表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/102

第26話 消化キャラだから、別にいいだろって思うじゃん

 焦点が合わず様子のおかしいアディに、ルナとケレルは両サイドから声をかけていた。

 けれど彼らの声は、アディの耳に届かず、代わりに聞こえていたのは別のもの。


『ウォレンティアは、しばらく休学する。未発見のダンジョンからモンスターが溢れ出し、領地に甚大な被害が発生したためだ。災害復興の援助を申し出る者は――』


 それは、ついさっき聞いたナレーションだった。


「モンスターが溢れる……?」

 

 ――ついさっきって? どこで? ゲームで? 夢で?


 ドクンとアディの心臓が跳ねた。喉が詰まって、息が苦しい。

 何かがずれて、何かが起きている気がしてならない。いつ、いつ始まるのだ、これは。


 ――イベントだ。バッドエンドの分岐点。


 どこからがゲームで、どこからが現実なのか、もう分からない。アディの目には、選択ウィンドウが見えているままだった。


「……"私"が」


 ゆらりと立ち上がろうとしたアディの左手を、グッとケレルが力強く掴んだ。


「おい、アディ。寝てろって!」


 身体強化をかけたケレルのびくともしない強い手が、アディを逃がさないと抑えている。


「……行かない、と」


 ケレルがアディと視線を合わせようと、掴んだその手を引き寄せた。

 ぐらりと身体が傾いだアディのその目には、未だ選択肢が表示されている。そこに険しい顔をしたケレルが重なった。


【ケレルと夏休みを過ごす? YES/NO】


 ――ケレルが、悲しい思いをする。


 バッドエンドが起きて領民が犠牲になれば、絶対にケレルは自責に駆られる。

 そんな思いは、させたくなかった。


 チリッと、うなじを何かが逆撫でした。害そうとする魔力の予兆を感じ、アディは即座に反応する。


「アディ! 《スリ――》」


「《サステインド・ブロック》」


 ルナが詠唱を完成させるより早く、アディはルナの喉に右の人差し指を当てて拒絶した。その手にはもう、包帯がなかった。


「――!」


 二度も同じ手は通じないよう、アディはルナの詠唱、声そのものを遮断する。


 ――ごめん、ルナ。


「おい、アディ。お前なにやって!」


 酷く狼狽したルナが首を抑え、アディを見つめている。唇が動くけれど、声になっていなかった。

 その代わりとばかりに、ケレルがアディを押し倒して叫ぶ。


 実際に目で見ているはずなのに、アディは彼らをとても遠くに感じていた。

 それは深い水の底で見た、あの輝く景色のようだ。

 

――ケレルとルナ、攻略キャラの二人。


 失くして良いものじゃない、誰一人。

 アディのその瞳から、すぅと光が消え失せた。

 見えるのは、遠い景色とメッセージウィンドウ。


「ア――」


「《ディープ・スリープ》」


 怒るケレルと涙を流すルナの二人を視界に捉え、アディは詠唱を紡ぐ。心安らかな睡眠へ誘うように。


 ――目覚めた彼らに、どうか変わらぬ日常を。


 上級生で起こるはずの未来イベント。もしそれが一年の今、ヒロイン不在のまま起きるなら、初期ステータスですらない彼らの手には負えないだろう。

 でも、瞬間火力では負けない、化け物と称されたゲーマーのアディなら。


 ――優しいケレルが、心の傷でも抱えたらどうするの?


 強化素材として消費される、アディウートル・クストスが代わりに行けばいい。


「……"私"は消えてなくなる素材だから」


 仮に死んだとしても、替えが利く素材でしかない。ゲームオーバーにすらならない。

 どうせ、二回目だ――。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「――イージスが、消えた」


「は?」


 水難事故の捜査のための会議。その帰路で、カリスは自身が構築した術式が解除されたのを察知した。

 設置型にはせず、常駐型として維持するために魔力を流し続けていた。

 その繋がりが破壊されるでもなく、今、プツリと途絶えた。


 カリスの呟きに、異を唱えたのはウェルム。それもそのはず、カリスたちは今、執務室の校舎の近くに居たからだ。

 そこに、外部からの攻撃の気配などなかった。


「アディだろうね。おそらく」


 カリスはそう確信する。理由は分からないし、手段も分からないが、出来るとするならアディしかいない。


「セレーヌス、君の弟がまた何か起こしたようだけど。どうする?」


 顔を見たら寮へと帰る、そのつもりでセレーヌスは、カリスたちと同行していた。

 後ろを歩いていたセレーヌスは、黙って口元に手を当てている。


「……殿下、確認ですが。ウォレンティア侯爵令息に家から手紙は来ていますか?

 もしくは公爵家の令息方の領地、別荘に帰省の予定は?

 Aクラスでの誰か、何か連絡などでも良いです。

 あと、夏、長期休暇と言えばなんだ……?」


 最後の方は、セレーヌスの一人言だろうブツブツと呟いている。その様は、考え事をするアディとそっくりだ。


「ケレルからは、家から手紙が届いている。あとは――」


「事案がありますので、片付くまで私共はカリスとともに。他に手紙や連絡なども、無いはずですが?」


 カリスの言に、ウェルムが補足をする。

 夏休みを前倒しにしたことで、家に連絡を入れた生徒はいる。

 けれど、家から先に手紙が届いているのはケレルだけだ。

 それを聞いてセレーヌスは、眉間に皺を寄せていた。思い当たる節がある様子だ。


「……手紙の内容はご存知でしょうか? 知っていれば、お聞かせ願いたく存じます」


「他家の内情は、守秘に関わるだろう。本人に確認しないと」


 カリスは、セレーヌスの主張を断った。アディが間にいるからであって、もともと親密な仲ではない。


「……殿下は、アディウートル・クストスが神童と呼ばれる所以を、まだご存じないのですね。それとも気づいておられない?」


 ふうと息を吐いたセレーヌスが、無詠唱で三人を包む結界を貼った。

 ウェルムが警戒するのを、カリスが片手で制した。


「どういう意味かな」


 固い表情のセレーヌスに、カリスは警戒することもなく軽く訊ねた。


「ウォレンティア領に新たなダンジョンが出現して、弟が一人で向かった可能性があります。

 魔法師団の兄上に連絡を。詳細な位置は兄上しか把握していないでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ