第13話 面倒事はそれが好きそうな権力者に丸投げすると、だいたいイイ感じでまとめてくれるもんだって
ユニタスと二人で廊下を歩くと、ルナが前方から突進してきた。アディのキュッと踏ん張った靴の音が辺りに響く。
「アディ! もう、置いていかないでよね」
「いや、そんなつもりないぞ?」
減速なしで、ルナはアディの胸へと飛び込んできた。アディの剣も持って来てくれたらしい、片手に抱えていた。
ただ、身体強化を掛けていてもその総重量が、アディにはちょっと重くて痛かった。
けれどその可愛い仕草が微笑ましくて、ルナの頭を撫でてやる。
――弟が居たら、こんなのかなぁ。
ルナを愛でていたら、やや遅れてカリスとフィデスも歩いてきた。アディと目が合うなり、カリスが低く問いかけてきた。
「アディ、ユニタス。君たちのその汚れはなにかな?」
「さあ、絵の具ですかね?」
カリスに見つめられて、冷や汗をかくのはなぜだろうと思いながら、アディは条件反射で嘘をついていた。
確かに、二人の白い体操服には、絵の具というには無理がある血の生々しい汚れがある。
アディは、ユニタスを抱き上げた時についた赤が胸元に。
ユニタスの方は、吐いた血を受け止めた手と首もとに赤がついていた。
――あれ? 別に、悪いことしてなくね?
そしてふと、我に返る。アディにやましいことはないではないか。
「……絵の具だって?」
普段と同じ物腰の柔らかい言い方ではあると思うのだが、カリスのその目が全く笑っていない。
周囲の温度がぐっと冷えた気がして、アディは目を反らした。
――やべ、返事ミスったー!
実技後の授業は、カリスの選別指示で免除だったが、ユニタスのことでは完全にアディの無断欠席である。
そもそも、選別の報告もルナに任せっきりだった。カリスを怒らせる前に、素直に説明をするべきだったと後悔する。
「カリス、アディは俺の用に付き合ってくれただけだ、あまり苛めるなよ」
そんなアディに、ユニタスが間に入ってくれた。思わず期待の眼差しで彼を見てしまった。
――救世主か!
あまり関わりのない印象の二人だが、カリスへの気安い態度に、ユニタスは前期組なんだなぁとアディはしみじみと思う。
後期入学のアディは未だ、カリス、ウェルムには、一方的に線を引いて接しているからだ。
「そうそう! カリス様、向こうで呆けている先輩方三人の介抱を、頼んでも良いですか?」
「……アディは、私をなんだと思ってるのかな?」
アディが思い出して、リウィドゥスのことを告げ口して話題を変える。
本来は放っておくつもりだった。せっかくカリスが通りかかったのなら、全力で押しつけてしまおう。
「え? カリス様と、あとウェル様も噛んでますよね。それに先生方にとっても良いお土産だと思いますよ。
だって先輩、"模造剣を破損するような未熟者には、危険性を指導してやらねばならない"って言ってましたから」
「アディ。それ、受けたのか?」
黙っていたフィデスがぐいっと距離を詰めて、興味津々で聞いてくる。
こと物理の揉め事に関しては、好きそうだなとは思っていた。
さすがにあからさまな反応過ぎて、アディは吹き出した。フィデスにもったいぶった返事をする。
「有意義だったかなぁ。技を試すために、胸をお借り出来たし」
「え、なに。なんだそれ、詳しく!」
「フィデス。先に、先輩方に聞きに行こうか。二人がお世話になったみたいだから、私からも丁重に、もてなす必要がありそうだ」
フィデスは目をキラキラと輝かせていた。そのかなり食い気味のフィデスの肩を、カリスが掴む。
それはそれは、とても悪い顔をカリスはしていた。口許に隠しきれない笑みが見える。
――リウィドゥス先輩方、御愁傷様。
俺は心の中で合掌する。自業自得ではあるが、喧嘩を売る相手を間違えすぎだ。
侯爵家次期当主なら乗り越えるべき壁だろうと、エールを送っておく。
「カリス、俺はアディに……!」
「アディは、寮でも聞けるからね。今はその先輩方とやらに、話を聞きに行くのが先だよ。フィデス、逃がしたらお仕置きだよ?」
カリスがアディたちが来た方へと歩いていき、それにしぶしぶフィデスがついていった。
「はい、アディ。忘れ物だよ。また後でね」
ルナが、剣をアディへと手渡してくれた。アディは意外でルナへと訊ねる。
「あれ、ルナはカリスについていくのか?」
「うん。僕もちょっと、用が出来たからね!」
ルナは小悪魔的に人差し指を口に当て、あざとく笑ってウインクした。
なぜだか分からないが、機嫌良くカリスの後を追っていった。
――なんか怖いけど、考えないようにしよ。
アディは疑問をそっと胸にしまって、ユニタスとともにマーレのいる応接室へと向かった。




