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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第27話 遅いか早いかの違いなら、そこに少しでも意味をつけたかった

 星空が綺麗な雲の上、アディは空を滑空していた。


「《エア》」


 空気の層を、足元の落下地点に展開する。詠唱と共に酸素を吸い込み、息を止める。


「《ヌルグラヴィティ・アンリーシュ》」


 エアを足場に蹴る音が小さく響き、アディは加速魔法で光の速さを手に入れる。

 速度が落ちれば、詠唱をして前進。ただそれの繰り返し。想像するのは、ジェット機か大砲か。

 夜空に障害物は無く、アディはただ目的地を目指す。


 ――明け方には着くかな。


 眼下に映るのは広大な草原。ポツポツとした辛うじて民家らしき点も時々見えた。


 ――モンスターが溢れたら、その被害は?


 全部、無くなってしまうのだろうか。緑も、家も、人も、命も。

 イベントなんて夢を見なければ、現実感など無かった。

 アディが育ったクストス領は、同盟国との間にある国境守護を担う。ダンジョンも凶悪モンスターもいない、のどかな領地なのだ。


 ――ボスを倒して、守る。


 ボスを倒せば、ダンジョンは沈静化する。

 可能なら、各階層のモンスターも無力化したい。

 さっき見た夢では、アイコンがあって複数回プレイ出来る仕様のようだった。

 そうなると、ダンジョン自体を消滅させることは不可能だろう。


『アディ』


 ――連れていけない。本来ならもっと先の隠しダンジョンだから。


 耳に残った声に、アディはギュッと目を閉じた。ゲームじゃない、間違えたら彼らが消えてしまう。


 大人を動かすのに、かかる時間は?

 陸路を行くのに、かかる時間は?

 起きるか分からないモンスターの氾濫に、一体どれだけの人が、信じてくれるのか。


 ――起こってからでは、遅いというのに。


 夜風に当てられ、冷静になって正攻法を考えなかったわけじゃない。

 けれどどれも現実的ではなくて、行き着くのはアディが一人で行けば良いという結論だった。


 アディはスタミナが壊滅的だ。一般的な攻略法を選ぶことがそもそも出来ない。

 同時発動のバグと知識チートの瞬間火力で最適を選ぶだけだ。それがどれほどの人間離れした行為だとしても。


『アディ、お前……』


 仮眠室で、ケレルは最後まで睡魔に抗って、アディの手を離さなかった。

 眠ってからも、その手は離れなかった。

 ケレルの指を一本ずつ、アディはその手から剥がした。

 泣いて眠るルナの目元を拭って、くしゃりとその頭を撫でた。二人に詫びて、一つのベッドに一緒に寝かせた。


 ダンジョンに向かうのに邪魔になるから、眼鏡も剣も置いてきた。

 人の視線から守る剣はもう、必要なかった。向かうのはモンスターしかいない地だ。


 ――もし壊したら、怒られたのかな。


 セレーヌスは笑って、また普通に眼鏡を用意しそうだ。

 カリスは……、ちょっと考えたくない。だって、距離感がいつも近い。油断したらあっという間に入り込んでくる。


 せっかく貰った好意は、アディにはやっぱり重くて眩しい。


 ルナは、アディに甘えて、可愛い。年相応さが前よりも見えて、余計な力が抜けたのが分かる。真面目で一生懸命だ。

 フィデスは、アディにまっすぐな感情を向けてくる。ただの考えなしなところもあるけど、芯が通っていて懐が広い。


 ウェルムは、一歩引いて皆のことをよく見ている。誰にでも優しそうな物腰で丁寧だ。けれど、情に深く、味方以外に容赦がない冷酷さもある。

 ケレルは、どんなアディにも屈託なく笑って付き合ってくれる。初めての友人。


 ユニタスもそう。アディを一人のクラスメイトとして扱ってくれた。


 消費されるただのキャラなのに、誰も彼もアディをほっといてくれなかった。

 アディにとって、彼らは大切だ。だから、欠けるなんて許さない。


『ま、いつものことだよ。気にしないで』


 ――失うと分かっていて、何もしないとか絶対無理。


 思い出すケレルのことが、ゲームの彼なのか、アディが接した彼なのか、もう分からない。

 ただ言えるのは、アディウートル・クストスなら、間違えても消費されるのが早まるだけ。


 ――役割から離れて、最後を選ぶくらい想定範囲内だろ?


 Aクラスには、面倒見の良い生徒が多かった。誰も、アディには冷たくなかったから。

 だから、ヒロインが来ても大丈夫。

 アディの代わりに、ヒロインのチュートリアルは誰かがしてくれる。


 ――攻略とか踏破とか、どうでもいい。


 アディが失敗しても、きっと大丈夫。時間稼ぎにはなるはずだ。

 ただそこに、消費されて消えるだけではない、己の価値を少しは見いだせる気がした。


 だって現実世界で一度死んで、乙女ゲームの世界に転生した。

 アディウートル・クストスとして生まれた、アディの意味はあったと、そんな終わりが出来たら嬉しい。


「大丈夫」


 ポツリと溢れた音は、夜空に溶けて消えていく。一度死んだ、また死ぬくらいなんだって言うんだ。

 それで彼らが生きるなら、喜んで差し出そうじゃないか。


 ――ヒロインが来たら、そんな穴は初めから無かったことになる。


 欠ける穴は、もともと無いはずのものだから。アディが何をしたって変わらないだろう。

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