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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第22話 手に持ってるもの、気になるじゃん

「……それ何? ラブレター?」


 何度か瞬きを繰り返し、視界が鮮明になった。隣に座るケレルに気付いて、その手に持つものをアディは訊ねた。


「お前……、第一声がそれかよ! 家からのだよ、全く!」


 よほど驚いたのか、ケレルは目を見開いた。そしてすぐに、顔をくしゃりと歪ませる。


 ケレルがサイドテーブルに手紙を置くと、アディの頬を両手で摘まんだ。無言で、ぐにぐにと左右に手を動かしている。


「……いひゃいって」


 ぐいっとケレルに頬を引っ張られて、アディはやや痛いくらいだ。

 ペシペシと彼の手を叩き、アディは抗議する。ちょっと身体が重くて、力が入りにくい。



 ――なんだ?


 そのアディの右手に、包帯が巻かれていた。怪我なんてしただろうか、と疑問に思った。

 ちょっと動いただけなのに、上がった息と一緒に頭がふわふわしてくる。


「うるせ。心配かけたんだから、これくらい当然だろ!」


 そう言いつつも、ケレルはアディを解放すると、大きなため息をついていた。


 ――心配?


 アディはぼんやりと、起きる前の出来事を振り返ろうと記憶を辿る。

 そして続くケレルの言葉に、ああとアディは他人事のように思う。


「アディ、死にかけたんだぞ。分かってんの?」


「あー。でも……生きてる、し?」


 お互い、その声は掠れていた。それが少し不思議に思う。

 そう。死んでもおらず、目を覚ました。アディは生きていた。

 それが全てだったからだ。何故、ケレルは泣きそうなんだろう。


 乙女ゲームに転生した自分がここで死んだら、次に行くのは天国なのか。

 そんなどうでもいいことを考えて、アディは思考を脇に避ける。


「……お前ね」


 顔を覆って、ケレルは呆れて深く椅子に腰かけた。その声が少し震えている。

 

 ――俺なんかを、心配するなんて。


 ケレルは優しいなぁと、アディはどこかそれを遠くに感じていた。

 そして、ケレルへ疑問を投げ掛ける。


「俺、なんで手、怪我して……?」


 自分の生き死によりも手の包帯の方が、アディは気になった。

 そこにケレルの静かに息を吐く音が、重なった。


「俺が見た時には、もう怪我してたぞ。こっちが聞きたい。

 ……アディが襲われたっていう証拠でもあるから、わざと治さずに残してるらしい」


 ケレルは手で顔を覆ったまま、丁寧に説明をしてくれた。


「……襲われた?」


「そう。じゃなきゃお前が溺れるわけがないっていうのが、皆の総意。

 実際、手に怪我してるしな。なんか覚えてないのかよ?」


「……うーん?」


 言われて、アディは疑問符だ。起きる前のことをハッキリと覚えていない。霞がかった思考は、どんより重い。目を閉じて、深呼吸をした。


 ――ああでも、眩しくて、キラキラとしてたなぁ……。


 最後に見上げた水面が綺麗で、周りの音は消えて無だった。

 自分という個が薄れて、溶けたみたいに、アディにとって不思議な感じだった。


「……天国って、ああだといいなぁ。こう、綺麗なの」


 アディの無意識のそれは、思っていたより音となって、部屋に響いた。

 ケレルが顔から手を離し、サッとその顔色を変えた。


「アディ。冗談が過ぎるぞ」


 怒気をはらんだケレルの声が、アディの耳に届いた。

 夢うつつにアディが視線を向ければ、こちらを見て眉間に深く皺を刻みケレルが、珍しく怒っていた。


「……悪い」


 アディは静かに目を閉じて、息を吐きながら反射的に謝った。

 どうして怒られたのか、アディには理由が分からない。


 ――だって俺、ただのキャラだし。


 アディは考えようとして、ゆらゆらとする意識に鈍い痛みを覚えた。

 せめて、聞かれたことくらい答えないと、そうしばらく唸って、アディはようやくプールでの出来事を思い出した。


「……水底が、暗くって」


 なにがなんだか分からないままに、水の中へとアディは引きずりこまれた。


 ――そうか、プールで溺れたのか。


 アディは、落ちそうになる目蓋を何度か持ち上げて、ボーとする。とつとつと言葉を紡いだ。


「……人は見てない。足になんかついてたから、手で取ろうとして弾かれた」


 足に巻きついたものが水魔法なのか風魔法なのか、判断は出来ない。

 触れれば怪我をした、ということは明確な悪意も混ぜられているのだろう。


「怪我したとしたら……多分、そのとき?」


 アディに分かるのは、そこまでだ。足にまとわりついた感覚は、ただ気持ち悪かった。


 ――あの魔力は覚えたから、人を見れば分かるかもしれないけれど。


 そこはあくまでもアディの感覚で、証拠にもならないものだ。

 それにしてもと、アディは直前の出来事を思い出して目を伏せた。

 あの綺麗なものを、最後に掴もうと手を伸ばした。


 ――ああそうか、俺が掴んだのは。


「……ケレル。掴んでくれて、ありがと」


 話をしたせいか、うとうととしてくる。

 小さな声で呟いて、アディの意識は再び眠りに落ちた。たったそれだけ呟くことがひどく、疲れた。


「アディ、俺はお前が怖いよ」


 その一人言は、アディには届かなかった。

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