表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/102

第35話 馬に乗るのはいい、慣れてないと足腰がヤバイだけだから

 強行軍とも言える二日間の疾走を経て、辿り着いたのはウォレンティア領にある森だった。


「森に入る前に、少し、休みましょうか」


「ルナ、ケレル、無事か?」


 最後尾のウェルムが、ケレルにそう声をかけてきた。

 前を行くフィデスも馬から降りて、ケレルとルナに声をかけた。


「……あ、うん……ちょ、と……」


 声にならない声を出して、ケレルは二人へ返事をしようとする。息を吸おうと、肺を膨らませることが出来なかった。


 落ちない意地はあったけれど、まさか、馬から降りれなくなるとは思わなかった。

 馬はすでに止まっているのに、視界はぐるぐると回り、足腰の感覚が失せている。まさに満身創痍だった。


「あ、無理に喋らなくて良いぞ。あと、吐くなら吐いた方が楽だからな?」


 フィデスが、ケレルへと声をかけながら降りるのを手伝ってくれた。

 ケレルは近くの木に寄りかかって息をついた。フィデスはそのまま馬を牽引して、それぞれ木に繋いでいる。


「ルナもケレルも、初めてで頑張りましたね。誇っていいことですよ。これも、貴重な経験です」


 仰向けにぐったりとしたルナを介抱して、ウェルムは微笑みながら気遣ってくれる。

 素直に褒められてると受け取れない、ケレルは、それはもう化け物でも見るように目の前の光景を眺めていた。


 ――なんで、皆は平気なんだよ……。


 視界の端では、先頭を走っていたカリス、クストス兄弟が、すでになにやら話し込んでいるではないか。


「この辺りなんだよね、ロブル?」


「詳細はやはり難しいですか、兄上」


「根掘り葉掘りは難しかったですね。詳細な地図がまず手元に無かったし、書かせたら幼児だから筆圧が……。

 まぁ、薄暗い森らしいから、奥地でしょう」


 ロブルは手記を片手に、森を見つめている。それにならって二人も森へと視線を向けていた。


「薄暗い?」


「……暗、い?」


「……あー。末弟だね」


 三人が三人とも、森を凝視して何かを言っている。

 ケレルは、それをどこか遠くに聞いていた。

 吐いたら楽だと言われても、吐くのは何かに負けた気がして、ケレルには無理だった。


「飲めそうなら、ここ置いておきますね」


「……」


 ウェルムが、ケレルにポーションを置いてルナの方へと戻っていく。

 じっと見つめて覚悟を決めると蓋を開け、ケレルはポーションをグビッと一気に飲み干した。


「……ウェルムたちは、すごいな」


 胃の不快感と節々の痛み、疲れが和らいで、ケレルはようやく言葉を発した。


「慣れですね。ああ見えて、カリスはお忍びが多いんですよ。

 権力がありフットワークが軽いっていうのは、表立ってストレス発散も出来ませんし、今回みたいな時には大変都合が良いので」


「へぇー……」


 立太子はまだとはいえ、一国の王子と公爵家の令息たちがひょいひょい出掛ける。

 それはなんと言うか、ケレルたちとは勝手が違うだろうにと遠い目になった。


「ケレル、フィデス、来れるならこっちに」


 カリスに呼ばれ、ケレルは立ち上がった。

 もう、ふらつくこともなく問題なく動けそうだ。


「ケレル。ウォレンティア領には、ああいうのが居るのかい?」


「え?」


 カリスに問われて、森の奥を見ると何かがキラキラと光って見える。

 光の反射か何かだと思えば、そうではなさそうだ。


 ――動いてる?


「見たことないな。なんだ、あれ?」


 ケレルは、素直に知らないと答えるしか出来なかった。


「フィデス。あの光るのを確認だけしたら、戻ってきて」


 カリスが頼むと、フィデスはそのまま森の中へと走っていった。


「兄上はあれ、なんだと思います?」


「一般的な解答を期待しないでくれ。末弟が作ったんだろう。どう見ても」


「私は、アディに問いたいことが増える一方で困るね」


 セレーヌスが信じたくないと疑いの眼差しを向け、ロブルは半ば現実逃避している。

 カリスに至っては、ため息をついていた。


 ――どういう意味だ? なんでアディ?


 ケレルは、その決めつけた言い方が理解できずに戸惑った。


「カリスー。これ面白いぞ!」


 そこに、にこにこと笑ったフィデスが戻ってきた。両手を閉じていて、中に何かが入っているらしい。


「危険はないから、開けていいか?」


「……見てくるだけと伝えたのに。まぁフィデスの直感と、おそらくアディが、意図して作ったものだからね。良いよ」


 カリスが開けてと指示すると、フィデスが手を広げた。

 ふわふわと光る蝶が舞い上がると、ゆらゆらと森の奥へと戻っていった。


「……迷うことなくダンジョンが見つかりそうで良かったと、とりあえずは思っておこうか」


 一瞬の静寂が訪れて、それを破ったのはカリスの呆れた声だった。


「カリス、それはどういう意味だ?」


 意図が分からずにケレルが聞くと、カリスはクストス兄弟をチラリと見た。

 二人も同意見なのだろう、苦い顔で頷いていた。


「ダンジョンが見つかるように、あれを放ったんだろうってことだよ。アディに何かあっても見つけられるようにね」


 カリスが優しく説明してくれた。そこに僅かな苛立ちが滲んでいた。


 ――何かって、アディは何を……。


 アディ自らがダンジョンを誰かに知らせることをせずに、見つけられるように蝶を置いて姿がないこと。

 ケレルは、その先の理由に気づいて口をつぐんだ。


「ルナとウェルムは置いて先を急ごう。アディはやはり、帰るつもりがないらしい」


 カリスが皆の気持ちを代弁するかのように、そう指揮を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ