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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第33話 ダンジョンのソロへと挑むけどさ、かっこつかねぇよ

 一階層。青空と草原が広がっていた。奥の方には森も見える。

 そういえば、実際にダンジョンに入るのは初めてだったなとアディは思う。


「ありきたりな設定だけど、空があるのは実際、違和感だなぁ。祠、通ってきたのにどうなってるの」


 本来は、ケレルとヒロインが夏休みに来る攻略イベント。

 のどかそうな景色はまさしく、デートスポットではないか。知識を呼び起こす中で、夢で流し見た二人の攻略風景を思い出した。


 ――あー。楽しそうに攻略しやがって。


 異世界転生で、舞台は乙女ゲーム。憧れたはずのダンジョンで、聖地巡礼と呼んではしゃぐには、今のアディには軽すぎた。

 実際、そこかしこにモンスターが見えていた。その量が平時なのか異常なのか、今世の知識がないアディには、比較出来ないのが残念だ。


「《ペルセプティオ・アブソルータ》」


 地面に両膝、両手をつけて、アディは目を閉じた。展開するのはサーチより精度の高い、一階層全てを把握する術式だ。


 空の広さ、雲の形、飛ぶモンスター。

 緑の地平線、木々の葉の形、流れる川の煌めきと、そこかしこにいるモンスター。

 小石の数から、根っこの形、地中に潜る微生物まで脳内に映像として流れていく。

 ツッと、アディの鼻から血が滴った。吹き出る汗も構わずに、アディは膨大な情報量へ意識を集中する。


 ――ゲーマーのマッピング根性、舐めんなよ。


 地図さえないエリア、クローゼットやトイレに至るまで調べ尽くして、アイテムを回収するのだ。

 マス一つ抜けただけで、地図がある場合は達成率百パーセントを記録できず、延々と探す羽目にもなる。

 九十九パーセントから先の、コンマの領域へ何時間も費やす執念には自信がある。


「《コロージョンアロー・ホーミング》」


 目を閉じたまま、アディはさらに詠唱した。索敵した全モンスターへ向けて、毒の矢を形成し一斉放射する。

 外すことがないよう動く敵は、追尾効果で貫いた。


 アディはなにも、バカ正直に攻略しに来たのではない。モンスターに遭遇したら倒すなどと、丁寧かつ非効率なことはしない。


 全階層の敵を仕留めずとも、行動不能にすればいい。

 アディが来た目的は、ダンジョンからモンスターを溢れさせないことなのだから。


「はー。地味」


 全モンスターに被弾を確認して、アディは目を開けて鼻血を拭う。

 ふらつく足を叱咤して、ゆっくりと起き上がった。


 すぐ目の前に、数体のモンスターが倒れ、痙攣を起こしている。アディという目の前の敵を、仕留めに来たモンスターだ。

 アディは見えていて、避けなかった。動いてしまえば術式が解けて、やり直しだから。


 一度の詠唱で、複数の同時展開。どれだけ数を出そうとも、同時なら魔力消費量は一回分で済む。

 そのバグを使わないと、魔力量がないアディに、ダンジョンソロは不可能だ。


 ――これがあるから、俺は一人でも戦える。


 アディは伸びをして体をほぐし、迷わずに歩き出す。下への階層も、先ほどの索敵で見えていた。


「あーあ。景色は良かったのに、死屍累々。やっぱ、溢れてもおかしくなかった?」


 バッタバッタと爽快に攻略していた、ゲーマー時代が懐かしい。

 一階層で満身創痍なアディは、飽きれとともに息を吐く。

 ぐち、ぐちと避けることなく血溜まりとモンスターの間を歩いた。


 頭も痛いし、動悸もする。汗だくで服は気持ち悪いし、手は痺れてる。足に力が入りづらくて、歩きにくい。


「あ、あった。あった」


 口先だけでも明るく、そう努めた。二階層への入口を見つけ、アディは階段へと足を伸ばし――落ちた。


「……」


 踏み外した階段。下まで綺麗に落ちて、お尻が痛い。無様すぎて、アディは無言で呆れてしまう。

 ごろんと階段に寝転がる。アディは顔を手で隠して、ちょっとだけ自己嫌悪に浸った。


 ――独りで、良かった。


 夜通し空を飛び、ダンジョンのある森まで歩き、少しだけ仮眠を取っていた。

 と言っても、念のためと木の上で初の仮眠を取れば、熟睡とはいかない。身体を休めて魔力回復をしただけ。


 ――俺にしては頑張ってる。誰も見てない、バレない、大丈夫。


 漫画やアニメで木の上で平然と寝てた奴らは等しく、やはり普通ではないのだと感心する。


『お前……、第一声がそれ、かよ! 家からのだよ、バカ!』 


 ――そういや、ケレル。事あるごとにバカ呼ばわりしてくるな、最近。


 叱咤してくる声を、不意に思い出した。寝起きの人間に容赦ないなと、アディは今さらに思う。


『追試の結果、君の成績は学年三位のまま。授業も成績も気にしなくていい。

 ……よって、アディが今出来るのは、寝ることだけだよ』


 ――そういや、なんでまた三位なんだよ。おかしくないか。白紙で、追試したんだぞ!


 絶対にまた、カリスやウェルムが余計なことをしていそうだと、アディは思った。


『いい夢見てね!』


 ――ルナの成長ぷりが怖い。


 絵の具の発言と言い、世話焼き以上の属性がついていってる気がする。

 単独行動するために、それが最良だと思って術式を掛けた。

 スリープを選んだのは、今にして思えば、アディも根に持ってたのかもしれない。


『けれどアディ。ルナをつけていたのですから、次からは一人で飛び出さないでくださいね。

 一人で手に余ることも、あるかもしれません。有事の単独行動は控えていただけると、こちらは助かりますね』


 ――学園の中の話。学園の中の、今は外だから別。そう別だ。


 ちょっと前の、ウェルムの言を思い出した。帰れたら、とは思っているけれど……。

 なんだろう、帰りたくなくなってきたとアディは素直に思った。


 パチッと目を開けて、アディは階段から起き上がる。

 呼吸は落ち着き、動悸も収まった。


「よっし、行くか」


 二階層、迷路のように石造りの壁と道が続いてる。

 その様変わりした造りに引けを取ることなく、アディは一階層と同様に、二階層も無力化をしてみせた。

 三階層、ダンジョン側の三度目の正直とは言わないが、モンスターの趣向が変わり無双の終わりが訪れた――。

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