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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第44話 寒さで寝たら危ないって、冷凍庫の中やべぇじゃん?

「……っ!」


 吸った息が、冷たく胸の内を刺した。空気中に氷の粒が舞っていて辺り一面、白く見える。

 目の前に広がった六階層は、氷雪地帯か。

 吐いた息が白くて、それをケレルが眺めたら、ぼうっと視界が歪み狭まった。


 ――眠、い。


 ふらりと、もつれた足。ケレルは後ろから脇に腕を通され、セレーヌスに支えられた。


「《フリーズ・イミュニティ》」


「《サイクロン》」


 白い世界で、クストス兄弟の詠唱が凛と響いた。

 ロブルの上級風魔法が氷の粒を巻き上げて、視界が晴れる。


 改めて辺りを見れば、大きな蛙――ブフォが至るところで氷像のように凍りついていた。


「凍傷になってるよ」


「――うわ!」


  そこへ、スッとカリスがポーションをケレルに手渡した。声を掛けられ、霞がかった意識がハッとする。

 言われて見れば、ケレルの手は赤を通り越し、かなり色が悪くなっていた。

 感覚すらも奪われていたことに、ケレルは気づかなかった。


「……これも、アディが?」


「爬虫類は凍らせよう、弟ながらに思考がシンプル過ぎないか……。これでは、生き物が生息出来ないレベルじゃないか。

 皆、耐寒効果を付与しましたけど、効き目は大丈夫ですか?」


 セレーヌスがケレルを支え、周辺にサーチを掛けながら声をかけてきた。

 もうケレルは、そこに疑問を持つことをやめていた。考えるのをやめた。


 思考を放棄しても、これが終わったら、きっと日常に戻るだけな気がする。また笑い合えたら、それでいいのだ。

 だってアディは一度も、自分で作った凡人の枠から出ようとはしていなかったから。


 ――だってアディ、寂しそうだった。


 普通なら、手を抜いたと怒るべきなのかも知れない。でも、このダンジョンでの技量は、もう圧倒的過ぎて次元が違う。

 ここまで来ると、アディの性格を見ていたら、いっそ平凡を求めることに全力を注ぐのも、なんとなく分かる気がするのだ。


「ありがとうございます。生徒会長」


「その、生徒会長はやめてくれないかな。クストスは、兄上もアディもいる。

 呼びにくいだろうから、セレーヌスでいい。ここは戦場だ、言葉も砕けていい」


 もう立てる、そうケレルがセレーヌスへと感謝を述べたら、セレーヌスが笑って言った。


「いえ、その。それは……」


「生徒会長と呼ばれるのは、嫌いなんだ。アディの前では、兄でいたいから。

 小さいアディにずっと、生徒会長と言われるのが、なかなか堪えたものでね……」


 それは、神童と呼ばれたアディとのセレーヌスの苦い思い出なんだろうか。

 憂いを帯びた微笑みは、絵のように美しいと同性ながらケレルは感じた。

 ダンジョンに来てから、彼の色んな表情を見た。


「都合が良いから、生徒会長になっただけなんだよ。立派なのは肩書きだけだ。

 やっと、セレ兄さんと呼んでくれるようになったから」


 頼りない笑い方をして、セレーヌスは再びケレルへと願った。ケレルは、それに小さく頷いた。

 目の前の人は、確かにただの弟を強く思う兄だったから。


「……善処、します」


「歩きながらでいいから、聞きたいのだけど」


 周囲の静けさに、カリスが頃合いだと言うように話を持ち出した。


「アディは、どこまで先を見えているんだ? 

 ここなら、聞いても問題ないだろう?」


「……今回のような国家を揺るがす可能性のあるものは、師団長にすでに報告済みですよ。その上で色々、便宜を図っていたので。

 逆に模造剣は、末弟からは全く聞いてませんね。

 予知は万能ではないので、本人に直接聞くのはやめてください」


 ロブルはしゃがみこんで、地面を観察しながら言った。


「聞いたらどうなると?」


「セレス、殺気をしまって。仮にもカリス、殿下なのだから」


 ロブルは地面に視線を固定したまま、セレーヌスへと声をかける。周囲を観察しているようだ。

 が、内心は穏やかでないのだろう、殿下が後付けになっていた。


「……」


 セレーヌスも、周囲を見渡していた。

 氷の地面をなぞって、ロブルは思案していた。


 ――なんだ?


「……今でさえ、置いていかれてるカリス殿下に、アディが今後、振り向くことがなくなるだけですよ。

 あとは公式見解を述べるなら、師団長曰く、自主性が欠ければ能力が消えることも過去に例があったそうです」


 立ち上がって、ロブルはそう静かに笑って言った。


「乱取りの後の血痕が途切れているな。ずっと続いていたのに。

 安全だからと、ここで時間を掛けるのは良くなさそうだ、先へ行こう」


 ロブルは、セレーヌスに次層への方角を聞いて足を進めた。その顔はずっと険しいままで。


 ――なんで、血が止まったなら良いことじゃないのか?


 その後は誰一人として口を開かない。嫌な胸騒ぎを抱きながら、そうしてケレルは目の当たりにした。

 七階層。そこで再会したアディの変わり果てた姿を――。

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