中を後ずさる。


「先に帰れ! ウォレンティア次期侯爵が、どこまで来てんだよ!」


 終わったはずで、守ったはずで、なのに何一つアディの望んだ形になっていなかった。

 ヒロインが来て、彼らが離れていくのをこの目で見るくらいなら、ここで意味ある最期を迎えたかった。


「帰らない! 俺は今、アディの友達として――」


「頼んでない、頼んでない! 帰れ!」


 ケレルの言葉を偽りだと遮って、行く宛もなくアディは後ろへただ逃げた。

 その足がガッと、背後の壁にぶつかる。アディは閉じていた目を、開けてしまった。


「――っ!」


【壁】

 素材不明、破壊不能。


 壁を睨んで見えた表示に、行き場のない怒りをアディは抱えた。感情のままに握った拳を、壁へと叩きつける。


 ――知りたいのは、そんなんじゃない!


 壁には傷もつかず、衝撃音だけが辺りに虚しく響いた。

 アディの拳からポタポタと赤い雫が滴って、水へと混ざって消えた。握りしめた拳に、爪が食い込んだからだ。


「アディ、やめろって。バカ!」


 ケレルがアディの拳を掴み、アディはそれを拒絶した。

 けれど彼が視界に映ると文字が見えて、アディは堪らず目を反らして怒鳴る。


「バカバカ言うならほっとけ! ()に関わるな!」


 ――なんなんだ、なんなんだ!


 これ以上、どうしろって言うんだ。

 

 

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