第12話 知的好奇心が勝りました。そうなるともう試すしかない。
「《プロヴォーク》」
カチリ。欠けたピースが埋まるように、それは当然として起こった。
「――ご期待にそえようかぁ!」
三人の形相が瞬く間に憤怒へと変わる。アディが不意を突いたとはいえ、術のかかりやすさや反応が、そこらの子どもと同じではないかと冷静に思う。
「……ユニタス、悪い」
ユニタスへ謝りつつ、身体強化で横抱きにさせてもらった。
以前、ルナにしたように肩に担ぐのは、背も体格も劣るためアディには無理だ。
これで万が一の場合、回避も逃走もしやすいと前をじっと見た。
「《ボルト》」
「《ゲイル》」
「《フレイム!》」
――へえ。全員、詠唱短縮の中級か。
感情的に放たれた魔法は、一応形を保っていた。
仮にも上級生ということだろう。それが発動が遅くて、無駄が多く精度が低いとしても。脳筋のフィデスの初級より、目の前の魔法が劣るとしても、だ。
――せっかくだ、利用させてもらおうか。
支援魔法でヘイトをアディへと向けたわけだが、あまりのチョロさに毒気が抜かれる。
攻撃魔法をエネルギーとして捉えて、アディはイメージを固める。
「《コンバート・ヴァイタライズ》」
アディは、相手に掛けたヘイトごと、三種の攻撃魔法を目の前で吸収し、そのままユニタスへと魔法を変換し注いだ。
「「「……は?」」」
放った魔法が無かったことになって、彼らは驚いたことだろう。
アディの詠唱に対して、三者異口同音の間抜けな台詞が聞こえた。
ユニタスの魔力の流れにおかしなところがないか、アディはじっと見て確認する。
――うまくいったみたいだな。
視線を前へと戻せば、全員が地面にへたり込んでいた。
三人とも綺麗にポカンと口まで開いて、ただ呆然としていた。
まさに滑稽の一言に尽きる光景だろう。
「先輩方、校舎内での攻撃魔法は危険ですよ。これ以上は、問題になってしまいます。指導は適切な場所が望ましいかと。
私なら、いつでもお引き受けしますので。今後は、お相手を間違えませんようにお願いいたします」
余裕の微笑みでアディが告げれば、顔を真っ赤にしてリウィドゥスたちは、アディを見上げてくる。怒りか、羞恥か、あるいはどちらもか。
――これで上級生とはなぁ。ま、支援魔法。コイツらは習いそうにないし。何されたか、分からねぇだろ?
アディにとっては低コストで、相性の良い支援魔法。前世のゲーム感覚で言うなら、あって当然のカテゴリーだ。
しかも詠唱とイメージ力さえあれば、他ゲームの魔法も転用出来たりした。
乙女ゲームをよく覚えてなくても、アディが過ごせる理由の一つだった。
けれど、この世界では他者に影響を与える魔法は、それなりに慎重かつ厳正に扱われている。
支援魔法を習うのは、高学年の上位クラスだけという徹底ぷりだった。
――まぁ、薬も過ぎたれば毒だしなぁ。
人体の害にならないよう、支援魔法は精密な魔法コントロールが必要なのだ。
攻略対象の支援魔法の使い手、兄セレーヌス。チュートリアルのサポートキャラのアディウートル。
総じてクストス家は、これに長けている傾向があった。
初期強化に使われる消費キャラにだって、ちゃんと由来があるのだった。
「アディ、お前……」
ユニタスも、自身の変化に驚いているらしい。その様子からちゃんと成功して何よりだと、アディは満足そうににんまりと笑う。
《コンバート》や《ドレイン》などは、相手がいて初めて使える魔法。アディは実は初使用だった。
――セレ兄さんには、授業範囲でって言われたけど。ここ、非公式だから良いよな?
相手も、わざわざ言いふらしたりはしないだろう。さらに自身の格を下げるだけなのだから。
バタバタと遠くから駆けつけてくる気配も感じて、アディはリウィドゥスたちへと挨拶をする。
「では、昼休憩が始まってしまうので失礼しますね」
アディは今度は下級生らしく、申し訳なさそうな笑顔を向けた。挑発的な態度を止めて、思考を切り替える。
リウィドゥスたちの横を通り抜け、マーレが待つ応接室へとアディは向かった。
――成長期の男児。お昼は抜けないって。
三人が見えなくなって、ユニタスがアディの腕から飛び降りた。
「アディ! 俺はもう良いから、いつまで抱いてんだよ。恥ずかしいわ!」
「お、元気そうでよかったな」
「お、じゃねぇよ! 一人で何しに来てんだよ!」
アディがユニタスを見て、何もなかったように言う。それに、彼はギャンと吠えてきた。耳まで赤くなっていて逆に面白い。
「いやだって、授業始まってるのに教室にいないからさー。そりゃ気になるって」
アディは廊下を歩きながら、ユニタスへもっともらしいことを言った。
「だからって、相手は上級生の侯爵家長男だぞ! それをアディ、お前は!」
「ユニタス、俺も侯爵家三男だぞ。元気そうだけど、俺の主治医に見てもらうから、ついてこいな?」
晴れやかに権力をちらつかせ笑ったアディに、ユニタスはぐっと押し黙って隣を歩いた。
「……サンキューな」
「クラスメイトだろ、当然じゃん」
そっぽを向いて礼を言うユニタスに、アディはただ笑うのだった。




