第45話 さすがにいつものノリでサブタイトルつけたら怒られるよな、俺
すみません、予約処理を忘れていました( ;∀;)
ぴちょん。
ぴちょん。
また、水音が響いている。どこかでも聞いた音。
――ここは、どこだろう?
ピクリ。何かが動いた気がして、それに反応するようにアディの身体が、瞬時に動いていた。
ドゴォォオ。
衝撃と、破壊音とが遠くで響いている。
キーンと耳に高音が鳴り響いていて、周りの音がひどく遠かった。
――俺は、なにをしているんだっけ?
汚れた拳を振り払ったことに気付いて、ああ、殴ったのかとアディは理解する。
もぞりと動く大きな何かに、さらに身体が反応して行動に移る。
容赦なくそれに、かかと落としを繰り出した。ひしゃげた何かは、元はもうなんだったのか、アディには分からない。
――とりあえず、壊せば良いのか?
その衝撃は床を割り、四方へと亀裂を生み周囲の壁にヒビが走った。
グッと再び拳に力を入れて、アディは無感動に床にへばった何かを見つめ殴りつけた。
衝撃が空気を震わせ、顔に汚れが飛び散った。アディは構わずに、反対の拳でさらに殴りつけた。
――まだ、終わりは……?
確かに自分の身体のはずなのに、酷くぼんやりしている。アディは流れに身を任せて、ただ殴って蹴ってを繰り返した。
耳栓をしているように音は遠くて、視界は壊れた画面のように赤かった。
ここはどこだろう。
何をしているのだろう。
これはいつまで続けて、壊せば良い?
俺は、なんだ。
《《私》》は、誰――?
両手を組んで、最後と言わんばかりに大きく振り落ろしていた。爆ぜる音と共に、辺りに水飛沫が舞った。
ぴちょん。
ぴちょん。
気がつけば、水溜まりの中に佇んで、手から雫が滴っていた。辺りに散らばるのは、ただ赤かい何か。形あるものは、もう無かった。
「……」
広くもない円形状の空間。見上げた景色は、天井が見えないほど高く、白く明るかった。そこで動くのは、アディ一人だけ。
――終わった……?
何が。何を?
でも、もう身体が動かない。周りに息づくものはない。
ここからが、分からない。
でも、確かに終わったのだと分かる。
――これで、もう。
ここには見覚えがあった。夢で見た景色の一つ。それは確かに、終着点のはずだった。
「――」
静寂の中、何かが聞こえた気がした。
なんだっけと、アディは一つ瞬きをして考え――なんでも良いかと切り捨てた。
空っぽの頭では、全てが通りすぎて、もうどうでも良かった。
「――!」
もう一度、何かが聞こえて、身体がピクリと反応した。
そろりと動いた瞳に、何かが映る。
真っ赤な視界は見えそうで、見えない。けれど――。
「アディの、バカ――!!」
悲痛な声となって届いたそれは、確かに《《自分》》の名前だった。
僅かに赤以外の色を認めて、何かがこちらへ一歩を踏み出したのが見えた。
ビシ。
「《プロテクション》!」
壊れる音を捉え、うなじにぞわりと悪寒が走った。アディは、気づけば叫んでいた。視界の先、彼らへ向け――迷いなく詠唱を放つ。
――失くしては、ダメなもの。
何かを守りたくて、来た気がした。
そしてそれは、アディの足元が崩れるのとほぼ同時――。
バキ。
アディの身体を支える重力が消え失せ、割れ崩れ落ちる地面の先に見えたのは、底の見えない暗い水面。
――水。
ぞわりと血の気が引いて、驚愕に目を見開いたアディは、そのままなす統べなく瓦礫と共に落ちた。
泡が視界を遮り、音の全てが濁流に飲まれた。アディはやっと全て思い出した。ここが、ダンジョンだと。
――全七階層じゃ、なかったのかよ!
さっきまでアディが居た場所は、ボス部屋のはずだった。
さらに下が出てくるなんて、思わないではないか。
「――っ」
水中で、アディは身をよじって血を吐いた。先ほどまで忘れていた五感が、今になって全身を襲った。なす術もなく、落ちていく。
――ああ、くそ。
とっさに放った魔法は発動していた。そうでなくても向こうは皆、アディよりも強いのだ。心配なんて、余計なお世話かもしれない。
――やっぱり、ほっといては……。こんなところまで、来て。
ボス部屋は崩落し、ダンジョンには彼らが来ていた。なら、アディはもう良いかと思った。
モンスターが溢れ出るのを止めたかった。ケレルの領地を、ここに生きる人々を、守りたかった。これでもう、誰一人欠けることなく続くではないか。
「……」
耳鳴りが、ひどいノイズだ。
頭が痛くて、目も開けづらい。
視界は陰っていて、水の中なのに赤く染まってる。
胸が痛くて、身体も至る所が痛い。
全身が重たくて、手足の感覚はなくて。
なんで、さっきまで忘れていたのに、今になって……。
――もう、良いよな。これで。
このまま意識を手放した方が、楽だと思う。
見えた水面は、あの日とは違って瓦礫で汚れ濁っていた。コポコポと、アディの口から気泡が漏れた。
「《《私》》は……」
バッドエンドを潰した、役目を終えた。
苦しいのは、もう終わる。
「ばっかやろう――っ!」
聞こえた声は、夢か、現か――。




