第18話 今日受けた授業は一限目だけです、完。
昼食を終えて教室に戻ると、待ってましたとフィデスが歩いてやってきた。
屈託のない笑顔は、眩しいくらいの忠犬ぷりだ。
「あ、アディ。カリスが呼んでるぞ」
「は? ちょっと!?」
すこぶる機嫌がいいフィデスは、アディの腕を掴むと教室を出ていく。
「そうそう、ユニタス。俺ら、次は欠席だからさ。お前、大人しく教室にいろよー?」
通り過ぎた入口を振り返り、フィデスはユニタスに声をかけると、再び歩き出した。
「はいはい。じゃなぁ、アディ」
ユニタスはひらひらと手を振って、戸惑うアディを助けることなく見送った。
状況に置いてきぼりなのは、アディだけだった。
「フィデス! なんなんだよ。俺、今日の授業、全然受けてないんだけど!?」
欠席ばかりは、さらに悪目立ちするだろう。
アディがそう抗議すれば、前を行くフィデスは首を傾げた。
「カリスが相手だから、問題ないだろ?」
――職権乱用!
あまりにも軽く言うので、アディは思わず内心で突っ込みを入れた。
――それで良いのか学園。実力主義ではなかったのか。権力にひれ伏してるぞ。
そして、フィデスにガッチリと掴まれた腕は、アディが身体強化でやったとしても振りほどけないだろう。
大人しくついていく他に、アディに選択肢はなかった。
「……分かったから、腕を離してくれ。歩きにくい」
「なー、アディ。カリスが寮でしろって言うんだけど気になってさー。技って?」
立ち止まって、アディの腕を離したフィデスは、うずうずと隠しきれない欲求のまま、詰め寄ってきた。
「あー。うん、技ね。ここでは、ちょっと……」
アディも目線を泳がせて、話をはぐらかす。セレーヌスとマーレに釘を刺されたばかり、人目のある廊下でする話ではなかった。
「分かった! じゃあ早く、部屋に行こう!」
結局カリスの待つ部屋へと、フィデスはぐいぐいとアディを引っ張り早足に向かうことになったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「待ってたよ」
腕が痛いと根を上げたくなった頃、無事に部屋へ着いた。そこにはウェルム、ルナ、カリスと三人が待っていた。
「ルナ、それ……」
「絵の具だよ! じゃ、カリス。アディたちも来たし、僕、着替えてくるね」
ルナの白いシャツ、その袖口と胸元に赤い汚れが飛び散っているのが見えた。
アディが驚いて指摘をすると、ルナはそれに晴れやかな笑顔で答えた。
カリスに挨拶をして、ルナは部屋を出ていった。
――俺、なんか悪いこと教えちゃったか?
血の汚れを絵の具だと、さっき嘘をついたのはアディだった。ルナは見事に真似をしていたように思う。
制服に返り血がついたまま、晴れやかに笑う少年の姿は、他人として考えると色々ちょっとヤバイ気がした。
「アディ。さっきはお土産をありがとう」
「……いえ、カリス様に気に入っていただけたなら良かったです」
どうぞと、カリスに勧められたソファに戸惑いつつもアディは座る。
あまり来ない部屋は見慣れないし、居心地が悪い。
そこへ、ウェルムがティーセットを持ってやってきた。
「けれどアディ。ルナをつけていたのですから、次からは一人で飛び出さないでくださいね。
一人で手に余ることも、あるかもしれませんから。有事の単独行動は控えていただけると、こちらは助かりますね」
「有事って、そんな……」
アディの前へとティーカップを置きながら、ウェルムがそう指摘してきた。
「有事だよ、アディ。危険物が学園に紛れていたんだ。危うく、死傷者が出るところだったかもしれない」
カリスがカップに手を伸ばしながら、アディへと断言した。
「でも先輩方、捕まえましたよね?」
そう、アディの中では怪我人はおらず、犯人はカリスが捕まえた。
すでに終わったニュースの話、くらいの認識だった。
「ああ、今は教師に任せている。けれど上級生とはいえ、たかだかDクラスが、あんな物騒な物を作れるわけがないだろう?」
――Dクラスだったんだ。モブ先輩たち。
Sクラスのセレーヌスを思い浮かべ、彼らの実力に、なるほどとアディは納得する。
「持ち込んだ一部は、彼らだった。残りと作った方も捕らえないとね。そちらは現在、調査中だ」
「残り?」
アディが聞き返すと、カリスは紅茶を飲みながら、そうと頷いた。
「アディがチェックしてくれた本数と、彼らの進言数が合わない。それに一度に替えたなら、数が多くて誰かの目に止まったはずだ。
入れ替えは複数回、複数人で行われた可能性が高いと言える」
――え、なにそれ、きな臭い。やだ陰謀。
アディは面倒な話になったと、うんざりとした顔をした。




