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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第20話 水中戦を想定ってプールの深さがファンタジー過ぎてヤダ

 ほどなくして、水泳から種目が変わった。

 全員がそこそこ泳げると、教師が判断しての余暇タイム。ボールを使った遊び、バレーの延長みたいなものだった。

 Bクラスを四組に分け、ケレルとアディはその内の二組に、それぞれ組み込まれた。


 ――あー、さすがケレル。馴染んでて楽しそう。


 プールサイドでBクラスと語らうケレルの方を見て、そうアディは思った。

 アディが我が身を振り返れば、同じ組のBクラスの男子から目を反らされた。


「……」


 組として一緒になったBクラスのメンバーに、アディから一応自己紹介をしたのだが、返事はあるものの、誰も名乗ってはくれなかった。


 ――まぁ、そんなもんだよな。


 忌避、畏怖、異質。そんな近づきたくないという意思の目を向けられて、周囲の音が何だがとても遠くにアディは感じた。

 噂も含め、これまでの自分の行いの結果だった。


 ピー。


 笛の音と共に、教師からボールがプールへと投げ入れられた。

 Bクラスのメンバーがキャッキャッと楽しそうにしているのを、プールの端でアディは眺めていた。


 ――ポッと出で、チームプレーが出来るとは思わないしなー。


 時々飛んでくる流れ弾を、アディは中央に飛ばすことで、参加の体を保っていた。


「……」


 ボーと見ていたら、自軍にいる一人の女子の体内魔力が歪んでいることに、アディは気づく。

 彼女が足を庇っていることから、つったのかもしれない。


 ――俺。今、男だしな。どうするか。


 前世なら、アディは女の子だった。同性なら迷わず肩を貸して、助けていたかもしれない。

 けれど今は男で、しかも全員から距離を取られている。


 自力でプールサイドに行くか、誰かが気づくか。そう、アディは思っていた。そうあって欲しかった。


「――っ」


 女生徒が静かに、とぷんと水の中へ吸い込まれる。アディは静観を止め、とっさに動いた。


 水の中へと潜り、床を蹴って一瞬でアディは距離を詰めた。そのまま左腕で彼女を抱えると、水面から顔をあげ、プールサイドへと向かった。


「足、つったみたいだから」


 プールサイドに座るBクラスの生徒に、彼女を預けた。

 そのまま目を合わせることもなくアディは、プールの元いた場所まで、軽く泳いで戻った。


 ――あとでセクハラとか、言われませんように。


 身体が動いたんだから仕方ないだろう。水面にブクブクと顔を埋めて、アディは自己嫌悪に浸っていた。


 Bクラスの歓声が、元気だなぁとか若いなぁとか、アディは遠くにその景色を見ていた。

 まるで、テレビでも観ているようだった。


「――っ!」


 気を抜いていたから、というのは言い訳だった。

 とっさの反応がアディは遅れ――気づいた時にはもう水中だった。


 ろくに酸素も吸えないまま、プールの底へとアディは引きずり込まれた。

 足が着くはず、とアディが思えば、隣の深いエリアへと左足が持っていかれている。


『ここのプールは水中戦も想定してて、かなり深いから、アディ、気をつけろよ』


 ――深すぎて、溺れたら洒落になんねぇよ!


 ユニタスの言葉を思い出して、アディは突っ込みを入れる。

 前世の競技用プールよりも体感として遥かに深いそこは、アディもさすがにゾッとする。

 周りは薄暗く、見上げた水面がやけに遠くに感じた。


 キッとアディが睨んだ先、左足首に巻きついているのは誰かの悪意ある魔力の塊。

 振り払おうと足を蹴るも、それはびくともしない。

 アディの足に、重りでもつけられたような感じだ。

 


 キラリと水底に届いたわずかな光。

 思わず見上げた水面は、さっき見たアディのいない遠い光景を思わせた。


 周囲を一度見渡して、他に溺れた生徒がいないことにアディは安堵した。


 ――狙われたのが俺なら、それでいい。


 歯を食いしばって息を止め、左足の何かへと右手を伸ばした。

 足首に手が触れる寸前――バチッと何かに弾かれた。


「――っ」


 そのアディの右肘から、パキっと何かがズレる感覚がする。

 思わず見つめた右肘は、見た目には問題は無い。


 なのに、春の骨折を思い出してアディの背筋が冷えた。

 その一瞬の動揺で、全身に掛けていた身体強化が外れた。アディの口から、空気がゴボッと漏れていく。


 眉間に皺を寄せ、アディは慌てて左手で口を抑えた。酸欠で耳鳴りがし、頭痛がする。

 左足に絡む魔法を解除しないことには、現状が打開出来そうになかった。


 ――水か風か、何か知らねぇけど。魔法なら。


「《ネゲート》!」


 アディは口から入りこむ水に構うことなく、詠唱する。

 目の前が白く染まり、痛みが胸を焼いた。    

 体内に残っていた空気が、ブクブクと泡となって、水面へ上がっていく。


 左足の違和感は無くなり、アディの身体がふわりと自由を取り戻したが、身体が重く、上には泳げなかった。


「……っ」


 コポリと上へと向かう最後の気泡を静かに見上げ、アディは顔をしかめた。


 痛みと共に狭くなる視界に、口を抑えていた手が離れた。

 アディは己の不甲斐なさに、目を閉じた。


 ――あー、ミスった。


『自信過剰で情けない姿見せたら、カッコ悪いぞ』


 アディは僅かに、その口元を歪めた。


 ――ああ、そうだな。


 プールを前にして話していたことを、アディはふと思い出した。

 うっすら開けた瞳に、キラキラとした光が見える。


 ――綺麗。


 アディは、おもむろに上へと手を伸ばした。

 その手が、何かを掴めたのか。何を掴みたかったのか、分からない。


 ブツリと、そこで意識が途切れた――。

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