第19話 学園ものといえばお約束のプール回!
「そうだよなー。夏と言えば、プールだよなあ」
プールの更衣室。皆が着替える中、アディはふてくされた声を出して、シャツのボタンに手を掛けた。
不穏な出来事から一転、平和な日々が続いていた。
「アディ、なに言ってんの?」
「お前、プール未経験? もしかして泳げない?」
そこにケレルとユニタスが、ツッコミを入れる。
言われてアディははたと気づく。今世では、泳いだことはない。けれど、おそらく泳ぎも問題ないはず。
なぜならアディの模擬戦だってそうだからだ。
アディの戦術は、ゲーマーの経験を参考に、理想の動きを身体強化で可能にしていた。
「泳いだことはないけど、泳げると思う」
ロッカーの前、ドヤっとキメ顔をしてみたアディに、二人は笑った。
「なんだそれ」
「今日はBクラスも一緒だから、自信過剰で情けない姿見せたら、カッコ悪いぞ」
聞き流したのはケレルで、からかってきたのはユニタスだ。
ちなみに、ケレル以外の攻略キャラはここにはいない。
彼らにはそれぞれ、個室が用意されていた。身分とは恐ろしいと、アディは思う。
『アディも、僕たちと一緒に着替えようよー』
ルナがアディを引き留めたが、プールなんて剣も持たない。Bクラスも混じるとあって、アディは遠慮した。
――波風立たせたくねぇ。面倒そう。
長袖のラッシュガードを着て、アディが後ろを振り返れば、ケレルもユニタスもラッシュガードは着ていなかった。
引き締まった身体に、ケレルは腹筋が割れている。
アディの貧弱さは、ラッシュガードで隠していて正解だった。
「もう見慣れたぞ、コイツらのは」
比較されてはたまったもんじゃない、アディはそう愚痴を溢した。
その一人言を拾ったのはケレルだ。彼は度々、アディにサークル勧誘を持ちかけていた。
「アディもサークル入ればいいのに。身体を動かしたら筋肉なんて、すぐつくよ」
「アディ、入ってないんだ。意外」
「悪いかよ。サークルはまだ、保留なの」
入ったところで、筋肉なんてつかないと思うし、今さら途中で入るのも、追いつくのが大変そうだ。
――歓迎されるとも限らねぇじゃん。
着替え終わった三人が外へ出ると、夏の日差しが照りつけた。
その眩しさに目を細めて、アディは感嘆の声をあげる。
「野外プール! ひろ!」
前世の二十五mプールが四個分あるのではないかという、その広さに予想以上に驚いた。
――まぁ温暖化で、野外プール文化自体が、前世はなくなってきてたから懐かしい!
「アディ、ホントにプール未経験だったね」
「ここのプールは水中戦も想定してて、かなり深いから、アディ、気をつけろよ」
はしゃぐアディに、ケレルは驚き、ユニタスは忠告をしてきた。
確かにエリアによって、プールの深さが違うのだろう。パッと見でも透き通った水面に、奥行きの色合いが違った。
一番奥は水面が暗く、かなり深そうだ。
「子ども扱いするなよな!」
「こらそこ。そろそろ始めるぞ。集まれー」
ワッと吠えたアディの声に被さって、教師が声をかけた。
いつの間にか他の皆の着替えは終わっていたらしい。
集まる生徒たちのその奥で、ルナは手を振り、ウェルムとフィデスは何かを話していた。
アディと目の合ったカリスが、ニッと笑ったのを見て、アディは羞恥で顔が赤くなる。
子どもっぽくはしゃいだのを、カリスに見られていた。
――だから、子ども扱いするなよ!
「合同だけど初回だから、二手に分かれるわよー。Aクラスは前期組と後期組で分かれて。後期組の二人はプールが初めてだから、Bクラスと一緒にするわよー」
女性教師が、全体にそう指示を出す。
「お、分かれるのか。んじゃ、アディ。溺れるなよ」
「だから、泳げるって!」
ユニタスは最後までアディをからかって、カリスたちの方へと歩いていった。
Aクラスの後期組は、アディとケレルの二人だ。一人ではなくて、アディはホッとする。
「一人じゃなくて良かったね」
「本当にそれな。ケレルがいて良かったよ」
◇◆◇◆◇◆◇
床にギリギリ足がつく深さのエリア、そこでアディとケレル、Bクラスは一緒になって、順番に基礎的な泳ぎを流していった。
ザバッと水面からアディが顔を出すと、ケレルは、遠い目をして感想を述べた。
「わー。ホントに泳げてる……」
「はっ。だから、泳げるって言っただろっ」
プールの端から端まで、立つことなく前世のクロールを披露したアディに、ケレルはドン引きしていた。
「アディ。初めてでそれは、反則じゃない?」
「ケレルも泳げてるのに、何言ってんの?」
「いや、俺は初めてなんて言ってないだろ。領地の湖で泳いでるよ」
身体強化無しで泳ぎきったから、アディはやや誇らしげだ。
だからこそ、ケレルに話を振ったのだが、なんとケレルの領地には湖があるらしい。すでに水泳経験者だという。
――なにそのポテンシャル。ゲーム設定にもないぞ。
「……裏切り者」
「なんでだよ。むしろ、泳いだことがないやつが泳いでて、いう台詞じゃないよな!?」
ボソッと呟いたアディに、ケレルはめざとくツッコミをいれた。




