第30話 大人ってなに考えてるか、マジ分からんよな
3月29日公開~3月30日22時まで、
29話の内容が→30話表記(29話が未公開のまま飛ぶ)事態になっておりました。
現在は修正済みで、29話に29話が、30話に30話が、表示されています。
混乱を招いてしまい、すみませんでした。以後、気をつけます。
「そうそう。この間の考査見に行ったけど、想像以上に成長してて驚いたなぁ。
枯渇お構いなしで、上級と支援も使っちゃってさ。アレ、怒らせたの対戦相手のアルドールの息子でしょ?
怖いもの知らずだよねぇ。僕でも勝てるか怪しいのに」
――ヴェネラティオ魔法師団長も、初日から見に来てた?
一学期の実技考査は公開制、誰でも観れるから不思議ではない。国の重役が見に来るのは、あまり聞かない話なだけで。
ヴェネラティオ公爵の言葉が、ふとケレルは引っ掛かった。
――誰が、誰に勝てないって?
「誘拐の件、箝口令を引いた甲斐があったよね。無自覚でまっすぐで、良い感じに育ってくれた。
今回、正しく人助けにその力が向いたわけだからね。まぁ、そう仕込んだんだけどさ。
自己犠牲全振りで、未開拓のダンジョンを踏破するなら、彼の命は英雄として後に語られるよね」
「――勝手に殺すなよ!」
気づけば、公爵相手にケレルは声を張り上げていた。
なんの話をしてるのか、誰の話をしてるのか、なんの思惑があるのか、ケレルにはもう分からない。
――分からないけど。
目の前のヴェネラティオ公爵が、今アディが死んでも良いと言った。
それだけは、ケレルにもハッキリと分かった。
「ん? ああ、君はウォレンティア侯爵の息子か。勝手に殺すなっていうけど、現実を見た方がいいよぉ」
つかつかとケレルの前に来て、ヴェネラティオ公爵はその胸にとんと指を当てる。
「若いヤツは理想を語るもの、大いに結構。で、ウォレンティア領地はここから五日、六日掛かる距離だ。君はそれを、どう埋めるの?」
「アディが出たのは、さっきだから!」
アディが起きたのは夕方だった。今は夜だとしても、そこから数時間しか経ってないはずだ。
その差なら追いかければ間に合うはずで、そう思ってケレルは口にした。
「神童君は、こちらの半分の時間もかけずに、ダンジョン攻略を始めるだろうね。本当にモンスターが溢れちゃうなら、時間との戦いだからさ。
そこに君たちを待つ選択肢は、彼にはないだろう。魔力回復のための休息は、あったとしてもね」
「……え?」
ケレルを覗き込むように、ヴェネラティオ公爵は愉快そうに目を弧にし笑って続けた。
「三歳の時点でも魔法行使は、そこらの学生じゃ、足元にも及ばないんだよ。
あの魔眼の能力が未知数だけど。常識に当てはめない方がいいよねぇ。
一人で行ったのなら、彼はそれが最速だと導きだした、ということだ」
並べられる言葉は、ケレルの理解には及ばない。いくら魔法とはいえ、そんなに早く移動するなどあり得るのか。
それを扱う人間が、果たして存在するのか。
――アディは。
そこまで考えて、ふるりとケレルの身体が震えた。
春の総当たり戦で、怪我を隠した状態のアディに、ケレルは完敗した。
一学期の実技考査終了時、セレーヌスに抱えられて退場したアディは、何をどうしたのか血まみれだった。対戦相手のフィデスはボロボロで。
それは確かに、ケレルの知らない強さを持ったアディだった。
それでも――。
「アディは、俺の友達なんだ! 一年Aクラスのクラスメイト。ヒョロッとしてるけど、弄ったら面白いヤツで。思いやりもある、良いヤツなの!」
水泳授業でチーム戦の輪に入らないで、プールの隅っこで、羨ましそうに眺めていたのはアディだ。
――全然、すごいヤツなんかじゃない。
溺れた女子生徒を助けても、アディは偉ぶったりしなかった。ぶっきらぼうで、ぎこちなく引き継ぎをしてるなとケレルが横目に見れば、アディは逆に罰悪そうに縮こまってたくらいだ。
「三歳のアディが凄かろうと、魔法師団長が偉かろうと。
俺の友達は、いっつもうまそうに飯食って、そのために学園来てんじゃねえのコイツって思うくらいの。
その辺にいる男子なんだよ。だから、勝手に殺すな!」
ヴェネラティオ公爵の手を払いのけ、ケレルは彼を指差して啖呵を切る。
『……天国って、ああだといいなぁ。こう、綺麗なの』
常識はぶっ飛んでるのかもしれない、《《普通》》に疎いヤツだから。
命にも無責任過ぎてケレルが怒ったら、ちゃんと謝っていた。
『……水底が、暗くって』
――水をちゃんと、アディは怖いと思ってた。
溺れた後、目を覚ました時に話をしたんだ。アディは、確かにそう言った。
それはちゃんと弱さのある人間だった。英雄なんて、そんな大層なものじゃない。
「間に合うとか、間に合わないとか、速いとか遅いとか、そんなの知るか!
ダチが危ないなら助けに行くし、間違ってたら、バカって教えてやるんだよ!」
神童だとか自己犠牲とかそんなのは、どうでも良い。だって昔、アディが言ったんだ。
『それ、いつの話だよ』
アディを知らないケレルが、神童って聞いたら、そうやって否定していた。
『ちょっと字が好きで、飲みこみが早かっただけ。今はただの凡人だからな。期待するなよ』
だからケレルは、頼りにしないし、期待もしない。アディがそう望んだし、そうありたい。
『……ケレル。掴んでくれて、ありがと』
そういって笑ったアディは、ケレルの大事な友達なんだ。
一緒に笑って、一緒にバカをやる。そうやって隣にいるんだ。これからも。
アディが無茶をするのなら、何度でも掴んでやる。それだけだ。




