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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
二章 夏休み突入編。 執着と過保護に追われるダンジョンソロって!?

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第17話 現代人には貴族身分って窮屈で、時に息苦しい

 カチャ、カチャ。


 静かに、カトラリーの音が響いていた。

 周りの喧騒から、このテーブルだけ取り残された感じだ。

 アディもユニタスも話さずに、黙々と食事を進めていた。


 ――セレ兄さんの言いたいことも、分かる。


 一番早いのは、囲ってしまえばいい。カリスからの剣を腰に差した、今のアディのように。

 強者には、さらに強者をぶつけてしまうのが、もっとも早くて効果的な守り方だ。


「……」


 パクリと鮭の包み焼きを口に含んで、アディは飲み込んだ。

 そのバターと鮭の濃厚な味が、暗い気持ちの上に、さらにずしっと重くのしかかる。


 ――守る代わりに、自由を奪うだろ。


 『中立のクストス家が――』


『無能な三男を、どうしてか王子が目にかけている』


 アディの胸に、モヤモヤと渦巻くものがある。人の悪意というのは、いつになっても気持ち悪い。


 ――その労力を、慈善事業にでも向けろよな。


 上級生に目をつけられたユニタスを、助けたこと自体にアディの後悔はない。


 結果として、アディが支援魔法を使えると教えてしまった。

 ユニタス本人に、その効果を体感させてしまってもいる。


 セレーヌスはアディの能力を隠すために、ユニタスを側へ置こうとしたのだ。

 それは守りと監視に他ならない。アディの爪の甘さを、突きつけられた。


 ――俺の存在が、周りを乱してる。


 アディの食事の手が止まり、カトラリーを持つ手が白くなるほど、ギュッと握りしめた。


「アディ、お前。なんか変なこと考えてるだろー?」


「……え」


 横からの声にアディが見ると、ユニタスがじっとこちらを窺っていた。


「俺なー、気づいてたと思うけど、別に初めてじゃないんだぜ?

 実技交差の後、だいたい上級生から呼び出しさせるの。そりゃもうね、恒例行事なんだよね、うん」


 いつから見ていたのか、彼はカトラリーも置いて身体ごと、アディに向き合っていた。

 フォークをくるくると回して、世間話をするように話を振ってきた。


「平民がAクラスになるって、そういうことだと思ってる。俺としては、な。良いこともあるんだぞ?

 手っ取り早く経験が積めて、強くなる近道だからな。

 実際にずっと、Aから変わらねえから、俺」


 ユニタスは首を左右に振って、げんなりして見せた。

 実技考査では同学年、下級生からの嫌がらせ。考査後は上級生からの指導を。

 彼は、自身の状況を当然のように受け入れていた。


 ――でも、貴族の嫌らしさの極みだろ。


 返事に困って、アディはなにも言えずにいた。ユニタスは気にせずに話を続けた。


「あ、剣が爆発したり、血反吐を吐かされたりは、初めてだけどな。あれはないわー。

 やり口変えて来たのか、ちょっとやべぇかなって、実際に思ったとこ。

 だから、助かったのは本当。だって、アディ、かっこよく来るじゃん?」


「それは……」


「まぁ、いつも帰りが遅いとさ。カリスかフィデスが、俺を迎えに来るんだけどなー」


 口ごもるアディに、ユニタスはなんでもないことのように笑って言った。

 無事だから良いのだ、気にし過ぎるなというように。

 そして、カリスはなんだかんだ、やはり面倒見が良いらしい。


 ――さっき会ったのは、俺を探すだけじゃなくて、そういう……。


 けれど、ありのままのフィデスを思い出して、アディは思わず半笑いになる。

 せっかくのシリアスが台無しである。なぜなら――。


「フィデスは単に……面白がってる、よな」


 さっきアディたちの前に現れた時も、フィデスは心配より先に、興味が勝っていた。それはもう、ご機嫌で。


「あ、やっぱアディも思うか? 前期三年の時に、アイツが一人で来たことあってさ。

 相手もうボコボコだぜ、無様過ぎて笑うよなー。見てる分には、爽快感はんぱないけどな」


 ユニタスは、当時を懐かしんで笑っていた。それは、平民だとか貴族だとか気にしている風ではない。


 そして、公爵家のフィデスに反発出来る生徒は同格くらいだろう。

 弱いもの虐めを目的とする上級生が、敵うわけがなかった。


「その後、やり過ぎだってウェルムに怒られてるんだぜ。

 以来アイツは、一人で俺を迎えには来ないな。保護者がついてる。今日もカリスが居たろ?」


 ユニタスのそれは、純粋に友達、クラスメイトに向けた気安い態度だった。


「それは、なんとも……想像が、出来るな」


 アディは、曖昧に返事をした。

 フィデスは合法で暴れる理由を、日頃から探しているのかとさえ、邪推してしまうくらいには返答に困る。


「従者の件も、俺は悪くないと思ってるよ。

 そんな兄貴に怒らなくてもさ、保留で良くないか?

 別にさ、アディはそのまんまで良いんじゃねえの。形だけ主従になったからって、俺ら変わらないだろ?」


 ユニタスは真顔で、貴族の体裁を汲むと、アディに確認した。


「そんなに都合よく、出来ないだろ……」


「えー。そうかぁ? アディは頭が回るみたいだけど、人付き合い下手すぎだろー」


 アディは渋面を作って、歯切れ悪く言った。

 それにユニタスはカラリと返す。

 アディは確かに、同年代とは疎遠ではある。


 ――前世込みで年下に、こうも指摘されるとは……。


「俺は、アディの強さを口外しない。あれは、俺には説明しようがないしなー?

 それは生徒会長に伝えといてくれ。お前の口から言えばさ、悪いことにはならねぇって」


 ――ユニタスが良くても、セレ兄が良しとしなければ意味がない。


 アディが話をしたとして、本当に納得させられるのだろうか。


「……そう、かな」


「そうだろ。あの兄貴は相当ブラコンだぞ――あ、これは内緒な」


 失言した、とユニタスはあからまさに辺りを見渡し始めた。


 アディは、ユニタスの先ほどまでの決め台詞との情けないギャップに、どうしようもなく笑いが込み上げてくる。

 アディの手からフッと力が抜けて、カチャリと静かにカトラリーは皿に戻っていた。

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