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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第25話 え、ウソ。始まっていないゲームが始まった?

 アディが目を開けると、そこは夢だった。パッと画面が変わり、またあの分岐イベントに戻っていた。


 ――だからなんで、夢なんだよ?


『▷「それでも心配だよ。じゃあ、旅行ってことで私と一緒に、モンスター狩りしに行こうよ。

 旅行だから、家には顔を出すくらいでいいと思うの、迷惑にはならないでしょ」

 ▷「そっか。いつものことなら、心配いらないね。じゃあ、夏休みどこかでSクラスの皆と遊びに行く?」』


 またしても画面は、自動で切り替わる。けれど次は、領地へ帰らないルートを選択していた。


 ヒロインの夏休みの様子はカットされ、二学期のモノローグが始まった。Sクラスの担任らしき男性が画面に現れた。


「ウォレンティアは、しばらく休学する。未発見のダンジョンからモンスターが溢れ出し、領地に甚大な被害が発生したためだ。災害復興の援助を申し出る者は――」


「それ、バッドエンドー!!」


 夢に向かって、アディは盛大に叫んでいた。


 ――なんだそれ、なんだそれ!


 理不尽すぎるだろう。ちょっと軽いノリで選択したら、領地が甚大な被害を被るとか。


「生きてると分かるけど、めっちゃ領民居るからね!?」


 ゲームだからといって、そうそう人の生き死に関して、軽くモノローグするんじゃない。

 優しいケレルが、心の傷でも抱えたらどうするんだ。

 ヒロインの恋愛分岐ルートにしても、もっと違う退場の仕方はなかったのか。


「ああ、そうだよな。物語と言えば当て馬の悪役令嬢だって処刑されたり、追放されたりするんだもんな。なんつう残酷な扱い!」


 ――しかも俺は、なんでそれを急に思い出してんの! ヒロインまだですけど!?


 そこまで騒いで、アディはふと疑問が沸いてきた。

 ケレルの分岐イベントに、バッドエンドが存在するのなら……。

 チュートリアルのサポート役、その後は初期強化として消費されるアディウートル・クストスというキャラの末路はどうなのだ。


「死ぬことも、ある?」


 ずっとフェードアウトするだけで、空気のように過ごせると思っていた。

 もしもそんなに甘くないとすれば、現実世界のここで本当にただのモブで済むのか。悲惨とまでは行かずとも、いつか――。




◇◆◇◆◇◆◇




「――っ!」


 ハッとしてアディが目を開けたら、夕焼けの光が僅かに窓から射し込んでいた。まもなく日が暮れるのだろう。


「俺は、……俺は?」


 ドクドクと心臓が嫌な音を立てている。吹き出た汗は、髪に張りついて気持ちが悪い。


「――っ!」


 頭に走った衝撃を、アディは両手で抱えて堪え、横たわったベッドで丸くなる。

 目を閉じれば、音声とともに鮮明な映像が脳裏に駆け抜けていった。


『いや、俺は初めてなんて言ってないだろ。領地の湖で泳いでるよ』


『……なに、してんだよ、バカ』


『お前……、第一声がそれ、かよ! 家からのだよ、バカ!』


『アディ、俺はお前が怖いよ』


『ダメだよ。アディが起きた時、いつも通りの姿を見せた方がいいからね。しっかり休むべきだ。それに、家からの手紙の返事も書くのだろう?』


『俺も。領地から今はモンスター狩りで忙しいから帰ってくるなって、手紙が届いて。夏休みどうしようかなってさ』


『いいの、いいの。俺が帰ると、それなりに人手を割くだろー?

 それも惜しいんだと思う。モンスターは夏から秋が、一番狩るからなぁ。ま、いつものことだよ。気にしないで』


 激しい頭痛とともに、アディの脳裏を駆け巡るのは現実と夢がごちゃごちゃに混ざった、たくさんの記憶だった。

 聞いたものもあれば、アディが覚えていないものも含めて、だ。


「ぐぅっ」


 ――痛い。痛い!


 情報が多すぎて、頭がパンクしそうだ。音声と映像が、目の前の現実まで侵食してくる。込み上げてくる吐き気を、口に手を当ててなんとかやり過ごした。


「アディ。どうしたの!」


「おい! アディ」


 近くにいたルナとケレルが、呻くアディに気づいて声をかけた。

 苦痛に歪んだアディの視界に、心配そうな顔をするケレルが見えた。痛みで涙が流れ、その姿がぼやけていた。


【▷「それでも心配だよ。じゃあ、旅行ってことで私と一緒に、モンスター狩りしに行こうよ。

 旅行だから、家には顔を出すくらいでいいと思うの、迷惑にはならないでしょ」

 ▷「そっか。いつものことなら、心配いらないね。じゃあ、夏休みどこかでSクラスの皆と遊びに行く?」】


 ゲーム画面のように、メッセージウィンドウが、その視界に重なって見えた。

 アディの見開いた瞳に、夢と現実が混在して映し出されていた。


「……選、択肢。手紙、家、帰省」


 頭を押さえて、アディはむくりと起き上がった。無意識に、アディはブツブツと呟く。


 ――どこまでが夢で、どこまでが本当?


 今はいつで、ここはどこだろうか。ふと魔力を感知した。カリスの防御魔法が、部屋全体に展開されている。


『まだ、熱が高そうだね。色々とあったから夏休みは前倒しで始まっただけだ』


 カリスの声が聞こえた――そう、夏休みだ。

 アディの中で、不安が膨れ上がる。嫌な胸騒ぎがする。確信はない、ただの直感だ、ユニタスの時と同じ。


 ――ああ、攻略しないと。


 ゲーム開始時、Aクラスのただ一人の平民がヒロインだった。

 今、クラスにはすでに平民のユニタスがいる。彼は二回狙われ死にかけてもおかしくなかった。どちらも、アディが助けたようなものだ。

 あれは、ゲーム補正で消される運命のようではなかったか。


 ヒロインは居ない、始まってない。水に溺れたのはアディで、それを助けたのはケレルだ。


 ――ケレルの好感度イベントとして発生した?


 ただの勘違いなら、笑えばいい。

 そうでないなら――。


「――ボスを、」


 突き動かされる衝動に、アディは背中を押されていた。

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