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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第42話 口調が優しげに見えて、腹黒王子は普段から傲慢だったわ

 ――生徒会長は、かっこいいな。


 そんな堂々と、思いを言えるのか。全部、投げ出してしまえるのか――大人なのに。

 子どものケレルは、迷ってしまったのに。


 学園でヴェネラティオ公爵に、ケレルは確かに啖呵を切ったはずだった。

 いざ、それを目の当たりにしたら、なにも言えなくなった。


 ――俺は。


 だって、ケレルの知ってるアディは……。

 入学式の最中にも、一緒になってこっそり喋ってた不真面目なヤツ。


 最初は、賭けを言い出したアディが負けて。

 でも、その後の賭けには余裕を見せつけ勝ってみせた、いけすかないヤツで。


 怪我を隠して剣を振り回して、休んだ後。やっと登校したと思ったら、ルナを肩に担いで教室から出ていくし。

 着替えの時には、人の身体を見ては、勝手にふて腐れていて。


 食堂で食べる時には、テーブルマナーを律儀に守ってる。

 幸せそうに食べてる姿が、すんごく子どもっぽい顔をしてて。

 それなのに、時々、すごく寂しそうな顔をしていた。


『《ディープ・スリープ》』


 そう。あの時も、暗い顔をしていた。虚ろなダークルビーの瞳が、いつもより黒く見えて……。


 ケレルの意識が朦朧とした時、アディはケレルが転けないように支えていた。


『……"私"は消えてなくなる素材だから』


 ケレルの目蓋が落ちる直前、アディは悲しそうに笑っていた。消えてなくなるなら、じゃあ、あの時の言葉は何だったんだ。


『……ケレル。掴んでくれて、ありがと』


 ――俺は。


 あの言葉を信じたい。助けたことが間違ってなかったと。

 ケレルの行いを肯定した、あのアディの言葉を――。


「……俺は、生徒会長と行きたいです。

 このまま引き返したら、俺はずっと後悔します。跡継ぎとしては、それじゃダメですよね。失格だと思います。

 だから俺の身に何かあっても、家は父がなんとかしてくれます」


 この先がどうとか、アディがどうとか、ダンジョンがどうとか。

 だって散々出発前に、皆が話し合って策を講じていた。あの時、誰もアディを助けないなんて言ってなかった。


「俺は、この先に、友達が死のうとしてて、バカやってるなら、止めたいです。アディは強いんですよね?

 だったらこんなことしないで、最初から、自分が助かる方法をとれるはずじゃ、ないですか。

 一人で飛び出して……こんなの、おかしい。間違ってる。

 生徒会長、俺も連れていって下さい。お願いします」


 分からない。分かりたくもない。だからもう、ケレルは頭を下げて懇願した。

 溺れたアディを見て怖かった。水を吐いて息をして、無事だと分かっても怖かった。

 ここで戻ったら、ケレルの胸はずっと苦しいままだ。


 領地で、葬儀をしたことがないわけじゃない。見送った騎士も何人もいる。

 その日笑ってた知り合いが、突然居なくなる、それは悲しいことだ。

 そんな日はいつだって、父が頼りなく見えた。


 ――きっとそうやって、人は乗り越えて行くんだろう。


 でもケレルは今、学生だ。

 家名を名乗らずに付き合っていたあの時間、あの気持ち、今はそれだけでいい。あれを嘘になんてしたくない。


「足手まといかもしれません。それでも、お願いします」


 誰も、口を開いてくれなかった。ずっとただ付いてきただけの子どもだ。足手まといだし、何を馬鹿なと思うだろう。

 それでもケレルはずっと、頭を下げたまま待ち続けた。


 そして、何かに亀裂が入る音がして、静寂が終わりを告げた。


「《イージス》」


 イージスを重ね掛けし、カリスがニヤリと口角を上げ不敵に笑った。


「……さて、全員が行く方向で固まったなら、なんとかなるだろう。

 まぁ、勢い余って、死にに行かれるのは困るのだけどね」


「……カリ、ス?」


「何があるか先が分からないのなら、何があっても全員が助かるべく全力を尽くせばいい。この面子なら、なんとかなると思わないかい?」


 ケレルはちょっと、いや、本気で嫌になった。カリスの人となりを今、理解したかもしれない。


 ――俺、また試された?


 でも、とセレーヌスをチラリと見る。彼は本気だった。そして、今ものすごく不機嫌そうだ。

 完璧な生徒会長の外面が剥がれ、ただの弟を想う兄がそこに居た。


「……カリス殿下」


 セレーヌスの腕を掴んだまま、唸るようにロブルが口を開いた。こちらもやはり、渋面だった。

 小隊長として、譲れないものがあるからだろう。


「策無しでもないだろう。この中で、魔力量が飛び抜けて多いと自負しているよ、私は。

 なら、皆で仲良く籠城戦をしてもいいじゃないか。合流するフィデス、ルナ、ウェルムで火力が足りないなら、後発部隊が来るまで、持ちこたえればいいだけの話だ。私には、それが出来る。

 すでにモンスターの進行は、ほぼ抑えたと言えるのだから、焦って帰る必要もない」


 何を迷うことがあるのだと、言わんばかりにカリスは言いきった。


 ――いや、帰らないとダメだろう。こぞって生死不明には出来ないメンツだ、どうみても。


 そう突っ込みを入れて、ケレルは冷静さを取り戻したことに気がついた。胸の奥、ずっと重くて苦しかった痛みが和らいで、息が吸えた。


「感情が乱れた者から、統率を外れ脱落する。ならば乱れたら、正せばいいんだよ。

 言ったじゃないか、君が兄として動けるようにと、私は何も諦めるつもりはないと。

 アディを連れて帰る――最初から、ただそれだけなんだ。この程度、撤退する理由にはならないさ」


 カリスはロブルを、次に奥へと続く通路に視線を向けて、目を細める。


 ――ああそうだ、カリスは王族だったな。


 場違いなことに、ケレルはそんなことを思い出していた。

 アディが部屋から出てこないと言って、彼は悪びれもせず、部屋を破壊する作戦を考えるようなヤツだった。

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