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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第46話 俺のおふざけタイトル付けは、今回も休止中で

すみません、46話の予約処理を忘れていまして

さらには順番も編になったので修正してます

更新時間が変なのも流していただけると助かります

 七階層の入口。ケレルたちはそこから先へと、足を踏み込めなかった。

 轟音が響き、衝撃がケレルの頬を掠めて肌を裂いた。前方は視界が悪く、何も見えない。


「《イージス・アブソリュート》」


 抑揚のないカリスの声が、詠唱を紡ぐ。展開された不可侵の壁が、あらゆるものを隔てた。その向こう、立ち上る砂煙の間から緑と赤が微かに見えた。


 ――なんだよ、これ。


 緑は、アディのオリーブの髪の色だろう。赤は、二本足で立つ巨体のモンスターだろうかおびただしい血を流していて、元の色が分からない。

 その人よりも遥かに大きいモンスターを、アディが殴り飛ばしている。

 一瞬見えたその瞳が、灯るように赤く輝いていた。


 吹き飛ばされたモンスターは、打撃部位を大きくへこませて、それでもゆらりと起き上がる。


「ガァァァァァァアア!」


 獣に似た咆哮が響き渡った。けれど、アディはそれを意に介さず追いかけ、飛び上がると回し蹴りでモンスターを地に倒していた。

 破壊音を響かせ、衝撃が空気を震わせた。


 巨体の蹴られた箇所が、大きくへこみ歪んでいる。

 モンスターの折れた骨が体表を突き破り、潰れた部位からは、血が吹き出していた。


 どれがモンスターの血で、どれがアディのものか分からないほど、アディはその全身を血で染め上げていた。


 ――アディなんだ、よな?


 模擬戦で手合わせをしたとは思えない、圧倒的な力の差がそこにあった。

 モンスターよりも、アディの方が動きが速いせいで、一方的な蹂躙となっている。


「アディ!」


 セレーヌスが隣で、悲痛な声で叫んでいた。

 アディは聞こえていないのか、モンスターの腕を勢いよく蹴りあげる。ブチブチと肉を断ち切れる音がし、その腕をちぎり飛ばしていた。


 ――は? 蹴り、だけで?


 壁に叩きつけられた腕は、圧が加わったように同時に肉片へと変わる。

 その衝撃波が、カリスのイージスによって防がれた。


「――っ!」


 バチッと弾ける音が近くで聞こえ、ケレルは強張った身体を動かし――見た。


「介入出来ませんね。支援魔法が弾かれる。なにかな、阻害系か?」


 右手を血塗れにしたロブルが、困ったように顔をしかめていた。

 懐からハンカチを取り出すと、手に巻きつけている。白のハンカチは、あっという間に赤く染まった。


「……いや、使っているのは身体強化だけだ。他が入る余地を許してないんだろう。

 なるほど、公爵が言っていたのはこういうことか」


「ヴェネラティオ、公爵が?」


 ケレルは意味が分からず、ただカリスの言葉を反復した。


「常時の身体強化で、練度と精度が飛び抜けてると言ってただろう。

 攻撃が最大の防御とはよくいうよ。どう見てもアディのあれは、規格外過ぎて普通じゃないね。」


 ふむとカリスは前を見つめて、冷静にアディを観察しているようだ。


 ――でも。


「間に、あったんだよ、な?」


 アディは、モンスターを一方的に蹂躙しているようにケレルには見える。

 あれだけ動き回ってるのなら、無事ではないのか。そう期待を込めた。


「アレが、正気の沙汰ならね。ケレルにはそう見えるのかい?」


 汚れた拳を振り払ったアディは、怖いほどに無表情だ。原型を失いつつあるモンスターに、容赦なくかかと落としを繰り出していた。

 その衝撃が床を割り、四方へと亀裂を生んで周囲の壁にヒビを入れた。

 ケレルの前にまで来たヒビは、イージスに弾かれて止まる。


 ――正、気……?


 アディは真っ赤に光る瞳で、ただモンスターだけを見ている。

 そこに普段のふざけた表情は、全くない。ゾッとするほど冷たい目だった。


 ――正気なわけ、ない。


 グッと再び拳に力を入れて、床にへばったモンスターをアディはまた殴りつけた。

 さらにアディは構わずに、反対の拳で殴りつけた。その度に衝撃が空気を震わせ、イージスが防いでいる。


 いったいどれほどの強化をすれば、あれ程の威力になるのか。

 そのモンスターは、もう虫の息だろう。動くのもやっとだ。ケレルはそう思うのに、アディが止まる様子はない。


 ――もう、やめろよ。


 アディの動きに躊躇いがなく、無駄がない。流れに身を任せて、ただ殴って蹴ってを繰り返しているようにケレルには見えた。

 セレーヌスがずっと声を掛けているのに、アディには一度も届いていないようにも思う。


 ――アディ、もう、良いんだって。


 両手を組んで、最後と言わんばかりにアディは振り落ろした。

 モンスターが爆ぜる音と共に、辺りに肉片と血が飛び散った。


 イージスが汚れの全てを防ぎ、赤一色で防壁の前が塞がった。


 静寂が、辺りを包んでいた。


 ぴちょん。

 ぴちょん。


 滴る水音が、静かに響いていた。カリスが静かにイージスを解除する。

 七階層。その白が基調の空間は、赤く染まっていた。

 上を見上げたアディが、血溜まりの中に立っていた。緑の髪は真っ赤に染まり、全身が返り血に濡れていた。


「アディ」


 静寂の中、セレーヌスが声を掛けた。

 けれど、アディは動かない。瞳の光は消えて、虚ろな顔をしていた。


「アディ!」


 もう一度、セレーヌスが声を上げれば、アディの身体がピクリと反応した。でも、それだけだ。こちらを見ようとはしない。


「アディの、バカ――!!」


 堪らずケレルは、力一杯叫んでいた。


 ――兄貴が呼んでるだろ、お前の名前を叫んでるだろ! なんで、なんで! 無視するんだよ!


 赤と白、床を二分にしたイージスの名残の境界線。

 気づけば一歩前へと、ケレルは赤い床へと足を出していた。


 ビシ。


 瞬間、何かが割れる音がした。


 「《プロテクション》!」


 ずいぶんと昔に、聞いた気がするほど望んだ声が聞こえた。こちらを見たアディが発した言葉だった。それは守りの詠唱で。


 ――アディはまた、自分を蔑ろにした。


 ケレルの目の前に展開された、それ。目の前の赤い床だけが崩れるのは――同時で。

 突き放された痛みに歯を食いしばり、こみ上げる衝動のままケレルは動く。


「ばっかやろう――っ!」


 ケレルは防壁が完成するより前に、崩落する床へ飛びこみ――アディに向けて手を伸ばした。

二部、最終話まで残り七話です

二部、不手際多くすみません!

これからもよろしくお願いいたします( ;∀;)

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