第46話 俺のおふざけタイトル付けは、今回も休止中で
すみません、46話の予約処理を忘れていまして
さらには順番も編になったので修正してます
更新時間が変なのも流していただけると助かります
七階層の入口。ケレルたちはそこから先へと、足を踏み込めなかった。
轟音が響き、衝撃がケレルの頬を掠めて肌を裂いた。前方は視界が悪く、何も見えない。
「《イージス・アブソリュート》」
抑揚のないカリスの声が、詠唱を紡ぐ。展開された不可侵の壁が、あらゆるものを隔てた。その向こう、立ち上る砂煙の間から緑と赤が微かに見えた。
――なんだよ、これ。
緑は、アディのオリーブの髪の色だろう。赤は、二本足で立つ巨体のモンスターだろうかおびただしい血を流していて、元の色が分からない。
その人よりも遥かに大きいモンスターを、アディが殴り飛ばしている。
一瞬見えたその瞳が、灯るように赤く輝いていた。
吹き飛ばされたモンスターは、打撃部位を大きくへこませて、それでもゆらりと起き上がる。
「ガァァァァァァアア!」
獣に似た咆哮が響き渡った。けれど、アディはそれを意に介さず追いかけ、飛び上がると回し蹴りでモンスターを地に倒していた。
破壊音を響かせ、衝撃が空気を震わせた。
巨体の蹴られた箇所が、大きくへこみ歪んでいる。
モンスターの折れた骨が体表を突き破り、潰れた部位からは、血が吹き出していた。
どれがモンスターの血で、どれがアディのものか分からないほど、アディはその全身を血で染め上げていた。
――アディなんだ、よな?
模擬戦で手合わせをしたとは思えない、圧倒的な力の差がそこにあった。
モンスターよりも、アディの方が動きが速いせいで、一方的な蹂躙となっている。
「アディ!」
セレーヌスが隣で、悲痛な声で叫んでいた。
アディは聞こえていないのか、モンスターの腕を勢いよく蹴りあげる。ブチブチと肉を断ち切れる音がし、その腕をちぎり飛ばしていた。
――は? 蹴り、だけで?
壁に叩きつけられた腕は、圧が加わったように同時に肉片へと変わる。
その衝撃波が、カリスのイージスによって防がれた。
「――っ!」
バチッと弾ける音が近くで聞こえ、ケレルは強張った身体を動かし――見た。
「介入出来ませんね。支援魔法が弾かれる。なにかな、阻害系か?」
右手を血塗れにしたロブルが、困ったように顔をしかめていた。
懐からハンカチを取り出すと、手に巻きつけている。白のハンカチは、あっという間に赤く染まった。
「……いや、使っているのは身体強化だけだ。他が入る余地を許してないんだろう。
なるほど、公爵が言っていたのはこういうことか」
「ヴェネラティオ、公爵が?」
ケレルは意味が分からず、ただカリスの言葉を反復した。
「常時の身体強化で、練度と精度が飛び抜けてると言ってただろう。
攻撃が最大の防御とはよくいうよ。どう見てもアディのあれは、規格外過ぎて普通じゃないね。」
ふむとカリスは前を見つめて、冷静にアディを観察しているようだ。
――でも。
「間に、あったんだよ、な?」
アディは、モンスターを一方的に蹂躙しているようにケレルには見える。
あれだけ動き回ってるのなら、無事ではないのか。そう期待を込めた。
「アレが、正気の沙汰ならね。ケレルにはそう見えるのかい?」
汚れた拳を振り払ったアディは、怖いほどに無表情だ。原型を失いつつあるモンスターに、容赦なくかかと落としを繰り出していた。
その衝撃が床を割り、四方へと亀裂を生んで周囲の壁にヒビを入れた。
ケレルの前にまで来たヒビは、イージスに弾かれて止まる。
――正、気……?
アディは真っ赤に光る瞳で、ただモンスターだけを見ている。
そこに普段のふざけた表情は、全くない。ゾッとするほど冷たい目だった。
――正気なわけ、ない。
グッと再び拳に力を入れて、床にへばったモンスターをアディはまた殴りつけた。
さらにアディは構わずに、反対の拳で殴りつけた。その度に衝撃が空気を震わせ、イージスが防いでいる。
いったいどれほどの強化をすれば、あれ程の威力になるのか。
そのモンスターは、もう虫の息だろう。動くのもやっとだ。ケレルはそう思うのに、アディが止まる様子はない。
――もう、やめろよ。
アディの動きに躊躇いがなく、無駄がない。流れに身を任せて、ただ殴って蹴ってを繰り返しているようにケレルには見えた。
セレーヌスがずっと声を掛けているのに、アディには一度も届いていないようにも思う。
――アディ、もう、良いんだって。
両手を組んで、最後と言わんばかりにアディは振り落ろした。
モンスターが爆ぜる音と共に、辺りに肉片と血が飛び散った。
イージスが汚れの全てを防ぎ、赤一色で防壁の前が塞がった。
静寂が、辺りを包んでいた。
ぴちょん。
ぴちょん。
滴る水音が、静かに響いていた。カリスが静かにイージスを解除する。
七階層。その白が基調の空間は、赤く染まっていた。
上を見上げたアディが、血溜まりの中に立っていた。緑の髪は真っ赤に染まり、全身が返り血に濡れていた。
「アディ」
静寂の中、セレーヌスが声を掛けた。
けれど、アディは動かない。瞳の光は消えて、虚ろな顔をしていた。
「アディ!」
もう一度、セレーヌスが声を上げれば、アディの身体がピクリと反応した。でも、それだけだ。こちらを見ようとはしない。
「アディの、バカ――!!」
堪らずケレルは、力一杯叫んでいた。
――兄貴が呼んでるだろ、お前の名前を叫んでるだろ! なんで、なんで! 無視するんだよ!
赤と白、床を二分にしたイージスの名残の境界線。
気づけば一歩前へと、ケレルは赤い床へと足を出していた。
ビシ。
瞬間、何かが割れる音がした。
「《プロテクション》!」
ずいぶんと昔に、聞いた気がするほど望んだ声が聞こえた。こちらを見たアディが発した言葉だった。それは守りの詠唱で。
――アディはまた、自分を蔑ろにした。
ケレルの目の前に展開された、それ。目の前の赤い床だけが崩れるのは――同時で。
突き放された痛みに歯を食いしばり、こみ上げる衝動のままケレルは動く。
「ばっかやろう――っ!」
ケレルは防壁が完成するより前に、崩落する床へ飛びこみ――アディに向けて手を伸ばした。
二部、最終話まで残り七話です
二部、不手際多くすみません!
これからもよろしくお願いいたします( ;∀;)




