第15話 食堂の席が空いててラッキー。なんて簡単にはいかないのか
「アディ」
制服へと着替えたアディとユニタスが食堂で席を探していると、大好きな声が聞こえてきた。
「あれ? セレ兄さん?」
アディが声のする方を嬉しそうに見ると、セレーヌスが四人掛けテーブルに一人、座っていた。
すでに食事は終わっているのか、テーブルにはティーカップしかない。
「食堂で会うなんて珍しいですね?」
「アディの顔が見たくてね。ユニタス君、弟がいつも世話になってる。ありがとう」
席を勧められ、アディは普通に座る。ユニタスの方を見ると、背筋を伸ばして立ったままだ。明らかに緊張をしている。
「いえ、生徒会長。私がいつもよくしていただいてますので」
「ユニタス。お前、敬語話せたのか」
アディはユニタスに感心して、そう述べた。王子にもため口をだったから、無理だと思い込んでいたのかもしれない。
「アディは、俺をなんだと思ってるんだ!?
……生徒会長だぞ! 敬意を払って当たり前だろうがっ」
素で反論したユニタスは一度咳払いをして、コソリとアディに耳打ちしてきた。
けれど、とても語調が強い。そんなに意気込まなくても聞こえている。
「いや、俺にとっても偉大で尊敬する兄さんだぞ?」
アディはその緊張の意味が分からず、普通に返し、まぁ座れと席も勧めた。
「……アディは、なかなかに図太いな」
「褒めてないよな、それ」
しぶしぶ、隣の椅子に座るユニタス。アディは応接室の一件から、雑に扱われているのを確信し半目になった。不本意過ぎる。
「アディが学園に馴染めているようでなによりだよ。さてメニューは決まったかな?
取ってこさせるから、料理が来るまで君たちの話でも聞かせてほしい」
人当たりの良い笑みを浮かべて、セレーヌスがメニュー表を広げた。
「セレ兄さん。俺、日替わりで」
「早っ! ……え、と。俺は……。俺も日替わりでお願いします!」
即決のアディに驚き、ユニタスはそのまま選ぶのを諦め、アディと同じ日替わりを頼んだ。
「ユニタス。日替わりにハズレはないから安心しろ」
「いや、なんでお前が誇らしげなんだよ!」
「食堂のご飯が上手い、は大事だろ?」
――というか、前世並みに食事情が充実してホントに助かった。よくあるメシマズパターンだったら、正直キツイ。
一応米文化もある上に、簡単な和食なら存在していた。
食のホームシックにならずに済んで、アディが助かってるところである。
ないと言えば、大豆の発酵や生魚を食す文化の方面。
「……いつか、刺身とかすき焼き食いたいよなぁ。探す、作る? いや、俺には似合わないなぁ」
異世界ものの中では探したり、作ったりが定番だが、さてアディはどうするべきかと顎に手をやり、真剣に悩み始めた。
――わさびと醤油も欲しい。納豆も捨てがたい。
物思いにふけり、小さくブツブツとアディは呟いている。その心の声が駄々漏れであった。
「アディ。さしみ、すきや? ……って、なにブツブツ言ってんの?」
ユニタスは思わず問い返してみるが、アディから返事がない。
セレーヌスは、そんなアディを愛おしげに見つめていた。
「……アディは本当に、食べることが好きだね」
「それはもう。一日三回は不可避な事象ですからね!」
兄弟のいつものやり取りを、初めて目にしてユニタスはたじろいでいた。
「あー。これ確かにブラ――」
「で、アディ。授業を受けずに何をしていたのかな?」
ユニタスの台詞に被せて、セレーヌスが口を開いた。
ユニタスと目が合うと、セレーヌスはにこりと笑っている。
ユニタスは背中にヒヤリとしたものを感じて、手で口を抑え黙って頷いた。
「……セレ兄さんは、どうしてそれを知ってるんですか?」
リウィドゥスとのやり取りは、周囲に人がいなかった。授業中ということは、備品庫のチェックのことか、いつのことを指すにしても午前中のことだ。耳が早すぎる。
「親切な人が教えてくれてね。生徒会長として磐石な地位を築いているから、これも人徳かな?」
ソーサーとティーカップを優雅に持ち、セレーヌスはコーヒーを飲んだ。
セレーヌスが明言をしない時、何か裏がある証拠だった。
貴族として食えない兄だと、アディはうすら寒くなる。
「……俺に、なんかついてます?」
「ん? 何かついているのかい?」
アディが恐る恐る聞くと、セレーヌスはとぼけて見せた。親切心で詳細を教えるつもりは無いらしい。
――ま、護衛とか監視とかついてても、俺には分からないしな。
身の回りの品は学園の支給品。クストス家関連は、眼鏡くらいだ。GPSなんて今世にないだろうし、とアディは考えてそれ以上の詮索を諦めた。




