第5話 第二の人生、一番頑張ったのはテーブルマナーです
「アディ、学校はどうだった?」
「はい、母様。学友が出来ました」
アディは前世で、学校に通って卒業済みだ。ボロが出ないよう、ここは無難に笑顔で返しておく。
――確か成人してたよなぁ?ゲームに課金とかしてたし。あんまり覚えてないんだけど。
入学祝いと言うことで、夕食は普段より豪勢なコースになっていた。
アディは今世で一番習得に苦労したテーブルマナーを駆使し、ステーキを口に運ぶ。
口内で肉汁が溢れ、肉が溶けて消えた。
――ん~~。貴族万歳!
「……あと、セレ兄さんが、とてもかっこよかったです」
「こらこら、祝辞を述べただけじゃないか」
「セレ兄さんはもっと、自分のスペックを自覚なさるべきです!
女生徒が頬を赤らめておりましたよ!ファンクラブ待ったなしです」
「それで言うならアディもだろう?
学年成績三位のAクラス。なかなかなれるものじゃないよ」
笑顔で話題を変えて称賛するアディに対し、セレーヌスは苦笑いを返した。
――もしや、もうファンクラブがあるのか。セレ兄さん!
「アディは勤勉だものねぇ」
すごいわぁと母まで褒めてくる。
むず痒くてやめてほしい。こちらは人生二回目なんだ。
「私がすごいわけじゃないですよ。Aクラスのケレス君も後期入学組です」
ひきつりそうになった笑顔を整えて、アディは今日知り合った攻略対象の名を口にする。
「ああ、彼は実技が学年の中でも、ずば抜けているんだよ」
――なるほど、ケレス君は実技……魔法か剣が強いのか。ん?
「……セレ兄さんは、全校生徒の成績が頭に入っているのですか?」
「はは。さすがに全員は把握していないね。可愛い弟の周りだけだよ」
綺麗な所作でメインディッシュを食べているセレーヌスは、なんてことないように答えた。
明言せずはぐらかしたセレーヌスのその言動に、アディは確信する。
おそらくセレーヌスは、全学年の上位と下位クラスの主要生徒なども把握しているだろう。
――さすが年上攻略対象。ハイスペックめ。
兄の有能さにアディは、惚れ惚れする。
一度も比べられずに育ったのは、まさに幸運と言えるだろう。
「それはそうとアディ、本当に寮で暮らすのか?」
「そうよ、アディ。邸から通っても良いのよ?」
終始黙っていた父が、確認とばかりに口を開いた。それに続いたのは、もちろん母だ。
「ありがとうございます。でも、後期からの入学なので、学校に早く慣れたく思います。
……休みの日は邸に帰りますし、長期休みの時は領地へも顔を出しに行きますから」
何度答えたか分からないテンプレートを頭の中から引っ張り出して、アディはすらすらと答える。
ついでに、両親へチラリと上目遣いをするのを忘れない。
こうすれば、大抵のお願いには折れてくれるとアディは知っていた。
――邸でゴロゴロも、捨てがたいんだけどなぁ。
けれど家族と毎日顔を合わせていたら、それこそ前世の学校事情も混ざって、いつかボロが出てしまうだろう。
邸に居たくても、気が休まらないのが本音だった。
寮生活は人生初めてだが、難易度はこちらの方がはるかに低い。
前世と違い貴族の寮生活は個室、家事もしなくて良いからだ。
――寮は人間関係にさえ気をつけていれば、平穏に暮らせるはずだよな。
「私も寮へ申請を出せば良かったよ」
「セレ兄さんは、邸の方が利便性があるので仕方ないですよ。私は、週末には帰ってきますので……」
セレーヌスが寂しそうに言うので、俺はフォローのつもりでそういった。高学年ほど、学園外活動も増えるからだ。
「いや、申請だけはやはり出しておこう。殿下方も部屋持ちだしね」
アディに返ってきたのは、とんでもない爆弾だった。
「……え。カリス様も寮なのですか?」
「おや、殿下と話したのかい?社会勉強のために時々、寮を使ってらっしゃるよ」
「はい、挨拶をしただけですが。そうですか、寮に時々……」
動揺から、俺はセレーヌスの言葉を反復するので精一杯だった。
『気をつけなさい』
思い出したのは、カリスの高くて張りのあるハキハキとした声。
前世でもされたことのない耳元への吐息の刺激。
言われたことは忠告で、全然甘くもないのだが、自然と顔が熱くなる。
――初対面の相手にあれだぞ。同じクラスでさらに寮生活まで加わったら……。
さらにセレーヌスは、殿下方と言わなかったか。まさか、あの公爵令息の三人も一緒なのか。
「あら、アディ。顔が赤いわ、疲れたの?まさか熱を?」
ぐるぐると考えていたら、母に声をかけられた。
バクバクと心臓の音がうるさくて、何を言われたのかアディには分からない。
「あ、大丈夫です!なんでもありませんっ」
向かいに座る母の視線を避けて、アディはデザートを素早く食べた。
「明日からの学園に備えて早めに休もうと思います。失礼します」
――俺、男だからな!?
アディは自室へと逃げるように向かった。




