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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第39話 四階層で手分けすることを選び、こじ開ける

 皆のまとう空気が、さらに硬質なものへと変わった。ピリピリとした緊張感が漂っている。


 ――殺気だな、もはや。


 三階層では今までになかった、入口で交戦の跡があった。

 四階層のここでは、普通に動くモンスターが出てきた。それでもアディは居なかった。


「フィデス、この階層。任せて良いかな」


 皆の気が急いている、そうケレルが確信したのは、カリスの一言だった。


「ああ。ラケルタと……あと動いてるやつ、殲滅で良いんだよな?」


 フィデスは、ねずみ色のトカゲもどき――ラケルタに向かっていった。

 刀身の紅い剣を一線、ラケルタを軽々と両断して汚れを払っている。


「そう。不安の芽は摘みたいからね。

 その後はそう……ルナとウェルムと合流して。クストス兄弟、それで良いかい?」


「仰せのままにしましょう。カリス殿下」


 カリスはフィデスに指示した後、クストス兄弟へと事後承諾を振った。ロブルがそれに返事をする。


「アルドール公爵令息、飛んでるトルポルには気をつけて。麻痺の鱗粉を吸わないように」


 また一頭ラケルタを仕留めたフィデスに、セレーヌスが忠告をした。上空を飛ぶ蝶――トルポルへと雷撃を放って落としている。


「なぁ、いくらなんでもフィデス一人は……。俺も残った方がいいんじゃ?」


「これくらいなら、フィデス一人で十分だよ。ケレルは、ヴェネラティオ公爵に言われただろう?」


 何か出来ることを、そう思ってケレルは思いきって口を開いた。

 けれど、それに答えてくれたのはカリスだった。


「え?」


「もしかしたら、君の言葉しか届かないかも知れないからね」


 カリスにまっすぐと見つめられて、ケレルは戸惑った。それは、どういう意味だろうか。


 そして目の前、ラケルタをまた切ったフィデスはそれを踏み台に跳躍すると、剣に炎をまとわせ、トルポルを焼ききった。

 フィデスが地面に降り立つと、ゴウッと炭と化したトルポルが落ちていた。


 ――え、フィデス、つよ。


 火の粉をまとい煌々とした赤い剣を片手に息もきらさず、フィデスは次々にモンスターへと向かっていく。


「カリス殿下、アルドール公爵令息が引き付けている間に急ぎましょう」


「ああ、トルポルに囲まれるのは得策ではないね」


 そう言って駆け出した二人に、ケレルは慌てて後を追う。

 ラケルタとトルポルが、ケレルたちに気づいて集まり、数を増やしてきていたからだ。


 その後ろ、セレーヌスは走りながらトルポルを狙い撃ちしていた。

 可能な限り、フィデスの援護をしていくようだった。


「この先に、アディがいるんだよな?」


「先には居るだろう。ただ、無茶をもうかなりしてるだろうさ」


 ケレルの一人言に、カリスが相づちを打ってくれた。


「無茶?」


「アディは魔力量が多くないんだよ。単調な戦法だったのは、集中力と効率化の結果だろう。

 さっきのモンスターは毒に耐性がある種だ。それ以外は、他の階層と違って一部位が爆ぜていた。

 つまり、戦法を変えざるを得ない状況になっている」


 ――多くないって、一階層から三階層までモンスターはほぼ無力化されていたのに?


 走りながら、カリスの言葉をケレルは噛み砕く。

 さっきのモンスターは毒が効かないから、魔法の威力が落ちてただ動いていただけというのか。


 ダンジョンのモンスターが溢れるのを阻止するためには、内部を一掃して沈静化を図るのも有効だ。

 それが大変だから、日頃から定期的に狩るのだとケレルは父から聞いていた。


「モンスターによって、戦法を変えるなんてよくあることじゃないのか?」


 疑問は当然のように出た。だってそれは、常識だろうと思いたかったから。

 アディがやったとされる戦法は、迅速かつ的確で、ダンジョンを熟知した所業だった。


「普通はね。でも、魔法の乱発が出来ないアディは、同時発動でそれをカバーしていた。

 この先に、エグい選択肢を選ぶ可能性はある。

 ほら窮地に陥ると、人もモンスターも辿る行動は同じだよ」


「《サイクロン》!」


 カリスと並走するように走っていたケレルの前方で、ロブルが苛立ちを込めて魔法を放つ声が聞こえた。

 下へと続く通路から、土煙が立ち上っている。


「ほらね」


 ケレルが辿り着いた先には、通路が閉ざされていた。


「え? 道が塞がって?」


 ――今、クストス小隊長が上級魔法を放ってたよな?


 砂埃が収まったその壁は、傷がついていなかった。


「……カリス殿下、破壊しますので、万が一の防御はお任せしますよ」


 ロブルが前を見据え、その深緑の瞳に明らかな険を滲ませた。

 右手の人差し指と中指だけを、前につき出し構えている。


「ああ、加減したら壊せないのだろう?」


「むしろ、殿下のご意見も聞きたいところですね。上級で壊せない壁を、楽に壊せる方法が無いものか」


「アディのイージスではないだけ、まだ壊す余地は十分にあるよ?」


 カリスが含みを持たせて笑えば、ロブルが軽く目を見張った。そのまま、壁を忌々しげに睨み付けている。


「……これで手心を加えているつもりとは、兄を買いかぶるのはやめてほしいな」


「兄上、合わせます《ガードブレイク》」


 追いついたセレーヌスが、壁に向けて魔法を発動する。


「《アブソリュートテンペスト・ピアッシング》」


 ケレルの目の前で、ロブルの速すぎる一撃が放たれた。

 その轟音と衝撃に、ケレルは思わず目を瞑った。


「――っ」


 皆の口振りでは、アディがわざと道を塞いだみたいだ。


 ――それは何のために?


 ダンジョンの入口には、光る蝶がいた。

 ここには強固な壁。ケレルは、胸に渦巻く不安が大きくなるのを感じた。

 攻略の仕方は間違えてなんてなかった、それがアディではなかったらの話なんて。

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