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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第22話 皆が怒っているのが、俺には本気で分からなかった

 学園の校舎にあるカリスの執務室、その横の仮眠室に、アディを寝かせていた。

 その理由は単純に、プールから寮よりも近く、保健室より安全性があったからだった。


「アディから話を聞き出すのは、難しそうだね」


 ベッドの傍ら、ケレルの肩を掴んでカリスはアディを覗き込んだ。


 アディは寝息を立てて、その容態は見る分には安定している。発熱を除いた先ほどの様子を知らなければ、の話だが。


「……カリス、いつから」


「ずっと、とも言えるけど。まぁ、隣室に居るわけだしね。

 君の声は、よく聞こえたよ。どこからか詳しく話そうか?」


 ケレルが振り返って、カリスを見た。鼻も目元も赤い、泣いていたのが一目瞭然だ。

 その涙には触れず、カリスは口元に笑みをたたえて答えた。


「……そりゃ、気遣いどうも」


 カリスの愛想笑いに対し、苦虫を噛み潰したような顔で、ケレルは要らないと返事をした。袖でゴシゴシと雑に顔を拭っている。


 ――アディといい、ケレルといい。最近の侯爵家は、子息を甘やかしすぎではないか。


 気さくにとはいったが、二人とも領地暮らしが長いせいか、カリスには少年のように接してくる。社交界に出たら苦労しそうだ。

 直接手ほどきするのも、それはそれで面白そうだとは思っている。ゆえに、カリスは放置しているわけだが。


「……アディから辿れないなら、水難事故は暗礁になるかもね」


 とはいえ今、一番の懸念はそこだった。手の傷がなければ、アディが一人で溺れたようにしか見えない。


「悪い。俺が見てなかったから……」


「ケレルは最速で気づいていただろう。処置も見事だったと、アディの主治医のお墨付きで。卑下することはないよ。

 ……Aクラスは誰も、気づいてはいなかったしね」


 グッと拳を握って押し黙るケレルに、カリスはフォローを入れた。

 実際、アディが溺れた位置はプールの後方ど真ん中。一番見えづらい場所でもあった。

 広いプールは水中戦が出来るよう、中央に行くほど段階的に水深が深くなっている。それは同時に、周囲から死角にもなっていた。


 発見が遅ければ、それこそ取り返しがつかなかったかもしれない。それは、先日の模造剣の爆発騒ぎと同じだ。


「ケレルも顔色が悪い。疲れただろう、もう帰って休むといい。ウェルム、付き添ってくれないか」


 執務室の方からウェルムが来た。メンタルケア込みだとカリスが目配せすれば、頷いている。


「カリスはどうします?」


「今日は、このままここに泊まる。下手に移動するより安全だろう。

 呼ばなくても、ルナもフィデスもこちらに来るだろうしね」


 全員分のベッドはないが、彼らなら適当に寝るだろう。


「俺も、泊まったらだめか?」


「ダメだよ。アディが起きた時、いつも通りの姿を見せた方がいいからね。しっかり休むべきだ。それに、家からの手紙の返事も書くのだろう?」


 そう促せば、しぶしぶケレルは部屋を出ていった。後はウェルムがうまくするだろう。


 短期間に、Aクラスで二回も騒ぎがあった。

 これを踏まえ、学園は一年Aクラスの夏休みを前倒しすることに決定した。

 帰れる生徒は、家に帰る準備を進めている。


 また魔法絡みの線が強いため、夏休み中に魔法師団が調査で出入りすることが決まった。

 国が運営していることもあり、警備の見直しと、犯人の洗い出しを同時に行っている。


 生徒会の方では、生徒間の人間関係を主軸に情報の精査を行っている。

 セレーヌスが、ユニタスに絡んだ三人の生徒を中心に、関係者の洗い出しをしているのだ。

 また、全生徒への夏休み前の面談という名目の聴取も彼が行う手筈になっている。

 Bクラスとの合同授業でのアディの溺水に、かなりご立腹のようだ。

 こちらは手段選ばず、うっかり自白強制の魔法でも使いかねないため、やり過ぎないように伝えていた。


 カリスは空いた椅子に座り、アディの前髪を払う。少し赤らんだ頬に触れれば、熱があるようだ。

 冷えたカリスの手に、アディが僅かに身じろいだ。その無防備な姿は、年齢より幼く見える。


 ――さて、さっきが意識混濁だったとして、これ以上、刺激するのは危険だな。


 ケレルの問いかけは、かなり危ない橋だったようにカリスは思う。

 ルナには特に、触れないよう伝えていた方が良いかもしれない。彼はアディの怪我に過剰なのだ。


『あー。でも……生きてる、し?』


 アディに自身の傷や生死に関する話題は、これまでを考えても禁句だろう。執着が無さすぎる。

 アディが正気の時に、うっかり別のスイッチを入れてしまったら、行動に予想がつかない。

 現に先日の件は、自分からトラブルに巻き込まれにいっていた。三件ともに、アディが絡んでいる。


「……ちょっとは大人しく出来ないのか」


 険を滲ませ、カリスは苛立ちのまま呟いた。

 模造剣のチェックだけをアディに頼み、過保護なルナを付けたというのに、迷うことなく単身、飛び出していったと報告された。

 ユニタスが上級生に絡まれる件、アディは知らないはずなのに、だ。


 水難事故は、前二件に深く関わるアディを狙ったものだろう。

 あの時、本来Aクラスであるアディは、Bクラスと混ざっていたのだから。カリスはそう考えていた。


『……天国って、ああだといいなぁ。こう、綺麗なの』


 アディが起きたと気づいて、カリスは部屋の入口で様子を伺っていた。


 熱に浮かされたアディが放った言葉は、本心なのだろう思いが滲んでいた。

 それは普段のアディなら言わない、救出したケレルの心を抉るものだった。

 なぜ、アディはあんなにも自身を貶めるのか。


 ――頼むから、いとも簡単に投げ出すな。

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