第14話 マーレの保健室出張所、みたいな看板を提げたらいいと思うんだよね
アディが学園に復学してからも、昼休憩時のマーレによる健康チェックは恒例となって継続していた。
――もう、マーレ出張保健室で良くない?
看板つけても良さそうだって。
保健室は別にちゃんとあるのになと思いながら、部屋の前で立ち止まる。
ガラリと開けた応接室で、アディは挨拶のように言った。
「マーレ。ユニタスを診てやって欲しいんだけどー?」
「……アディ君。次は何をやらかしたんですか」
目ざとく二人の血痕へと視線を動かすと、呆れ顔でマーレは手招きをした。診てくれるそうだ。それにしても……。
――マーレ、いつも俺が何かをやらかした前提って酷くない?
入るのを躊躇うユニタスの腕を掴み、ずかずかと進んで、マーレの向かいのソファへとアディは腰を下ろした。
「俺は、なにもしてないぞー」
「はいはい、アディ君の返事に期待はしてません。では、お二人とも手を出してくださいねー」
「え……?」
マーレはアディを無視して、二人にそれぞれ手を差し出した。
流されていたユニタスは、差し出された手にちょっと困惑気味だ。
「ユニタス、気にしなくていいぞ。マーレは回復魔法が使えるから、これで体調チェック出来るんだと」
「おおむねアディ君のいう通りです。元孤児、今は侯爵家の雇われの身で、気遣い無用ですよ~。怪しくないですよ~」
それぞれがユニタスへの説明をすると、マーレは営業顔負けの笑顔で、自己紹介までしていた。
――マーレさん。悪徳商法ぽいよ、それ。
「あ、アディ君は今、失礼なこと考えましたね」
「気のせいです!」
にょきっとその頭に角でも生えそうな圧をマーレから感じて、アディはバッと彼女の手を握る。
「はい。アディ君はアウトー」
「えー」
全然懲りてないアディを放置し、にこりと微笑んだマーレは、ユニタスを見た。
恐る恐るその手を握ったユニタスは、ちょっと顔が赤くなっている。
「あれ、お前ウブだな」
「……アディ、うるさいぞ!? お前はいつもこんなことしてんのかよ!」
ニヤニヤとアディがユニタスをからかうと、青少年らしいツッコミをいただいた。
――そうだよなぁ。俺は慣れたからなぁ。
遠慮したこともあるが、マーレがぐいぐい来るのだから仕方ないとアディにはいえる。深く考えては、いけないかもしれない。
「んー。彼、どこも悪くないですね? どうですか、調子は?」
「いや、それが俺にも何がなんだか……。
アディがなんかする前は、倦怠感とかダルって、確かにあったんだけど……?」
マーレとユニタスが、じいっと疑いの目でアディを見る。
――おかしい、良いことをしたはずだ。なんでそんな怪しい目で見てくる。
「アディ君。何してきたか、白状してくださいねぇ」
「ちょ、いた! 痛い! ちょっと、なにこの電気ビリビリは!?」
アディは、握ったマーレの手から電気治療のような痛みを感じる。
必死に離そうとするのだが、彼女の方は離す気がないようだ。
「ふ、ふ、ふ。私も成長するんですよ。懲りない人に、お仕置きが出来るくらいには!」
――それ、説明になってないから!
二人握手をしたまま、バチバチと火花が散りそうな、にらみ合いになってしまった。
「アディ。ちゃんと説明してくれ? 俺は普通に、俺のことだから聞きたいんだけど」
「支援魔法の一種! 中級魔法が三つ、エネルギー量も豊富で、属性もバラバラでこっちに向かってきたの。
ほら、うまそうだなって思ったらさ。有効活用したくなる、じゃん!
回復魔法使えなくても、反転で応急措置くらい、ユニタスの回復に、使えるって思ってぇ!」
アディが半ば大声で白状すれば、マーレのビリビリ攻撃からやっと介抱される。
――前世、ゲームと言えばドレインでSPもしくはHPの回復があるじゃんか!
まだ違和感がありそうな手を、アディは涙目に見つめてさすった。
「あー。アディ君はまた、そんな常識外のことを。それだから、身体に負担がいってるんですよ。魔力の流れ、疲弊させてー」
「え。アディなんか無茶してたのか?」
「してない、してない。というか今日はもう使うこともない魔力、多めに使っても良いじゃないか」
――あ、噛んだ指も治ってる。
さすった手が綺麗になり、電気ビリビリのお陰で腕回りも軽くなった。
アディはそれに気付いて、マーレの技量に素直に感心する。
「で、その反転の支援魔法とやらは、何を想像してやりました?」
調子が良くなったと肩を回して笑顔のアディに、マーレは呆れ顔で確認してきた。
「え? ユニタスが元気になりますようにって、当たり前だろ」
魔法はイメージが大切なのだ。そこの結果を、アディは譲れなかった。
迷いや躊躇いは、発動や効果を不十分にし、致命的な行為になるのだから。
「アディ君。反転させて、疲労込みで全回復って支援魔法とは言わないですよー?」
呆れ顔から、さらに目が半目になって、マーレは棒読みになっていた。
ユニタスは隣にいたはずなのに、ちょっとソファの端へと移動している、なぜ。
「俺の身体、無事?」
「あ、そこは多分心配いらないですよ。やり方がアレなだけで、結果はまともなので、アディ君て」
――俺の扱い、酷くない?
ユニタスは、自分の身体をベタベタと触って何かを確認している。マーレがそれにフォローを入れているらしい。
アディとしては、何か解せないと思った。
「アディ君。ほいほい負荷のかかる支援魔法なんか、使っちゃダメですよ?」
止めとばかりに、マーレはアディに忠告してきた。
――俺、一応雇用主の子どもだぞ。
耳半分で、アディはそれを聞き流した。
やると決めたら、手段は選んでいられない。




