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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第37話 積み重なる疑問が描くのは、俺じゃない誰か

 セレーヌスの案内で、一階層から降りる入口を見つけた。その入口で、ロブルが一瞬立ち止まった。


「ロブル、どうかしたかい?」


「いえ、なんでもないです」


 カリスが声をかけると、すぐに下へと降りていく。ケレルが足を進めて、その理由に気がついた。

 苔むした階段の一番上、足跡のような大きさで苔が削り取れ、下の石が剥き出しになっているところがあった。

 皆が歩いたところは、踏んで質感が変わっても、苔は残っている。


「あー、落ちたね。これは」


 セレーヌスがポツリと言った。ケレルが振り返ると、足跡のある近くの壁についた、僅かな血痕に触れて彼は痛ましそうに見ている。


 二階層、迷路のように石造りの壁と道が続いてた。

 道の至るところに、一階層と同様に地面に倒れているモンスター。毒にやられているのだろう、ビクビクとその多くが痙攣していた。


 先頭を行くロブルが、邪魔だからか、安全のためか、進行上のモンスターを無言で焼き払って歩いていた。骨も残さず焼きつくし、焦げた臭いだけが辺りに立ち込める。


「……同時発動の持論を、聞いたことがあるのだけど」


 その沈黙を、おもむろにカリスが破った。いつ、誰からとは言わなかった。


「これは何回でしたと、クストス兄弟は思うかな?」


 ――は? 一体、一体じゃなくて?


 聞き間違えかと、それにケレルは疑問を抱いた。

 目にする全てのモンスターが、一撃で床に転がされていたからだ。


 ――こんなのが、範囲攻撃で出来るはずないだろ。 


 飛行タイプは羽を、地面を行くタイプには足の関節を狙った無駄のない一撃。

 その傷の周囲が明らかに変色し、そこから毒を受けたと一目で分かる。


「……以前に、守秘だと抗議をしたと思いますが。あ、兄上、そこの角右に曲がってください」


 《サーチ》を展開したまま後ろを歩くセレーヌスが、そう口を開いた。その声は固い。


「誰が、とは聞いていないよ。魔法制御に長けた君たちに、後輩として意見を聞いただけだから」


 前を歩くカリスの顔は、ケレルには見えない。ただ探るような、場にそぐわない軽い口調だった。


「何回も詠唱していたら、きっと今頃、合流しているでしょうね。カリス殿下、それが返答で良いですか?」


 ロブルが放つ炎は青く、モンスターだけを一瞬で消し炭にしていた。


「今さら何を知ったとしても、私は距離をとったりしないよ。隠せてないだろう、あれは」


「……それでも、殿下の場合、近すぎることが問題ですよ」


「言ってくれるね。利用しようなどと考えていないのだから、もう少し信用をしてほしいよ」


「信用はしていますよ。だから寮の部屋も剣も、特に私が介入した覚えはありませんからね」


 カリスとセレーヌス、ケレルを挟んで、剣呑な雰囲気を出している。いや、セレーヌスが一人、ひりついた空気というか……。


 ――間に挟まないでくれ、居心地が悪い。


 入学式で見た、答辞を読んでいた穏やかな雰囲気が皆無のセレーヌスだった。

 涼しい受け答えをするカリスが、火に油を注いでいるようにしかケレルには見えない。


「幾ら外堀を埋めようと、響かなければ何かの拍子に縮まらない距離が出来るだけですよ。カリス殿下。

 セレーヌスもやり過ぎて嫌われる前に止めなさい。だから揉めたんだろう?」


 二人のやり取りに、ロブルがその話題はお終いだと告げた。


「……」


 胸がぎゅっと苦しい。皆は、誰の話をしているのだろうか、ケレルは知りたくない気持ちだけが、静かに積もっていく。


 生きていても、死を待つだけの動けないモンスター。

 通る道だけを綺麗に燃やすロブルに、最短を指示するセレーヌス。

 その後ろを、表情を変えずに進むカリスと一言も発することがないフィデス。

 淡々と通りすぎた二階層。三階層目の入口が見えて、ケレルは目をすぼめた。

 この先にもまた、今まで見たような世界が広がっているのか。


 ――なぁ、アディ。お前はどんな気持ちでここに来たんだ。


 いや、この先に本当にアディがいるのだろうか。

 ケレルの知っているアディなら、ダンジョンを攻略するためとはいえ、一人で無慈悲な殲滅を試みるやつでは、なかったはずで。


『これから対人戦を学ぶと、お前は伸びるぜ』


 人をからかってきたり、食堂のデザートを賭け事にしたり、するようなやつで。

 実技考査でフィデスとやり合った後、自責で塞ぎ込むようなやつで。


 ――この先にいるのは、いったい誰なんだ。

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