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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第45話 さすがにいつものノリでサブタイトルつけたら怒られるよな、俺

すみません、予約処理を忘れていました( ;∀;)

 ぴちょん。


 ぴちょん。


 また、水音が響いている。どこかでも聞いた音。


 ――ここは、どこだろう?


 ピクリ。何かが動いた気がして、それに反応するようにアディの身体が、瞬時に動いていた。


 ドゴォォオ。


 衝撃と、破壊音とが遠くで響いている。

 キーンと耳に高音が鳴り響いていて、周りの音がひどく遠かった。


 ――俺は、なにをしているんだっけ?


 汚れた拳を振り払ったことに気付いて、ああ、殴ったのかとアディは理解する。

 もぞりと動く大きな何かに、さらに身体が反応して行動に移る。

 容赦なくそれに、かかと落としを繰り出した。ひしゃげた何かは、元はもうなんだったのか、アディには分からない。


 ――とりあえず、壊せば良いのか?


 その衝撃は床を割り、四方へと亀裂を生み周囲の壁にヒビが走った。

 グッと再び拳に力を入れて、アディは無感動に床にへばった何かを見つめ殴りつけた。

 衝撃が空気を震わせ、顔に汚れが飛び散った。アディは構わずに、反対の拳でさらに殴りつけた。


 ――まだ、終わりは……?


 確かに自分の身体のはずなのに、酷くぼんやりしている。アディは流れに身を任せて、ただ殴って蹴ってを繰り返した。

 耳栓をしているように音は遠くて、視界は壊れた画面のように赤かった。


 ここはどこだろう。

 何をしているのだろう。

 これはいつまで続けて、壊せば良い?

 俺は、なんだ。

 《《私》》は、誰――?


 両手を組んで、最後と言わんばかりに大きく振り落ろしていた。爆ぜる音と共に、辺りに水飛沫が舞った。


 ぴちょん。

 ぴちょん。


 気がつけば、水溜まりの中に佇んで、手から雫が滴っていた。辺りに散らばるのは、ただ赤かい何か。形あるものは、もう無かった。


「……」


 広くもない円形状の空間。見上げた景色は、天井が見えないほど高く、白く明るかった。そこで動くのは、アディ一人だけ。


 ――終わった……?


 何が。何を?

 でも、もう身体が動かない。周りに息づくものはない。

 ここからが、分からない。

 でも、確かに終わったのだと分かる。


 ――これで、もう。


 ここには見覚えがあった。夢で見た景色の一つ。それは確かに、終着点のはずだった。


「――」


 静寂の中、何かが聞こえた気がした。

 なんだっけと、アディは一つ瞬きをして考え――なんでも良いかと切り捨てた。

 空っぽの頭では、全てが通りすぎて、もうどうでも良かった。


「――!」


 もう一度、何かが聞こえて、身体がピクリと反応した。

 そろりと動いた瞳に、何かが映る。

 真っ赤な視界は見えそうで、見えない。けれど――。


「アディの、バカ――!!」


 悲痛な声となって届いたそれは、確かに《《自分》》の名前だった。

 僅かに赤以外の色を認めて、何かがこちらへ一歩を踏み出したのが見えた。


 ビシ。


 「《プロテクション》!」


 壊れる音を捉え、うなじにぞわりと悪寒が走った。アディは、気づけば叫んでいた。視界の先、彼らへ向け――迷いなく詠唱を放つ。


 ――失くしては、ダメなもの。


 何かを守りたくて、来た気がした。

 そしてそれは、アディの足元が崩れるのとほぼ同時――。


 バキ。


 アディの身体を支える重力が消え失せ、割れ崩れ落ちる地面の先に見えたのは、底の見えない暗い水面。


 ――水。


 ぞわりと血の気が引いて、驚愕に目を見開いたアディは、そのままなす統べなく瓦礫と共に落ちた。

 泡が視界を遮り、音の全てが濁流に飲まれた。アディはやっと全て思い出した。ここが、ダンジョンだと。


 ――全七階層じゃ、なかったのかよ!


 さっきまでアディが居た場所は、ボス部屋のはずだった。

 さらに下が出てくるなんて、思わないではないか。


「――っ」


 水中で、アディは身をよじって血を吐いた。先ほどまで忘れていた五感が、今になって全身を襲った。なす術もなく、落ちていく。


 ――ああ、くそ。


 とっさに放った魔法は発動していた。そうでなくても向こうは皆、アディよりも強いのだ。心配なんて、余計なお世話かもしれない。


 ――やっぱり、ほっといては……。こんなところまで、来て。


 ボス部屋は崩落し、ダンジョンには彼らが来ていた。なら、アディはもう良いかと思った。

 モンスターが溢れ出るのを止めたかった。ケレルの領地を、ここに生きる人々を、守りたかった。これでもう、誰一人欠けることなく続くではないか。


「……」


 耳鳴りが、ひどいノイズだ。

 頭が痛くて、目も開けづらい。

 視界は陰っていて、水の中なのに赤く染まってる。

 胸が痛くて、身体も至る所が痛い。

 全身が重たくて、手足の感覚はなくて。

 なんで、さっきまで忘れていたのに、今になって……。


 ――もう、良いよな。これで。


 このまま意識を手放した方が、楽だと思う。

 見えた水面は、あの日とは違って瓦礫で汚れ濁っていた。コポコポと、アディの口から気泡が漏れた。


「《《私》》は……」


 バッドエンドを潰した、役目を終えた。

 苦しいのは、もう終わる。

 

「ばっかやろう――っ!」


 聞こえた声は、夢か、現か――。

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